かぐや姫の昇天 その②
牛車の行先に
光がありますように
2
「【悪魔大翼】!!!!」
架陰は全身全霊を込めた一撃を、スフィンクス・グリドールに向かって放っていた。
【肆式】で発動できる全ての魔影を収束させた三日月型の斬撃が、地面を割りながらスフィンクス・グリドールに迫る。
スフィンクス・グリドールは、躱さない。
「もういいよ・・・」
失望したようにそう呟くと、握っていた剣を振った。
その瞬間、目に見えない波動のようなものが架陰の全身を襲う。
痛みは無い。しかし、寒冷の風に吹き付けられているかのような、不快な感覚だった。
パキンッ!!!
架陰の刀の刃が、粉々に砕けた。
「えっ!?」
間抜けな声が洩れる。
見間違いではない。
間違いなく、架陰の刀が砕けた。
修復すら困難な程に、粉々に。
キラキラと、雪のように刃の破片が散る。
(僕の・・・!! 赫夜が!!!)
架陰を絶望が襲った瞬間、スフィンクス・グリドールが斬撃に飲み込まれた。
ドンッ!! と衝撃波が拡散する。
地面が砕ける。岩が宙に打ち上げられる。木々がなぎ倒され、目の前を爆塵が覆った。
「くっ!!」
目を襲う砂から顔を覆う。
砂煙は、しばらくの間辺り一面に漂った。
架陰はじっと息を凝らして、スフィンクス・グリドールの動きを見る。
砂煙が晴れた。
「うーん。なかなか良かったよ」
煙の中から、スフィンクス・グリドールが現れた。
架陰は目を見開き、生存している彼を凝視した。
幽霊ではない。
スフィンクス・グリドールだ。
「む、無傷・・・!?」
「ん? ああ、いや、傷は受けたよ?」
スフィンクス・グリドールは白衣の袖を捲りあげて、ぐちゃぐちゃに潰れた右手を出した。手首から上の肉が吹き飛び、骨と腱だけが残っている状況だ。
「でも、この右手を犠牲にするだけで防げたってことだよ」
「っ!!」
架陰は再び刀を構える。
しかし、刀の刀身は粉々に砕けて消えていた。
「・・・・・・!!」
「ごめんね。君の愛刀を折っちゃったね・・・」
心がこもっていない謝罪をするスフィンクス・グリドール。
架陰にとって、謝罪はどうでもいい。
(赫夜が・・・、折られた・・・!!)
折られた。と言えば語弊がある。正確には、「砕かれた」だった。
粉々だ。
足元に、粉々になった刃が散らばっている。
(一体・・・、何をした!?)
考えている暇はない。
あの一撃で、右手の損傷までのダメージを与えることができたということは、もう一撃を喰らわせれば左手。もう一撃で、瀕死のダメージに持って行けるかもしれない。
(だったら!! もう一発!!)
架陰は再び、【肆式】からの【悪魔大翼】を発動しようと試みた。
しかし、身体の力がガクッ!と抜けて、荒れた地面の上に片膝をつく。
貧血を起こしたときのように、頭の中が揺れて呼吸困難を引き起こした。
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・!!!」
「どうやら、体力が尽きたみたいだね?」
「くっ!!」
「そりゃそうだよ。あれだけの高火力の一撃を放てば、直ぐに動けなくなる。エネルギーってのはプラマイゼロなんだからさ?」
立っていられない架陰に対して、スフィンクス・グリドールは余裕の表情。
右手首からは相変わらずに血が滴っていたが、腕を割いた布で結んで止血する。
「これ以上は、回復薬を使うことができないんだ。良かったじゃないか。僕の右手は封じたよ? まあ、左手があれば十分なんだけど・・・」
スフィンクス・グリドールは、左手に握っていた剣を地面に突き立てる。
そして、左手を架陰に伸ばした。
「じゃあ、僕の実験施設に来てもらうよ?」
架陰は為す術がない。
その瞬間、聞き覚えのある少女の声が響いた。
「【明鳥黒破斬】!!!」
森の奥から、無数の鴉の羽根が飛んでくる。
「っ!!」
スフィンクス・グリドールはすぐ様身を翻すと、剣を掴んだ。
剣を高速で振って、飛んでくる鴉の羽根をたたき落とす。
しかし、全てを防ぐことは出来ず、数本が胸の辺りに刺さった。
「うっ!!」
よろめくスフィンクス・グリドール。
(どういうことだ? 【千里眼】の能力を持っている僕が・・・、敵襲に気が付かなかった!?)
「架陰!!!」
森の奥から、ボロボロの体をしたクロナが走り込んできた。
「く、クロナさん!!」
「今助けるわ!!」
クロナは名刀・黒鴉を握りしめると、【明鳥黒破斬】の二撃目の体勢を整えた。
「明鳥・・・!!」
それよりも先に、スフィンクス・グリドールが能力を発動させた。
「【千里眼】・【壱式】・【蛇睨】!!!」
「ひぐっ!!」
左手のひらの眼球に射すくめられたクロナは、ヒキガエルのような呻き声を上げて、その場に硬直した。
「少し黙ってておくれ」
身動きの取れないクロナに向かって、スフィンクス・グリドールは剣を振った。
ザンッ!!
と、クロナの胸に傷が付き、血が吹き出す。
「がはっ!!」
クロナは白目を剥いて、仰向けに倒れ込んだ。
「クロナさんっ!!!」
その③に続く
その③に続く




