新章・二代目鉄火斎編開幕 その③
刀匠の誇りを胸に
進むは
鋼鉄の時代
3
ぱちぱちと火花が弾ける囲炉裏を取り囲んで、アクア、架陰、クロナは座った。
「おらよ」
目の前の少年が、陶器の湯のみに緑茶を注ぎ、三人に出した。
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
三人同時に受け取り、三人同時に啜る。
「あ、意外に美味しい」
クロナが率直な感想を洩らすと、男の子は目を釣りあげてクロナに食ってかかった。
「おい、アマ。どういう意味だ? オレの淹れた茶が不味いわけないだろ?」
「いや、うん。すみません」
「なんたって、山の中で採れた茶葉を使ってるからな!!」
怒ったり得意げになったり。情緒が不安定な男の子だった。
男の子は、囲炉裏の前で足を崩して座ると、「で、なんの用だよ?」と、三人の来客に尋ねた。
「ああ、そのことなんですけど・・・」
架陰はようやく本題に入った。
学ランのポケットから、布に包まれたものを取り出し、男の子・・・、自称【二代目鉄火斎】に手渡した。
「ん? なんだこれ?」
二代目鉄火斎は、首を傾げながら、布を剥ぎ取った。
勢いよく開いたために、中のものが床の上にゴトッと落ちる。
それは、【名刀・赫夜】の柄だった。
「おう・・・、これは・・・」
鉄火斎はそれを拾い上げる。
すうっと彼の顔から血の気か引いた。
と思えば、直ぐに真っ赤に染まる。
「おいてめぇ、これは一体どういうことだ?」
「つまり、そういうことです」
「よく見ろやぁ!!」
架陰に、折れた刀を突き出す鉄火斎。
「おい!! どうした!! 刀身はどうした!! どこにやった!!」
「ここにあるわよ」
今に架陰に殴り掛かろうとする鉄火斎に、アクアが布の包みを渡した。
もちろん、布の中には、粉々になった刃があるだけだ。
「おいこら!! これはどういうことだよ!!」
「つまりこういうことです」
「折れてんじゃねぇか!!いや、砕かれてるじゃねぇか!!」
「そういうことです」
「ああクソ!! まじかよ!! なんで壊すかな? これはオレの力作だったんだぞ!? 【名刀・赫夜】!! オレが心血注いで造った最高の刀だぞ!!」
「すみません・・・」
架陰は何も反論が出来ぬまま、頭を下げた。
その頭を、鉄火斎は鷲掴みにして上下に揺さぶった。
「てめぇか!! てめぇがオレの刀を折りやがったのか!!」
「はい・・・」
正確には、スフィンクス・グリドールに折られたのだが、架陰の未熟さ故とも言うべきだった。
架陰では話が先に進まないと思ったのか、アクアが二人の間に割って入った。
「それで、【二代目鉄火斎】さん。あなたに、市原架陰の新しい刀を打ってもらいたいのだけど・・・、いいかしら?」
「ああん?」
赫夜の柄を握りしめたまま、二代目鉄火斎は凄んだ。
「オレの刀だぞ? 使い手がお粗末じゃない限り折れるわけがねぇんだ!! つまり、この男はお粗末ってことだろうが!! そんな奴に、オレは刀なんて打ちたくないね!!」
「まあ、そう言わず」
アクアは、架陰と鉄火斎を引き剥がした。
「お願いよ。だって、あなたは【匠】でしょ?」
「あたぼうよ!! オレは、UMAハンターがUMAを倒せるように刀を打つのが仕事なんだからな!!」
「だったら造ってよ」
「それとこれとはわけが違うんだよ!!」
そっぽを向いてしまう鉄火斎。
お茶を飲み干したクロナは、床に湯呑みを置いて、架陰に耳打ちをした。
「なんか、予想通りって感じね」
「そうですね・・・」
完全に職人気質だ。
自分が打った最高の刀を壊されて、かなり頭に来ている感じだ。
「どうしましょう・・・、これ、もう刀を打ってもらえないんじゃ・・・」
「仕方ないわね」
そう言ったのはアクアだった。
「刀を打ってもらえないのなら、仕方ないわ。いきなりあなたの工房に押しかけた私たちにも非はあるし・・・」
お茶を飲み干すと、すくりと立ち上がった。
銀髪を翻して、架陰とクロナの方を向く。
「二人とも、帰るわよ。架陰。あなたには申し訳ないけど、支給品の【鉄刀】があるから、しばらくはそれを使いましょう」
「え、でも、刀は・・・」
「【二代目鉄火刀斎】さんは、あなたの担当の【匠】だったけど、刀を作ってくれないというのなら、契約をしている意味はないわ。また別の【匠】を探すわ」
「え、おいおい・・・」
家を出ていこうとするアクアの袖を引いて引き止めたのは、鉄火斎だった。
「おい、帰るのかよ!」
「そうだけど?」
「契約を解除するのか?」
「そうだけど?」
「まてまてまてまて」
急に慌て始める二代目鉄火斎。
「契約を解除ってことは、オレはSANAから援助金が貰えないんじゃ・・・!」
「そうだけど?」
素っ気なく言い放つアクア。
「わかってる? あなた達【匠】は、本来は銃刀法違反なのよ?それが許されるのは、SANAが許容しているから。SANAの保護がなければ、あなた達匠は直ぐに警察行きだろうね」
「は、はは・・・」
引きつったように笑う鉄火斎。
「やらせてください」
第97話に続く
第97話に続く




