【第97話】 魔影石採集クエスト その①
星降る夜に山頂に立ち
囲炉裏に灯す火にて鍋を食む
1
「改めて自己紹介させて貰います」
二代目鉄火斎は、囲炉裏の前で正座をすると、ぺこりと三人に頭を下げた。
「オレの名前は、UMAハンター、桜班下っ端市原架陰専属の【匠】をしている、【二代目鉄火斎】だ」
「よ、よろしくお願いいたします」
急な手のひら返しを見せてきた鉄火斎に、架陰達は若干引き気味に頷いた。
「この山の中に工房を構えて、この山から採れる素材を使って、主に【刀】を制作しているぜ」
見れば、鉄火斎の住居の土壁には何十本もの刃物が飾られていた。
包丁。ナイフ。刀。剣。鋏に鍬。
クロナが恐る恐る手を挙げた。
「一応聞くけど・・・、あんた、何歳?」
「あ? オレの歳か?」
「うん。随分と若く見えるけど」
「あたぼうよ。オレはな・・・、ええと、何歳だっけ?」
急にとぼける鉄火斎。
「待てよ。今数えるから・・・、ええと、確か、ひひふぅみい・・・、あ!! 十五歳だ!!」
「十五歳!?」
架陰とクロナは同時に顔を見合せた。
市原架陰と雨宮クロナは十七歳。
つまり、鉄火斎は年下。ということになるのだ。
「若い!!」
「若いですね!!」
「若いっていいわね」
何故かアクアが覇気のない声を出す。
「あれ、アクアさんって、何歳でしたっけ?」
「架陰。レディには年齢を聞くものじゃないわよ」
「架陰。アクアさんは二十五歳よ」
「なぜばらす」
アクアの年齢はどうでもいいとして、やはり気になるのは鉄火斎の年齢だった。
架陰が身を乗り出して聞く。
「鉄火斎さん。どうして、そんなに若いの?」
「ああん? そりゃ、刀匠になるのが早かったからだろ」
「いや、それは分かるけどさ」
「五歳の時から、刀を打ち始めたからな」
鉄火斎は「それより」と言って話を変えた。
先程架陰から受け取った、【名刀・赫夜】の残骸を手に取る。
「これはひどい。よくも人の造った刀を折ってくれたよな」
「すみません・・・」
また先程のように殴りかかってくるのかと思えば、鉄火斎は穏やかな口調で聞いてきた。
「それより、どうだった?」
「どうだった?」
「馬鹿だな。斬れ味だよ。斬れ味。オレの打った【名刀・赫夜】の斬れ味だよ!」
「ああ。良かったですよ」
「それじゃ分からねぇよ。もっとさ、こう、具体的に!」
と言われても、架陰にはよく分からなかった。
UMAハンターになりたての頃に支給されたのが、【鉄刀】。それがバンイップによって折られたから、二本目となる【名刀・赫夜】を手にしたのだ。
具体的に言え。と聞かれれば、「鉄刀より断然良かったです」だった。
「前の、【鉄刀】よりかは・・・」
「あたぼうよ」
何故か得意顔の鉄火斎。
「あんな量産型の刀と一緒にするな! オレの造る刀は天下一品なんだからよ!!」
そう言って立ち上がると、傍にあった箪笥の方へと歩いていく鉄火斎。
引き出しを開けて、細長い桐の箱を取り出した。
「おらよ」
「え、なんですか? これ?」
架陰は受け取った桐の箱を開けた。
中には、紫色の布に包まれた、細長いなにかが収められていた。
「これは、刀?」
「刀に決まってるだろ?」
架陰は布を取り払い、刀を取り出す。
それは、【名刀・赫夜】だった。
漆ヤスリ塚紐、鍔など一切無い。何の装飾もなされていない、シンプルなデザイン。
ヤスリだけ丁寧にかけられ、柄の部分の木材は吸い付くように滑らかなだ。
「これは、名刀・赫夜?」
「そうだよ」
「うわ! 二本あるんですか?」
架陰は喜びの声を上げて、刀を抜いた。
刃の色が、こちらの方が若干白銀な気もするが、正しく、【名刀・赫夜】だった。
これには、クロナもアクアも驚いて架陰の手元を覗き込んだ。
「なによ。新しい刀を打たなくても、予備の刀があったのね 」
「馬鹿。その【名刀・赫夜】は、オレの師匠のものだよ」
「え、師匠?」
その時、架陰の脳裏に【架陰奪還作戦】の時の光景が浮かんだ。
「その【名刀・赫夜】は、一代目鉄火斎が打ったもの。それを真似して打ったのが、お前が今回折っちまった【名刀・赫夜】だ」
つまり、今握っているものが、【名刀・赫夜・オリジナル】で、今までに架陰が使ってきたものが、【名刀・赫夜・模造品】ということになるのか。
「しばらくその刀を貸してやる。オレが、お前の新しい刀を打つまでの【レンタル品】だ」
「じゃあ、刀自体は造ってくれるんですね?」
「造るに決まってるだろ。オレは職人だぜ? 師匠の造った刀を渡してことを済ませるつもりはねぇよ」
そういうと、鉄火斎は着物の袖をまくった。
ペロリと上唇を湿らせる。
「じゃあ、今から、お前たちに【UMA討伐】の任務を課す」
「UMAを?」
「ああ。刀を造るにはまず鉱石が必要になる。その鉱石を守っているUMAを、討伐してもらうぞ」
久しぶりのUMAハントの時間だった。
その②に続く
その②に続く




