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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
310/530

寄生悪魔恢恢 その③

灰色の眼球の中にある


泥の中で眠る

3


対峙するスフィンクス・グリドールと、市原架陰。


いつ破裂してもおかしくない風船のような、緊迫した空気が辺りを覆った。


地面に倒れていた鉄平は、鉄の味がする口内を湿らせて、言葉を絞り出した。


「気をつけろ・・・、架陰・・・、そいつ、強いぞ・・・」


「・・・・・・、分かってる」


架陰はスフィンクス・グリドールから目を離さずに言った。


この男が強いことぐらい、その立ち姿を見ただけでわかった。


そして、倒れている鉄平と、山田と、百合班の少女。


三人もの猛者が、一瞬で戦闘不能にされたのだ。


(僕も・・・、やられるかもしれない・・・)


だが、逃げることは出来ない。


架陰はなんとしてでも、この男から【悪魔の堕慧児】についての情報と、この男の目的を聞き出す必要があった。


(全身全霊で、殺りにいく!!!)


先に動いたのは架陰だった。


クロナから教わった居合の踏み込みで、スフィンクス・グリドールとの間合いを詰める。


(最初から全力だ!!!)


刀の柄を握る力を強め、能力を発動させた。


「魔影!! 弐式!!!!」


その言葉を合図に、架陰の精神の中に住み着く悪魔とジョセフが、【能力】を解放した。


腕の皮膚表面から、影のような、黒い煙のような、漆黒の霧のような物質が湧き出す。


【魔影】と呼ばれるその物質は、架陰の意思のままに、蠢き、形を変え、刀の刃にまとわりついた。


白銀の日本刀【名刀・赫夜】は、一瞬して、漆黒の大剣へと変貌を遂げた。









「【魔影刀】!!!!」










それを、スフィンクス・グリドールに向かって振り下ろす。


魔影は、物質と触れ合った時に衝撃波を発生させる性質がある。


スフィンクス・グリドールの身体に触れた瞬間、漆黒の刃は岩をも砕く斬撃を放った。









ドンッッ!!!!










砂煙が巻き起こる。


突風が押し寄せ、架陰の着物の羽織を揺らした。


「っ!!」


架陰は奥歯を噛み締めた。


砂煙で前が見えない。


しかし、「手応えが無かった」ことは確かだった。









砂煙が晴れる。


「残念・・・、ハズレだよー」


そこには、にこやかなスフィンクス・グリドールが佇んでいた。


身体の位置が、半歩右にズレている。


能力【千里眼】で架陰の攻撃の軌道を見切ったグリドールは、最小限度の動きだけで、その斬撃を回避したのだ。


「全部見えている。これが、僕の能力【千里眼】だよ・・・」


そう言ってから、腰を落とすスフィンクス・グリドール。拳を固め、上体を捩ってエネルギーを溜めた。


「っ!!」


架陰はすぐ様、刀が纏っていた魔影を脚に移動させた。


「魔影脚!!!」


魔影で脚力を強化させ、一瞬でスフィンクス・グリドールの拳の射程距離から脱出しようと試みる。


しかし、スフィンクス・グリドールは、架陰が後退するために跳んだのに合わせて地面を踏み込んでいた。


「残念。ハズレだよ・・・」


「っ!?」


架陰が防御姿勢を取るよりも速く、架陰を地面にたたき落とした。


ドンッッ!!!!と土煙が巻き起こり、地面に亀裂が入る。


「くっそ!!」


架陰は直ぐに立ち上がった。


血を吐き、再び刀を構える。


追撃される隙は十分にあったというのに、スフィンクス・グリドールは架陰から離れた位置に着地して、ニコニコと貼り付けた笑みを浮かべていた。


「どうだい? 今のでわかっただろう? 君は僕を倒せないって・・・。大人しく、君のことを僕に教えてくれたらいいんだけど・・・」


「まだだ!!」


架陰は赫夜を強く握りしめる。


「【参式】!!!!」


現時点で、最強の形態を発動した。


体表からさらに大量の魔影が湧き出し、架陰の刀に集まった。


魔影・参式は、弐式の二倍の量の魔影を発生させることができる。つまり、攻撃能力は単純に【二倍】。


「【魔影刀】!!!!」


全ての魔影を刃の一点に纏った赫夜は、架陰の身の丈を超えて巨大化した。


その、首切り包丁にも似た、強大な刃を虚空に向かって振り下ろす。










「【悪魔大翼】!!!!」










ドンッッ!!!!










漆黒の三日月が、地面に深い溝を残しながら放たれた。


「おやおや、これはすごいねぇ・・・」


架陰奪還作戦の時に悪魔の堕慧児に加担していた夜行でさえも葬り去った、一撃必殺の斬撃を前にしても、スフィンクス・グリドールは笑みを絶やさなかった。


今度は一歩も動かない。


手のひらを前方に添えるだけだった。









「【千里眼】・【壱式】・【蛇睨】!!」










パンッ!!!と、風船が破裂するような音が響いた。


次の瞬間、架陰が放った漆黒の斬撃は、粉々に砕け散り、空気に溶け込むようにして消滅した。


「っ!!」


これには、架陰も、傍観していた鉄平達も青ざめた。


「僕の斬撃が、防がれた!?」













第92話に続く

第92話に続く

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