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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
316/530

魔影・肆式 その③

紅の


雨降る夜の


漣に


裾を捲るは


秋の朧月



3


(目で追えない・・・!! 速すぎる!!!)


架陰の高速移動を前に、為す術なく蹴り飛ばされるスフィンクス・グリドール。


空中で身を捩り、体勢を整えると、白衣の内ポケットから【回復薬】を取り出した。


「っ!」


気づいた架陰は、再生させまいと、刀を振った。









「【悪魔大翼】!!!」










名刀・赫夜に纏わりついた魔影が、三日月型の斬撃となって発射される。


迫り来る斬撃を前に、スフィンクス・グリドールは、目玉がむき出しになった左手をかざした。


「【壱式】・【蛇睨】!!!」


スフィンクス・グリドールの千里眼の眼球に射すくめられた斬撃は、一瞬にして散り散りになった。


「くっ!!」


架陰は奥歯を噛み締める。


手を誤った。ここは、魔影脚で加速して距離を詰めてから攻撃を仕掛けるべきだった。


その隙に、スフィンクス・グリドールは心臓部に注射針を打ち込み、回復薬を流し込んだ。


スフィンクス・グリドールが開発した回復薬は優秀だ。一瞬にして、彼の傷を癒す。


「さてさて! 反撃と行こうかな!!!」


「返り討ちにしてあげますよ!!」


架陰は再び地面を蹴ると、スフィンクス・グリドールの視界から消え失せた。


「来た!!」


スフィンクス・グリドールは意識を集中させる。











(これは、ただの高速移動ではないね・・・)












二、三発と喰らった為に、架陰の攻撃の仕組みを理解し始めていた。


架陰の魔影【肆式】は、単純に発動できる魔影の量が増えただけでは無い。


脚に纏わせ、脚力の強化。


腕に纏わせ、腕力の強化。


刀に纏わせ、斬撃の強化。


まるで、鎧のように魔影で身体を覆うことで、自分そのものを、一匹の【悪魔】のような姿へと変貌させていく。


(恐らく、その姿は、【伍式】、【陸式】と上がる度に、悪魔へと近づいていくんだろうな・・・)










そして、スフィンクス・グリドールの視界から消え失せる。という現象についてだ。


これは、高速移動と言うよりも、【スフィンクス・グリドールの目を憚っている】という方が正しかった。


先程、堂島鉄平にトドメを刺そうとしたスフィンクス・グリドールは、背後に立つ市原架陰の存在に気づくことが出来なかった。


【千里眼】という能力を持つスフィンクス・グリドールは、気配に敏感だ。まず、気づかないことはありえない。











(つまり、僕と市原架陰は、同族、ということか・・・)











その瞬間、スフィンクス・グリドールは、身を反転させた。


腕を払った場所に、架陰の蹴りが直撃する。


「見きったよ?」


そのまま、右脚を軸にして回転して、架陰の蹴りの衝撃を後ろに流した。


「うわっ!!」


勢い余った架陰は、そのまま、後方に飛んでいく。


何とか、着地した。


「な、なんでっ!?」


何故受け流されたのか分からない様子だった。


再び勝機を見たスフィンクス・グリドールは、ニヤリと笑う。


「言っただろ? 僕は【悪魔】を体内に飼っているって・・・、この【千里眼】という能力は、その悪魔から借りたものだ・・・」


「っ!!」


「対して、君の【魔影】の能力も、君の中に住み着く【悪魔】から借りたものだ。分かるだろ? 僕と君も、借り物の力を使っているってことが・・・」


スフィンクス・グリドールは白衣の袖をまくった。


「集中して見ればよくわかったよ。僕と君から発せられる気配は、【似ている】。きっと、取り付いている悪魔が同種なんだろうね」


架陰の耳元で、悪魔が舌打ちをした。


(アノ男・・・、気ガツイテイタカ・・・)


架陰が、スフィンクス・グリドールの目を憚った方法に。











「木の葉を隠すなら森の中。僕が発する、悪魔の気配に、君の悪魔の気配を練り込み、僕の視界から【認識されない】ようにしたんだろ?」











全てお見通し。


先程、背後に立つ架陰に気が付かなかったのもそのためだ。


ちなみに、架陰自身も気がついていなかった。全て、架陰の中の悪魔がやったことだった。











「魔影の濃度が増した肆式だからこそできる技。そして、悪魔を飼っている僕にだけ使える技だね・・・」













スフィンクス・グリドールは「パチンッ!!」と指を鳴らした。


すると、頭上にヘリコプターが現れる。


「【支給品】を要求するよ。あの武器を頼む」


その一言で、頭上を飛行するヘリコプターから、黒光りする長物が降ってきた。


ドンッ!と地面に突き刺さる。


「じゃあ、少し本気を出しちゃおっかな!!」


スフィンクス・グリドールはそう、遊びに興じる童部のような声を出すと、地面に突き刺さった剣を掴んだ。


一思いに引き抜く。


漆黒の剣。


柄から刃まで、全て真っ黒。


鍔の部分に髑髏の装飾がなされ、眼球の部分が不気味に光る。


「あれはっ!?」


「へへ、いいでしょ?」


スフィンクス・グリドールは、その剣の切っ先を架陰に向けた。












「これが僕の愛剣【悪魔に魅入られし咎人の断剣】だよ・・・」











第94話に続く


第94話に続く

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