【第94話】 かぐや姫の昇天 その①
我がものにならぬなら
殺してしまえ
かぐや姫
1
窮鼠猫を噛む。
という言葉がある。
まさに、今の状況はそれだった。
弱い弱いUMAハンター達が、四天王である自分に勝とうと襲いかかってくる。
そして、見事、自分の指先に噛み付いた。というわけだ。
これが、窮鼠猫を噛む。という言葉以外でなんと表せる?
つまり、「噛むことしか出来ない」。
対して、自分は猫。
ネズミの頭をバリバリと砕いて食べることくらい、造作でもないのだ。
「これが僕の愛剣【悪魔に魅入られし咎人の断剣】・・・」
漆黒の刃が、架陰に向けられた。
見ているだけで身が斬れそうな、深い深い黒色。油断すれば、一瞬で喉元を裂かれるような感覚に襲われる。
「・・・・・・っ!!」
架陰は身構えた。
対して、スフィンクス・グリドールは肩の力を抜いて、剣をぷらぷらと振り回した。
「大丈夫だよー。もう少しリラックスしなよ。早く死のうが、遅く死のうが、【死ぬ】こと自体には変わりはないんだからさ?」
「っ!!」
架陰は魔影を纏わせた脚で、強く踏み込んだ。
地面が粉砕して、架陰の身体は一気に加速する。
身体から発せられる悪魔の気配の濃度を、スフィンクス・グリドールから発する悪魔の気配の濃度に合わせ、スフィンクス・グリドールの視覚を憚る。
そして、超高速で背後に回り込んだ。
(行ける!!)
スフィンクス・グリドールは油断している。
この隙を突いて、全力を叩き込めばいい。
「はあっ!!!」
架陰は、スフィンクス・グリドールの背中に向かって刀を振り下ろした。
勢いよく放たれた斬撃は、空を切って地面を粉砕する。
一瞬で、スフィンクス・グリドールの姿が視界から消え失せたのだ。
「っ!?」
「進歩が無い人間は嫌いだよ?」
背後に、スフィンクス・グリドールが立った。
「その技は、僕にはもう通用しない。逆に、僕が君の悪魔の気配に自分の気配を合わせて、君の視界に認識されないようにさせて貰ったよ・・・」
首筋に、黒色の刃が当てられた。
触れただけで、首筋にチクッとしたものが走り、血が滲んだ。
そのまま一思いに引き抜けばいいものを、スフィンクス・グリドールは、剣を引いた。
「さて、次はどう来る?」
「・・・・・・!!!」
スフィンクス・グリドールにとって、こんな戦い、【赤子の戯れ】に過ぎない。
ならば、市原架陰がどう動くのか。どう言った力を持っているのか、研究する必要があった。
「ほらほら、もっと見せてよ。君の【魔影】の能力を・・・」
架陰が振り返る。
スフィンクス・グリドールは、長い脚で蹴りを入れた。
架陰は腕を交差させて防ぐ。
だが、勢いを殺しきれず蹴り飛ばされた。
「ぐっ!!」
「【魔影・肆式】を発動させると、魔影による強化の部位が増える。そして、気配を消すことができる。あとは、反射神経も少し上がるみたいだな・・・」
たった、それだけか。
「残念だよ」
スフィンクス・グリドールは、剣を構えた。
「もう少し、骨のある能力だと思ってた・・・」
「ふざけるなっ!」
架陰は、体勢を整えて着地した。
肩で息をする。額から血が流れる。着物の袖や裾はビリビリに破れ、傷ついた体の部位がむき出しになっていた。
満身創痍。
スフィンクス・グリドールとの戦いの中で負った傷もあれば、今までの連戦の中で負ったものもある。
「【悪魔】と!! 【ジョセフ】さんの能力は、すごいんだ!! つまらない能力なんかじゃない!! 残念だと、蔑まれるようなものでもない!!」
架陰は、無意識のままに、刃に【魔影】を収束させていた。
架陰の脚に、腕にまとわりついていた魔影が、全て、【名刀・赫夜】の刃に集まっていく。
「この能力があったからこそ!! 僕は今まで戦えて来れたんだ!! 鬼蜘蛛との戦いも、この能力が無ければ死んでいた!! 鬼蛙の時も!! 吸血樹の時も!!」
収束した魔影、ピキピキと乾いた音を立てながら変形した。
そして、超巨大な、漆黒の刀身となる。
「見せてあげますよ!! あなたが反応できないくらい速く!! あなたが防ぎ切れないくらい強力な一撃を!!!」
「へえ・・・、こりゃすごいや・・・」
魔影は、全て架陰のイメージによって動く。
だが、収束すれば収束させるほど、自形を保つことができないのがほとんどだった。
その大量の魔影を、今、架陰は完璧に収束させ、一本の大剣に変化させた。
「面白いや!!」
スフィンクス・グリドールは満面の笑みで剣を向けた。
「おいで」
「行きますよ!!」
架陰は、超巨大【魔影刀】を虚空に向かって振り下ろした。
「【悪魔大翼】!!!!!」
架陰の刃から、三日月型の黒い斬撃が放たれる。
それは地面を抉りながら、スフィンクス・グリドールに近づいた。
スフィンクス・グリドールは、それを見て、立ち尽くしていた。
「うん。凄いね」
そう一言つぶやくと、剣を一振した。
「でも、もう終わりにしよう」
その瞬間、架陰の手に握っていた刀に異変が起こった。
パキンッ!!!
「え・・・?」
架陰の握りしめた刀が。
架陰の愛刀が。
その白銀の刃が。
目の前で、粉々に砕け散った。
その②に続く
その②に続く




