見えない攻撃 その③
鏡面の記す世界の
美しき湖畔の遠影
半歩踏みしめて行く
中秋の名月
3
「架陰、大丈夫?」
「はい。今のところは・・・」
架陰は目から流れ出した血液を拭う。
血が流れるだけだ。目眩や頭痛などは無い。
「なかなか厄介ね・・・」
クロナは歯軋りをして、上空に浮かぶモスマンを睨んだ。
モスマンは、複眼をぎょろりと動かしながら二人を見下ろしている。
分からない。
モスマンの攻撃が分からない。
「とりあえずわかったのが、モスマンの衝撃波を喰らえば、出血する。躱しても出血するってことよね・・・」
「どういう仕組みなんでしょうね・・・」
「私の【明鳥黒破斬】も、あんたの【悪魔大翼】も、モスマンに命中する前に軌道を変えて背後に流れてしまうから・・・」
「攻撃を当てることもできませんよ・・・」
「ほんと、厄介だわ・・・」
こういう、未知の敵との戦いが一番嫌いだ。
前例が無いから、倒す術が見つからないから、一つ一つ手探りで戦っていくしかない。その分、身の危険も高まる。
(・・・ここは、一旦引くべきかしら・・・)
そう決めたクロナは、架陰に指示を出した。
「架陰。ここは、一時撤退よ」
「え、でも・・・」
少し迷ったような素振りを見せる架陰。気持ちは分かるが、このままだと二人ともやられかねない。
「つべこべ言わずに、撤退よ!!」
クロナはきつくそう言うと、自分の能力を発動させた。
「能力【黒翼】!! 発動!!」
ハンターフェスの、百合班・班長との戦いで目覚めた、クロナ自身の能力。
着物の布を突き破り、彼女の肩甲骨付近から二対の黒い翼が生える。
「さあ、早く!!」
クロナは架陰の手を取った。
すかさずモスマンが追跡してくる。
クロナは、背中に生えた大翼を大きく羽ばたかせて、一気に空へと飛び立った。
「く、クロナさんっ!? それは!!」
「これが私の能力、【黒翼】よ。なんか知らないけど、ハンターフェスの時に使えるようになったのよ・・・」
架陰を背負ったクロナは、翼を速く仰いで加速した。
山肌を滑るようにして、飛行する。
ちらりと振り返れば、モスマンが蛾の羽根を高速で振動させながら追跡してきていた。しかし、クロナのスピードには遠く及ばず、すぐに引き離せれる。
「とりあえず、距離を置くわ。モスマンの攻略法を考えるのはそれからよ・・・!!」
「はい!!」
モスマンの追跡を躱したクロナは、旋回して森の中へと入っていった。
しばらく木々を抜けながら移動して、岩場の近くで着地する。
それから、能力を解いて架陰を下ろした。
「ここまで来れば大丈夫でしょ」
「はい。ありがとうございます」
架陰は刀を鞘に収めた。
それから、辺りを見渡してモスマンが追ってきていないか確認する。
大丈夫。モスマンどころか、他のUMAの気配も感じない。
「岩陰に身を潜めるわ」
「はい」
休める場所を探して歩き始めるクロナの背中を、架陰は追いかけた。
ゴロゴロとした岩の近くを歩いていると、二人が入っても十分な隙間がある岩陰を発見した。
とりあえずその中に入り、腰を落ち着かせる。
「ああ、疲れた」
クロナは、着物の袖から回復薬の【桜餅】を取り出して、一口齧った。つられて、架陰も桜餅を齧る。
「能力使うと、こんなに消耗するのよね」
「そうですかね?」
「あんたは慣れてるからでしょうが。私の場合、つい先日に覚醒したばかりだからしょうがないのよ」
クロナは岩に背をもたれると、目を閉じた。
閉じたままの状態で、モスマンとの戦いを振り返る。
「あいつ、強いわよ。【A】ランクより上ね」
「はい。確かに、あの強さは吸血樹の比じゃないですよ」
「まず、さっきの交戦でわかったことが三つ」
クロナは指を三本本立てた。
「一つ。衝撃波を受けると、吹き飛ばされるだけじゃなくて、出血する。という追加効果がある」
「二つ目は、『攻撃を躱しても出血する』ってことですよね?」
「その通り。そして、もう一つが、『攻撃を仕掛けると、直前で軌道が変わる』ってことね」
「あれ、どういう仕組みなんでしょうか・・・」
「まあ、何となく原理は想像できるけどね・・・」
「え、ほんとですか?」
目を丸くして身を乗り出す架陰に、クロナは説明した。
「多分・・・、何か、【結界】のようなものを張ってる・・・。思い出してみてよ、あんたの初めての任務の時の【ローペン】を」
「ああ。ローペンの【風】の能力ですね」
「その通り。あの時は、ローペンは自分の周りに風を旋回させて、攻撃の軌道を逸らしていた。多分、今回もその原理だとは思う」
「ってことは、モスマンも【風】の能力を所持しているってことでしょうか?」
「そこよね」
肝は、そこだった。
「モスマンは【音】を発していた。出現時に【モスキート音】。攻撃を発する時に【金属音】。やつが行動をする度に、なにかの音が発せられる・・・」
「つまり、モスマンは、音に関する能力を使っているってことでしょうか・・・」
「その説はあるわね・・・」
クロナは力強く頷いた。
「じゃあ、結界か何かを展開するよりも先に攻撃を仕掛けることが出来れば・・・?」
第100話に続く
第100話に続く




