架陰VS四天王 その③
地に至れり琥珀月
清水を振り掛ける
草木の波動を
3
(いいね、いいね・・・)
架陰と花蓮の連撃をいなしながら、スフィンクス・グリドールはほくそ笑んだ。
弱い。
弱すぎるのだ。
悪魔に魅入られた男【市原架陰】も。この、班長の実力を持つ城之内花蓮も。
全て、スフィンクス・グリドールの手のひらの上。
彼らが振り下ろす斬撃の軌道の全てが、まるで赤子が這うようにゆっくりと見えた。
「あははは!! 楽しいねぇ!! もっとおいでよ!!」
まずは、架陰が低い姿勢から切り上げてくる。
それを防ぐと、次は背後に回り込んできた花蓮が青龍刀のような湾曲した刃を振る。
架陰の切れ味の良い刃よりも、彼女の方が少し厄介だ。
切れ味が良いことは去ることながら、柄に搭載された、特殊繊維で編まれたリボン。これが、彼女が腕を振るう度に、生き物のように蠢いてスフィンクス・グリドールを襲う。
斬れ味は上々。
当たり所が悪ければ皮一枚は切り裂かれる。
(じゃあ、まずはこの子から片付けるか・・・)
狙いを花蓮に絞ったスフィンクス・グリドールは、架陰の斬撃を鉄棍で受け止めると、勢いを利用して彼の足を掬った。
「うわっ!!」
「少し、大人しくしてなよ」
架陰の腹を蹴る。
「がはっ!!」
架陰は胃酸を吐き出すと、その場に蹲った。
「架陰様っ!!」
パートナーのピンチに、城之内花蓮の動きが鈍くなった。
これは好都合。
スフィンクス・グリドールは花蓮との間合いを詰めると、彼女の首を掴んで締め上げた。
「ぐっ!!」
花蓮は蛙が踏み潰されたかのような呻き声をあげた。
スフィンクス・グリドールが腕に力を込めると、花蓮のブーツを履いた足が地面から離れる。
「がっ!! あっ!! あああ!!!」
バタバタと脚を揺らす花蓮。
色白い頬は少しずつ血の気を失っていき、鬱血して青くなっていく。
「あっ!! あっ!! あうっ!!」
「ごめんね。殺しはしないから。だけど、意識は奪わせて貰うよ・・・」
スフィンクス・グリドールは親指に力を込めて、花蓮の意識を刈り取ろうとした。
その瞬間、花蓮は右手に握っていた【名刀・絹道】を振り、真っ白なリボンの部分をスフィンクス・グリドールの腕に巻き付けた。
「っ、つっ!! くうっ!!」
首を締めあげられたまま、挑戦的な目でこちらを見た。
スフィンクス・グリドールは「なるほどね」と頷いた。
「このまま僕が締め上げていたら、腕を切断する気だね」
「っ!! うう、うう!!!」
喉を潰されている花蓮から洩れるのは、死ぬ間際の人間の呻き声だった。
「面白い・・・、お上品な見た目してるけど、なかなか野性的なことをするよね?」
「うっ! あ!! あああ!!!」
「少し黙ろうか・・・」
そう言ったかと思うと、スフィンクス・グリドールは、左手の鉄棍で、首を絞められて宙吊りになっている花蓮の腹を突いた。
花蓮から、声にならない断末魔の叫びが放たれた。
ゴスロリドレスから伸びる華奢な脚から、黄色味がかった液体が伝って、地面にびちゃびちゃと滴った。
彼女が失禁したことに気がついたスフィンクス・グリドールは、直ぐに握力を弱めた。
「おっと、やりすぎると、死んじゃうな・・・」
その瞬間、架陰の叫び声が響いた。
「【悪魔大翼】!!!」
三日月型の黒い斬撃が飛んでくる。
スフィンクス・グリドールは、直ぐにその場から離れた。
「っ!!」
回避したはずだったが、架陰の刀から放たれた斬撃は、まるでブーメランのような起動を描いて、スフィンクス・グリドールに直撃。
ボンッ!!
と、爆破音が響き、スフィンクス・グリドールは花蓮を放り出して吹き飛んだ。
「花蓮さん!!」
投げ出された花蓮が地面に墜落する前に、架陰は彼女を受け止めた。
花蓮は顔を真っ赤にして、ひとしきりに咳き込んでいた。
「げほっ!! がほっ!! はあ、はあ、架陰様・・・、すみません・・・」
「いえ。僕の方こそ、不甲斐ないばかりに、花蓮さんを危険な目に・・・」
花蓮は直ぐに立ち上がろうとしたが、スフィンクス・グリドールに受けたダメージが大きく、自立することが出来なかった。
架陰は彼女を抱え、少し離れた場所の木の幹に移動し、寝かせた。
「花蓮さん。後は僕が何とかしますから、ここで休んでいてください・・・」
「で、でも・・・」
花蓮の目は酷く充血して、涙がボロボロと溢れていた。
そして、失禁して下半身はぐしょぐしょに濡れている。
(戦わせられないな・・・)
花蓮の身を案じていると、背後に誰かが立った。
スフィンクス・グリドールだ。
「残念だよ」
四天王の一人は、そんなことを呟いて、架陰の斬撃を受けて、骨が剥き出しになるほどまでに損傷した右腕を眺めていた。
血がボタボタと滴る。
「薔薇班の子を助けてなければ、君は僕に追撃をして、僕を倒せたかもしれないのにね・・・」
そう言って、無傷な左手を使って、右腕に注射器の針を打ち込む。
「だから、こうやって僕に回復される・・・」
「別に、それでいいですよ」
架陰ははっきりと言い切ると、スフィンクス・グリドールの前に立ち塞がった。
「僕でも、貴方に傷を負わせられるということが分かりましたから」
「言うね」
回復薬を打ち込んだスフィンクス・グリドールの右腕が完璧に再生した。
架陰は刀を抜く。
「さあ、身体も温まってきました」
「へえ、僕はまだ冷たいままだけど?」
「そろそろ、【覚醒】の時間ってやつですよ・・・」
「何それ? 逆転劇でも見せてくれるの?」
「もちろんです」
架陰の身体から、漆黒のオーラが湧き出す。
「【魔影】・【肆式】・・・、発動!!!」
第93話に続く
次回
架陰の【魔影】に新形態が。




