名刀・黒葉月 その②
日輪が
蜥蜴の嘘を剥いでいく
2
ほとんど、やけくそだった。
スフィンクス・グリドールは、鉄平や葉月のことを舐めてかかっている。「いつでも倒せる」「直ぐに倒せる」と思っている。
それは事実だ。
確かに、鉄平と、葉月、そして山田が束になってかかったとしても、あの四天王のスフィンクス・グリドールとの間には天と地程の差があった。
だから、今は「倒す」ということよりも、「逃げる」ということを優先させるべきだったのだ。
スフィンクス・グリドールへと勝利条件。葉月達に与えられた【ハンデ】とはそれだった。
どれだけ、スフィンクス・グリドールの隙を狡猾に突いて、どれだけ遠くに逃げられるか。
そのことだけを考えて、葉月はスフィンクス・グリドールに攻撃を仕掛けていた。
彼に振った斬撃の全てが【陽動】。
だが、虚無の刃に【殺意】が無いことを勘づかれたようだ。
スフィンクス・グリドールは、ニコニコと笑い、「全て見えている」「君、なにか仕掛けようとしたでしょ?」と言う。
バレているのなら、気づかれているというのなら、見てもらおうじゃないか。
「名刀・黒葉月・・・」
葉月は、刀を勢いよく地面に突き立てた。
「能力!! 発動!!!!」
その瞬間、彼女の刀の刃が淡く光った。
百合班に支給される【武器】のほとんどが【能力武器】だ。
特殊能力を持つUMAの素材を利用した、能力を使うことができる武器。
班長の香久山桜なら、【名刀・ソメイヨシノ】。
三席の三島梨花なら、【名刀・葉桜】。
そして、四席の葉月は、【名刀・黒葉月】。
「落葉操作!!!」
彼女の声に反応して、地面に落ちていた枯葉が浮かび上がった。
「っ!!」
スフィンクス・グリドールの興味が葉の方に移る。
「へえ、その武器、能力を使えるんだね」
「そうです!!」
刀から発せられる念力で浮かぶ落葉達は、ぐるぐるとスフィンクス・グリドールの周りを旋回し始めた。
「これ、目くらましのつもりかな? さっきも、君の班の女の子で似たような術を使ってくる子がいたんだけど・・・」
「班長の香久山桜さんのことですね。彼女の【ソメイヨシノ】は、桜の花びらを操ります・・・、その使用用途は、確かに目くらましです」
刀の能力を利用して落ち葉を操る葉月の目が光った。
「ですが、私の刀の能力は、【目くらまし】ではありません。れっきとした【攻撃】です!!」
その瞬間、スフィンクス・グリドールの周囲を旋回する落葉達に異変が起こった。
パキパキ、パキパキ・・・。
まるで、硬いプラスチックを砕くかのような乾いた音が響いた。
焦げ茶だった落ち葉が、みるみるうちに、漆黒の葉へと変色していく。
「っ!!」
これには、スフィンクス・グリドールも息を呑んだ。
「私の【黒葉月】の能力は、【落葉操作】。ですが、ただ落ち葉を操るだけじゃありません。落ち葉を、【硬質化】させます!!」
「へえ・・・」
スフィンクス・グリドールは、にまっと笑った瞬間、手刀を旋回する落葉に向かって振った。
血が飛び散る。
「っ!!」
弾き返せなかった。
それどころか、手の甲が切り刻まれ、血塗れになった。
「やばいね、これ」
「残念でしたね。硬質化した落葉の強度はナイフ並ですよ? 貴方の薄皮程度、簡単に引き裂けます!!」
そう叫び、葉月は、さらに刀を地面深くに突き立てた。
「行け!!」
彼女の司令に反応して、落ち葉たちがいっせいに、スフィンクス・グリドールに向かって襲いかかった。
「甘いよ・・・」
スフィンクス・グリドールは、白衣を仰いで、その硬質化した落ち葉の軍勢を払い除けた。
「僕の白衣は、君たちの着物と同じ【戦闘服】だ。ナイフ程度の刃物じゃ、簡単には切り裂けない!!」
「まだまだ!!」
葉月は、意識をさらに集中させて、払い除けられた落ち葉を操った。
だが、落ち葉が体勢を整えるよりも先にスフィンクス・グリドールがその包囲網を抜け出す。
「なかなか素晴らしい能力だね。囲まれたら脱出は容易じゃない・・・」
「くっ!」
真っ直ぐに、葉月の方へと迫ってきた。
葉月は、スフィンクス・グリドールから目を離さずに後退した。
「少し疑問に思うことがあるんだけど・・・」
「っ!!」
「君、この能力をどうして隠してたの?」
その言葉に、動揺が、葉月の全身を駆け巡った。
「素晴らしい能力だ。だけど、使うのが遅い。遅すぎる。最初からこの能力を使っておけば、僕の意表をつけていたかもしれないじゃないか・・・」
ぬうっと伸びてきた手が、葉月の首を鷲掴みにした。
グイッと、葉月の体が宙ぶらりになる。
「もしかして、なにか他に作戦があるのかな?」
四天王の前には、全てがおみとおしだった。
その③に続く
その③に続く




