魔影・肆式 その②
逃げるな
逃げるな
逃げるな
砂漠で爪を研ぐ
2
「魔影・・・、肆式、発動!!」
架陰はそう宣言した。
その言葉を合図に、泥だらけ、擦り傷だらけとなった架陰の身体の表面から、漆黒のオーラが湧き出す。
その様子を見て、スフィンクス・グリドールは「へえ」と頷き、顎に手をやった。
(肆式? つまり、弍式や参式の上だと言うのか?)
肆式を発動するとどうなるのか。参式とはどう違うのか。
想像するだけで、心臓が高鳴り、好奇心が先行した。
思わず、ニヤリと笑う。
「おもしろい。見せてよ。君の新しい力を」
「見せてあげますよ・・・」
心做しか、架陰の目付きが変わった。
先程も十分と言っていいくらい、鋭く、冷たい目付きだった。しかし、「肆式」と宣言した瞬間から、そこに、底の見えない「殺意」が宿った気がした。
背筋がゾクゾクとする。それが、人間の持つ防衛本能から来るものだとわかった時、スフィンクス・グリドールは初めて「なるほど」と身構えた。
「結構、やばいのが来そうだね・・・」
架陰の両脚に、魔影が纒わり付く。
架陰の両腕に、魔影が纒わり付く。
そして、架陰の刀に、魔影が纒わり付いた。
「・・・・・・、魔影肆式・・・」
架陰の耳元で、ジョセフが囁いた。
「【肆式】を発動すると、発現することができる魔影の量が増加する。その量は、単純に、弍式の時の【三倍】だよ」
「魔影、肆式・・・、【魔影脚】+【魔影拳】+【魔影刀】・・・」
架陰の脚に纏わりついた魔影は、形状を固定して、まるで猛禽類の足のような形となる。腕に纏わりついた魔影は、鉤爪を持つクマの腕のような形に。
そして、刀は、身の丈程の大剣と化した。
「それだけ?」
スフィンクス・グリドールは、少しガッカリした様子で言った。
「単に、魔影の量が増えただけじゃないか。強化する部位の範囲が増えただけ・・・、なかなか拍子抜けなんだけど・・・」
「本当にそうですかね?」
架陰の眼球の血管にも魔影がまとわりつき、見開いた目は赤黒く染まっていた。
その禍々しい姿で見られた瞬間、その場にいる者全ての背筋に冷たいものが走った。
「警告します。油断すると、死にますよ?」
その瞬間、スフィンクス・グリドールの視界から架陰の姿が消え失せた。
「え・・・」
視界から、架陰が消えた。
瞬間移動?
いや違う。先程まで架陰が立っていた地面が粉々に砕けている。
つまり、魔影で強化した脚で地面を蹴り、猛スピードでスフィンクス・グリドールの視界から離脱したということだ。
(一体どこに・・・!?)
スフィンクス・グリドールが、架陰の姿を探して辺りを見渡した瞬間、脇腹に、架陰の蹴りが直撃していた。
「がっ!?」
ボキボキと、肋が砕ける。口から血が吹き出し、受身を取ることも出来ずに吹き飛んだ。
まるで水面を跳ねる水切り石のように、地面の上を跳ねるスフィンクス・グリドール。大木の幹にぶつかって止まった。
「がふっ!!」
喉に吐血が絡まり、上手く息が出来ない。
「はっ!?」
顔を上げると、前方から架陰が迫ってきていた。
すぐ様、脚に力を込めて右に跳躍する。
しかし、架陰は一瞬の判断で軌道を変えると、スフィンクス・グリドールの回避した先に突っ込んで行った。
「ちっ!!」
このままではやられると確信したスフィンクス・グリドールは、先程「使わない」と約束したはずの【能力】を発動させた。
右手を迫り来る架陰にかざす。
「【壱式】・・・!! 【蛇睨】!!!」
裂けた手のひらの皮膚から覗いた眼球が、架陰を睨む。
その眼光に当てられた瞬間、架陰の体はプツンと動きを止めていた。
「ぐっ!!」
架陰は、身体に力を込めて、その束縛を解除する。
簡単なことだ。もしも、生物や物質の動きを封じる【蛇睨】を使用して来たとしても、「自分は負けない!!」という強い精神力があれば簡単に解除することが出来る。
だが、一瞬でも気を失った隙に、スフィンクス・グリドールは地面に転がった鉄棍を拾いあげていた。
「くぅ!」
的に武器を握らせたくなかった架陰は、直ぐ様、刃から黒い斬撃を放つ。
それを、スフィンクス・グリドールは涼し気な顔で弾き返した。
「流れを掴むことだね・・・」
ニヤリと笑う。
「掴んでますとも!!」
その瞬間、再び架陰が視界から消えた。
そして、スフィンクス・グリドールが気配を感じ取って振り返るよりも先に、背後から強烈な蹴りを入れられる。
「がはっ!!」
何が起こったのか分からぬまま、吹き飛ばされる。
空中で体勢を整え、足を擦りながら着地。
顔を上げると、目の前に架陰がいた。
(これはっ!!)
そして、追撃の蹴りが入る。
「がはっ!!」
鉄平のお返しと言わんばかりに、スフィンクス・グリドールの胃袋が破裂した。
(どういうことだ? 目で追えない・・・!! 速すぎる!!)
その③に続く
その③に続く




