その男悪魔につき その③
神々を欺くは
悪魔の黒い翼
影を縫う
千里の畦道
3
「ふむ・・・」
スフィンクス・グリドールは、華奢な指を顎に当てて考えた。
(さて、どうしたものか・・・)
いけない。落ち着くのだ。
自分の目的を、行動理由を最初から整理し直すのだ。
(僕の目的は・・・)
スフィンクス・グリドールの目的は、市原架陰についての情報を鉄平から聞き出すということ。
四六時中、市原架陰への愛を語っているものだから、てっきり簡単に教えてくれると思っていたが、なかなか口を割らない。
うっかり、胃袋を破裂させてしまった。
次に、回復薬で釣って市原架陰の情報を聞き出す作戦を立てるも、百合班の葉月の協力により失敗。
そして、副班長山田の乱入。
(うーん。僕はやっぱり人とは違うみたいだな。『ああすればこうする』と思って計画を立てるけど、意外に上手くいかないものだ・・・)
まあいい。
作戦が失敗したのなら、別の作戦を立て直せばいいだけだ。
(科学者ってのは、いつも成功するわけじゃない。1000回の挑戦の内に、1回の成功があるだけで、万々歳ってものさ・・・)
わずか一瞬で計画を建て直したスフィンクス・グリドールは、山田の方に向き直った。
背後でカサッと音がしたかと思うと、鉄平と葉月が武器を杖代わりにして立ち上がっていた。
(囲まれたか・・・)
前には山田。後ろには鉄平と葉月。
(ま、三人に囲まれたところで、僕が負けるわけがないんだけどね・・・)
余裕の笑みをもって、白衣の襟を直した。
「まあまあ。そんなに殺気立たないでよ。僕は別に、君たちを殺したいわけでも、嬲りたいわけでもない。【市原架陰】の情報を聞き出したいだけなんだよ」
「てめぇみたいな怪しいやつに、架陰のことを教えるわけねぇだろ!!」
鉄平が、鉄棍を握りしめてスフィンクス・グリドールへと襲いかかった。
スフィンクス・グリドールは、山田の方を見ているおかげで、鉄平の奇襲には、気づいていない。
「はあっ!!」
スフィンクス・グリドールの首筋向けて、鉄棍を振った。
スフィンクス・グリドールは、それを振り返らずに受け止めた。
「まず、最初の質問だ。市原架陰がUMAハンターになった経緯は?」
「っ!!」
まただ。
また受け止められた。
(どういうことだよ・・・!?)
スフィンクス・グリドールは、山田の方を見ていたのだ。それなのに、背後から襲いかかってきた鉄平の気配に気づき、反応してくるなんて。
(こいつ・・・、まさか、何かを使っている?)
「驚く顔は、そこまでだよ」
スフィンクス・グリドールは、また、ニコッと笑うと、鉄平を鉄棍ごと投げ飛ばした。
鉄平は、空中で体勢を整えると、山田の隣の地面の上に着地した。
「おい!! どうするんだ!?」
「私に聞かれましても・・・」
山田は額に冷や汗を浮かべながら、スフィンクス・グリドールからは目を離さない。
スフィンクス・グリドールは、顔はニコニコで、余裕を保っていた。いつでも鉄平のことを倒せますよ。と言いたげだった。
その様子を見て、鉄平は、舌打ちをした。
「あのやろう・・・馬鹿にしやがって・・・」
「ですが、鉄平さん。あの男には勝ち目がありませんよ?」
「やってみねぇとわからねーだろ」
「いえ、分かります。この山田一人では、あの方を倒すことは出来ません」
「っ!!」
鉄平は、奥歯をくだけんばかりに噛み締めた。
「くそ・・・、ここまで強いとはな・・・」
全ての攻撃が読まれている。
下手に攻撃をすれば、カウンターに遭う。
スフィンクス・グリドールは、「無駄だよ」と言った。
「どれだけ僕の視界をかいくぐろうと、僕には全て見えている。なんなら、君たちの全ての攻撃をいなす自信がある」
「なんだと・・・」
簡単に挑発に乗るのが鉄平だった。
「やってみねぇと、分からねえだろうが!!」
今度は真正面からスフィンクス・グリドールに向かって斬りかかっていった。
スフィンクス・グリドールは、「やれやれ・・・」と肩を竦めた。
「じゃあ、分からせてあげるよ・・・」
そう言って、鉄平の攻撃を返り討ちにしようとした。
その瞬間、背後から葉月が斬り込む。
「へえ・・・」
スフィンクス・グリドールは、身を反転させると、同時に二人の一撃を受け止めた。
「無駄だよ。全部見えている・・・」
そして、二人同時に吹き飛ばした。
「くっ!!」
「っ!!」
「さあ、どんどん来なさい・・・」
クイクイと手首を返す。
鉄平は、体勢を整え、再び向かっていく。
その様子を見ながら、山田は静かに考えた。
(どうして・・・、スフィンクス・グリドール様は、『全て見えている』んだ・・・?)
明らかにおかしい。
先程の葉月の背後からの攻撃も、前方から見ていた山田にとって『完璧』と言う他ない完璧な一撃だった。
それを、受け止めた。
(まさか・・・、【能力】を使っている・・・?)
第89話に続く
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