かぐや姫の昇天 その③
砂漠の砂に押し付ける
我が額は
日輪の姿を焼き付けて
3
これで終わりだ。
襲撃してきたクロナを切り伏せたスフィンクス・グリドールは、確信した。
もう、邪魔者は居ない。
椿班・班長【堂島鉄平】・・・戦闘不能。
椿班・副班長【山田豪鬼】・・・戦闘不能。
百合班・四席【葉月】・・・戦闘不能。
薔薇班・班長【城之内花蓮】・・・戦闘不能。
桜班・三席【雨宮クロナ】・・・戦闘不能。
そして、市原架陰ももう動けない。
(もう、終わりにしよう)
スフィンクス・グリドールは、ゆっくりと市原架陰に近づいた。
市原架陰は、抵抗しようと必死に藻掻くが、腕が上がらない。脚が動かない。
全ての力を使い切ったのだ。当然のことだった。
スフィンクス・グリドールは、市原架陰に手を伸ばした。
少し計画と違うが、これでいい。これで、市原架陰の検体は手に入った。
(これで・・・、僕の研究はまた一歩進む・・・!!)
その時だった。
ピリッ!! と、架陰に伸ばしたスフィンクス・グリドールの指先が痺れた。
まだ架陰が何かを仕掛けていたのか。と、警戒したスフィンクス・グリドールは手を引いた。
その瞬間、スフィンクス・グリドールの視界にノイズが走った。
「え・・・!?」
これから何が起きるのかも理解出来ぬまま、スフィンクス・グリドールは意識を失っていた。
※
「はっ!!」
気がつくと、スフィンクス・グリドールは闇の中に立っていた。
暗闇。
足元の感触はまるでクッションの上にいるかのようにふわふわとしている。
果てが見えない、宇宙のような空間だった。
目の前がぼんやりと明るくなり、一匹の生物と、一人の男が姿を現した。
「っ!! 君たちは!!」
一人は、黒いスーツを身にまとった、長身の男。見た目からして、外国人。アメリカ辺りの出身だろうか。金色の目が、スフィンクス・グリドールを見据えた。
そして、もう一匹が、身体中を爬虫類のような鱗で覆い、蛇のような頭を持つ化け物。
【悪魔】だった。
「悪魔・・・!!」
ということは、ここは架陰の精神の中。いや、悪魔と、ジョセフが、スフィンクス・グリドールの精神の中に入り込んで来たと言うべきか。
「なんだい? 市原架陰の精神に取り憑いている君たちが、僕になんの用だい?」
動揺を悟られまいと、強めの口調で言う。
悪魔は、耳元まで裂けた口でニヤリと笑った。チロチロと蛇のような舌が顔を覗かせる。
「貴様・・・、気ガツイテイナイノカ?」
「は?」
「貴様ノ能力ガ・・・、弱体化シテイルコトニ・・・」
「僕の能力が、弱体化?」
言っている意味が分からない。
わからぬまま、惚けていると、悪魔の隣に立っていたジョセフが口を開いた。
「こんにちは。スフィンクス・グリドールさん。僕は、ジョセフ。この悪魔と一緒に、架陰の精神の中に住み着いている者さ」
「ジョセフ・・・だと?」
「まあ、名前くらいは聞いたことがあるかな? 今はそういう話をしているつもりではないけど・・・」
「・・・、ああ、そんなことはどうでもいい。僕の能力が弱体化したって、どういうことだ・・・?」
「そのまんまの通りだよ」
ジョセフは、隣の悪魔の肩をぽんと叩いた。
悪魔は鬱陶しそうにその手を払う。
「君の【千里眼】の能力は、君に取り憑いた悪魔からの借り物。強力だけど、架陰に取り憑いた【悪魔】の能力なら、干渉できる」
「っ!!」
スフィンクス・グリドールの脳裏に、先程の光景が浮かんだ。
千里眼の能力を持っていながら、雨宮クロナの襲撃に気が付かなかったことだ。
(あれは、市原架陰に取り憑いた悪魔が、僕の能力に干渉していたからか・・・!!)
「浅ハカダッタナ・・・」
悪魔が言った。
「貴様ハ・・・、市原架陰ノ【赫夜】ヲ折ル事ニ夢中ニナッテ、【悪魔大翼】ヲ受ケル選択ヲシタ・・・アノ時点デ、ワシハ貴様ノ能力ニ干渉シタトイウワケダ・・・」
「へえ、じゃあ、何がしたいの? 市原架陰はもう動けない。僕は何時でも彼を奪うことができるんだけど・・・」
スフィンクス・グリドールがそう言って凄んだ時、悪魔は風船が割れるかのような舌打ちをした。
「馬鹿ガ・・・」
その瞬間、悪魔の口がバキリバキリと開いた。鋭い牙が生え揃うその大顎は、今にもスフィンクス・グリドールを噛み砕こうと迫った。
「っ!!」
スフィンクス・グリドールは思わず目を閉じる。
悪魔は、ピタリと動きを止めた。
「イイカ・・・? 力ノ序列を考エロヨ?」
「ち、力・・・?」
「貴様ガドレダケ悪魔ノ能力ヲ行使シヨウガ・・・、ワシノ方ガ【格上】ナンダゾ? 身ノ程ヲワキマエロ・・・」
第95話に続く
第95話に続く




