【第93話】 魔影・肆式 その①
僕は狼男
月の光を身に浴びて
鏡面にその毛むくじゃらの身体を映す
野犬の群れに紛れて
今日も喉の乾きを覚えている
僕は狼男
隣のフランケンシュタイン君に愚痴をこぼす
1
スフィンクス・グリドールに腹を蹴りあげられた時、架陰は一瞬だけ気を失っていた。
目を開けると、架陰は果ての見えない暗闇の中に佇んでいた。
目の前に、架陰の精神に住み着いている【悪魔】と、【ジョセフ】が立っていた。
ジョセフは、「ごめんね」と言った。
「このままだと、君が倒されてしまうから、一度この世界に来てもらったよ・・・」
「ああ、それは何となく分かります」
架陰は肩身の狭い思いで頷いた。
自ら「スフィンクス・グリドールを倒します」なんて言って飛び出して言った割は、今のところ、防戦一方。スフィンクス・グリドールに有効打を当てることができていなかった。
「それで、何を言いたいんですか?」
わざわざ、架陰の意識を奪ってまで、この【精神の世界】に連れ込んだということは、何か考えがあるということだ。
架陰の期待通り、ジョセフは「君に新しい力を与えようと思う」と言った。
「新しい力?」
「ああ。新しい力だ」
ちらりと、横の悪魔を見るジョセフ。
悪魔は、相変わらず興味が無いような素振りで、そっぽを向いている。
仕方なく、ジョセフは悪魔の代わりに説明を始めた。
「まず。おさらいしよう。君の【魔影】という能力は、僕の【影】という能力と、悪魔の【悪魔】という能力が融合して発言したものだよね」
「はい。それは何度も聞いていますけど・・・」
「そして、【魔影】には、ギアのようなものが存在して、【壱式】、【弍式】、【参式】と発動する度に威力が上がっていく」
簡単に説明すれば、【壱式】は、身体能力と反射神経の向上。
【弍式】は、身体から黒い煙のような、影のような、オーラのような物質が現れ、それを身体の部位に纏わせて、その部分の筋力を向上させることができる。
【参式】は、弍式の二倍量の魔影を発生させることが可能。これにより、身体の部位二箇所の強化が可能になるだけでなく、刃に纏わせれば、【斬撃】として放つことも可能。
「今から教えるのは、【参式】のさらに上を行く、【肆式】だよ」
「肆式?」
「ああ。君の魔影は、新たなステージに向かうことになる」
「だ、だけど・・・」
架陰はぎこちない反応を見せた。
彼の心を察したジョセフは「わかってるよ」と言った。
「【魔影】の出力を上げるということは、融合して釣り合っている【影】と【悪魔】の能力の内の【悪魔】の部分が強くなるということだ。ギアを上げれば上げるほど、君は悪魔に近づいていく」
以前にも、このようなことがあった。
それは、架陰が【架陰奪還作戦】で、初めて【魔影・参式】を発動した時だ。
急激な威力の上昇に伴い、【影】と【魔影】の均衡が破れ、悪魔が架陰の身体を乗っ取って暴走したのだ。
その時は、桜班・総司令官のアクアと、椿班・総司令官の味斗、そして、鑑三によって抑え込まれた。
もし、肆式を発動して、再び悪魔が架陰の身体を乗っ取るようなことがあれば。
「大丈夫だ」
ジョセフははっきりと言ってのけた。
「悪魔とは話をつけてある。【絶対に架陰の身体を乗っ取らない】とね」
すると、隣で聞いていた悪魔が鼻を鳴らした。
「乗ッ取レルモノナラ、スグニデモヤッテヤルサ。ダガ、アノ男ニハ聞カナケレバナランコトガアル。マズハ、アノ男ヲ黙ラセルコトガ先決ダ」
「というわけだ」
ジョセフが半歩前に出て、架陰の肩をぽんと叩いた。
その手のひらの部分から、熱いエネルギーが架陰に注ぎ込まれた。
「さあ、行っておいで。この窮地を、必ず脱するんだ!!」
「はい!!」
架陰は力強く頷くと、現実世界へと戻って行った。
※
「はっ!!」
目を覚ます。
わずか一秒の失神。
その間に、ジョセフと悪魔と対話して、新たな力を手に入れた架陰は、迷うことなく地面に落ちていた刀を拾い上げた。
刃に魔影を纏わせて、一閃する。
「【悪魔大翼】!!!」
黒い斬撃が、花蓮を締め上げるスフィンクス・グリドールに向かって放たれた。
殺気に気がついたスフィンクス・グリドールがすぐ様その場から離れる。
「追え!!!」
架陰は斬撃を構成する魔影に指示を出した。
すると、斬撃はブーメランのような軌道を描いて曲がる。
そして、スフィンクス・グリドールに直撃した。
ボンッ!!!!!
(勝つ!! 絶対に勝ってやる!!)
架陰は、強い意志の元、刀を強く握りしめてスフィンクス・グリドールと対峙した。
息を吸い込み、肺に乾燥した空気を流し込む。
指先がピリリと痺れた。
そして、一発逆転の大勝負に出る。
「【魔影】・・・【肆式】!!!!」
その②に続く
その②に続く




