千里眼 その②
闇に溶け込むは闇
2
「いま、思い出したことがあるんだ・・・」
スフィンクス・グリドールの悠長な声が近づいてきた。
身体中を【衝撃波】に貫かれ血塗れになった鉄平は、混濁する視界の中、顔を上げてスフィンクス・グリドールを見た。
「て、てめぇ・・・、何を、しやがった・・・」
逃げ切れたはずだった。
百合班の葉月が、スフィンクス・グリドールの意表を突いて、その隙に逃げたはずだった。
それなのに、気がついた時、三人は身体中から血を噴出して地に伏していたのだ。
スフィンクス・グリドールは、ニコッと笑うと、鉄平の頭を掴んで強引に持ち上げた。
「あーあ、可哀想に。検体がボロボロじゃないか・・・」
「なんだと・・・」
「無駄な抵抗をするから、痛い目に遭うんだよ」
手を離す。
鉄平は、踏ん張ることが出来ず、地面に顔面を打ち付けていた。
「君たちは馬鹿みたいだから、何度でも言ってあげる。分かるまで言ってあげる。もう一度言ってあげる。僕は、【四天王】だよ?」
「んなこた・・・、わかってるよ・・・」
「わかってないね。わかっているのなら、僕に立ち向かうようなことはしない。大人しく、市原架陰の情報を僕に教えるはずだ・・・」
スフィンクス・グリドールは、そう言って、右手のひらを広げた。
それを、鉄平に翳す。
「少し、不思議に思ったことはないのかい?」
「不思議に・・・だと?」
「ああ。この【ハンターフェス】は、僕の所有する特別施設の中に建設されたフィールドで行われる。森や、川、砂漠に、学校などの建設物だって用意されている。UMAは、その気候にあった場所に生息しているし、さっきの葉月ちゃんみたいに落ち葉があるところでしか能力を発揮できないUMAハンターだっている」
「それが、どうしたんだよ・・・」
「こんな広大な場所で、UMAハンター一人が戦闘不能になる度に、【〇〇が脱落】ってトランシーバーに連絡が入るんだよ?」
「だから・・・」
「おかしいとは思わないのかい?」
鉄平の言葉に被せるようにして、スフィンクス・グリドールは、声を発していた。
心做しか、その声にノイズが走ったような気がした。
「こんなに広い場所で、UMAハンター一人が戦闘不能になったことが直ぐに分かる。知らされるんだよ?」
「・・・・・・!!」
それを、聞いた鉄平の背筋に冷たいものが走った。
鉄平の眼前に翳されたスフィンクス・グリドールの手のひらがピキッ!!と、一文字に裂けた。
血が流れる。
そして、傷が開く。
「っ!!」
中から出てきたのは、眼球だった。人間のものよりも一回り大きい、丸々とした眼球。
ぎょろぎょろと鉄平を見てくる。
「てめぇ・・・、なんだよ、それ・・・!!」
「これが僕の【能力】・・・」
スフィンクス・グリドールは、自らの能力について語った。
「【千里眼】だよ・・・」
千里眼。
「その名の通りだよ。僕の能力は、【千里眼】。半径4000キロ圏内の空間の情報を全て視認することができる。どんなにUMAが身を隠していようが見つけ出す。君たちが遠い場所に逃げようと見つけ出す。マイクロスコープや透視機能も搭載されているからね、君の傷ついた内臓に、流れだす赤血球の数までも正確に見ることができる。隣で倒れている女の子の、卵巣から卵子が出る瞬間もね・・・」
「てめぇ・・・」
鉄平は、凄むことしか出来なかった。
体に力を込めようとしても、力が入らない。
皮一枚で繋がった意識を何とか繋ぎ止めている状態だった。
「さあ、語ってもらうよ。市原架陰の情報を・・・」
「誰が言うかよ・・・」
鉄平は、最後の抵抗を見せた。
「知りたいなら、てめぇが直接聞きに行きやがれ・・・」
「ほんと、脳が無いな。少し【まずい事情】があるんだよ。僕は直接市原架陰に会いに行くことができないんだ・・・。だからこうして、君に頼んでいるんだ。何度でも聞くよ? 『市原架陰について教えろ』と・・・」
「そうかよ・・・」
鉄平は、ギリッとスフィンクス・グリドールを睨んだ。
スフィンクス・グリドールは、内心で舌打ちをする。
(早く言えよ。鬱陶しいな・・・)
「じゃあ、てめぇ、なんで後ろの架陰に気がついていないんだ?」
「え?」
スフィンクス・グリドールは、振り返った。
そこには、桜班下っ端の、市原架陰が立っていた。
「っ!!」
スフィンクス・グリドールが身構えるよりも先に、架陰は腰の刀を抜いて一閃していた。
ドンッ!!
刃から放たれた衝撃波が、スフィンクス・グリドールを吹き飛ばす。
スフィンクス・グリドールは、体勢を整えて、架陰から離れた場所に着地した。
「あらぁ、本人登場かな?」
その③に続く
その③に続く




