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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
334/530

モスマン その③

苔色の渦に火をつけて


白樺の香りの中


縁側に座り込む


夏の大輪

3


「架陰、大丈夫?」


「はい。何とか」


架陰は、足元に転がったローペンの死骸を眺めながら頷いた。


「にしても、いきなり襲って来たわね」


「そうですね」


腰の鞘に刀を収める。


先程は必死だったために分からなかったが、鉄火斎から借りたこの【名刀・赫夜】の切れ味は素晴らしかった。


(まるで、豆腐でも切っているみたいだ)


もうひとつの赫夜では、ここまで切れ味が良いということはなかった。


「それより、どうする?」


クロナは、足袋を履いた足で二体のローペンの死骸を指した。


一匹は、何者かによって食い尽くされたローペン。もう一匹は、架陰によって首を落とされたローペンだ。


「とりあえず、この二体のUMAを回収するか、このまま、ローペンを捕食した犯人のUMAを探すか」


架陰は力強く頷いた。


「もちろん、探しに行きましょう」


「決まりね」


一旦、その二匹の死骸は置いておいて、二人は再び目当てのUMAを探して歩き出す。


その瞬間、再び、先程の「モスキート音」が二人の耳の奥に響いた。










キーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーンキーン










「クロナさん!!」


「ええ、また響いてる!」


二人ともすぐ様神経を集中させて、音の出処を探した。


しかし、この空間全体から響いているような錯覚に襲われ、またもや特定が出来なくなる。


クロナが苛立ったように舌打ちをした。


「どうなってるの!?」


「どこから音が出ているのか、分かりません!」


モスキート音に重なるようにして、バサリバサリと、羽音が聞こえた。


どこから聞こえるのか分からないモスキート音に対して、羽音は二人の真上から聞こえてきた。


ハッとして顔をあげる。


「っ!!」


「あれは!!」


二人とも息を飲んだ。


上空に、人型の生物が浮かんでいた。


遠目のために、その全長ははっきりとしないが、二メートル以上はあるだろう。全身、真夏の影を切り取ったかのように真っ黒で、毛むくじゃら。


腰から伸びる二本の足は、土偶のように太く短い。


腕は無く、その代わりに、背中の辺りから左右二対ずつ、昆虫のような翼が生えていた。


それをひたすらに、バサリバサリと動かしながら、その化け物は二人の目の前に舞い降りてきた。


リンゴ大の眼球が二つ。いや、二つとは語弊がある。


眼球の中に、小さな眼球が複数詰まっており、【複眼】であるということが確認された。


口は毛に覆われてどのような構造をしているのか分からないが、先程食らったローペンの血液がベッタリと付着している。


「・・・!! こいつは!!」


「架陰!! 下がって!!」


クロナが、架陰の手を引いて自分の背中に回した。


有無を言わさず、先手必勝とばかりに、着物の袖から取り出して【煙玉】を化け物に向かって投げつけた。


ボブッ!!と白い煙が立ち込め、化け物の視界を奪った。


「引くわよ!!」


「えっ!?」


走り出すクロナ。


それを追う架陰。


「クロナさん!? どういうことですか?」


「いいから走って!!」


クロナは額に汗をかき、かなり焦っている様子だった。


走りながら、あのUMAについて説明をする。


「あれは、【モスマン】よ!!」


「もすまん?」


「ええ。ランク【A】の強力なUMA」


「ランクAなら、吸血樹と変わらないじゃないですか!!」


「馬鹿ね!! モスマンはとにかくやばいのよ!!」










背後から金属と金属を擦り合わせるような奇怪な音が響いた。


キイッ!!


と、二人の耳に届いた瞬間、背中に衝撃を受け、吹き飛ばされる。


「おわっ!!」


「キャアッ!」


架陰は空中で身を捩り、体勢を整えるとクロナをお姫様抱っこの形で受け止めて、ゴツゴツとした岩場に着地した。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃないわ・・・」


見れば、クロナの猫のような目からどろりと血が流れていた。


「クロナさん!! 目から血が!!」


「馬鹿ね。それはあんたもでしょ?」


そう言われて、架陰は着物の袖で目を拭った。


血の涙が滲んでいた。


「・・・、これは、どういうことだ?」


「モスマンの攻撃を食らったのよ。思ったよりも強力だわ」


クロナは血の涙を拭い、自分の力で立った。


「お兄ちゃんの資料に書いていた通り、【モスマン】から放たれる衝撃波は、敵の平衡感覚を狂わせ、気圧の変化による出血を引き起こす・・・」


バサリバサリと羽音が近づいてくる。


煙が晴れて、モスマンが姿を現した。


「架陰。どうする?」


「どうするって・・・」


架陰は答えるよりも先に、腰の刀を掴んでいた。










「やるしか、ないでしょう」










第99話に続く

第99話に続く

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