表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UMAハンターKAIN  作者: バーニー
30/530

第14話 架陰VS吸血樹 その①

生きることが罪ならば


死ぬことは償いになるのでしょうか

1


架陰は美桜のもとへ駆け出した。


「美桜さん! 一度離れましょう!!」


10分前に「自分が吸血樹を倒す」と言っていた架陰でも、奇襲を受けて対応する自信は無かった。


美桜の手を取る。


「!」


酷く、冷たく、震えている。


「早く!」


驚いている暇も、彼女を励ましている暇も無かった。ただ、無我夢中で彼女の手を引っ張り、公園の敷地外に出ようとした。。


(コンクリートの上なら、吸血樹は襲ってこないはずだ!)


あと一歩で公園から出られる。


踏み込んだ足に、微弱な浮遊感がまとわりついた。


(足元からっ、 来る!)


「美桜さんっ!!」


「きゃっ!」


架陰に突き飛ばされた美桜は道路に転がった。


その瞬間、架陰の足元で地面が粉塵を上げて爆発する。


「くっ!」


架陰は咄嗟に前傾になって、地面から槍のように飛び出した触手を躱した。


「来たな!」


半歩後ろに吸血樹の触手。


腰の刀に手をかける。


カチリと刀を抜き、振り向い様に一閃した。


手応えあり。


枝の形をした触手は、一刀両断となった。


「よし!」


切断された触手は、地面に落ちてバタバタと魚のように跳ねる。やはり、植物ではないと見た。


「美桜さん!」


架陰も公園の敷地を出ると、地面に蹲る美桜の脇腹に腕を回し、無理矢理に起こした。


「ごめん、乱暴に扱って・・・」


「いえ、大丈夫です」


美桜は架陰の目をしっかりと見て頷いたが、左脚から血が流れていた。


「走れる?」


「・・・・・・走れます 」


走れるなら安心だ。


「よし、じゃあ君は逃げて!」


架陰は美桜の背中を優しく押して、ここから走って逃げるように促した。


美桜は、少しキョトンとした。


架陰は公園の敷地を見る。


「僕は、ここで吸血樹を引き受けなければならない」


ここで美桜と逃げてしまっては、再び吸血樹を取り逃すことになるかもしれない。それだけは避けたい。


つまり、吸血樹をどこにも行かせないためには、架陰がここで吸血樹と戦わなければならないのだ。


「早く走って!」


響也の話によると、吸血樹はどこからともなく触手を出してくる。


(しっかりと殺気を感知して! 反応してやる!)


架陰は刀を構えた。コンクリートの上なら安全だ。


危なくなれば、避難すればいい。


そう高を括っていた。


架陰の予想は大きく裏切られる。


「!?」


架陰の足元のコンクリートに、蜘蛛の巣状の亀裂が走った。メコリッ、バキッ! と何かが盛り上がってくる。


「嘘だろ!?」


架陰は咄嗟に飛び退いた。


コンクリートが粉砕する。吹き飛んだ破片が架陰と美桜の身体に散弾銃のように打ち付ける。


「くっ!」


飛び出してきた触手を、架陰はすんでのところで斬り落とした。


「こっちだ!」


「・・・」


架陰は美桜の手を取って走り出した。


(完全に予想が外れた!!)


まさか、吸血樹はコンクリートの下からでも出現できるとは思ってもいなかった。


コンクリートを突き破れるほどの威力なら、殺傷能力も格段に跳ね上がる。


着物の袖からトランシーバーを取り出す。無我夢中で通信ボタンを押していた。


「こちら架陰です!! 吸血樹に遭遇しました! 応援お願いします!!」


取り敢えず、クロナ達の援軍を頼むしかない。


だが、肝心な時に相手からの応答は無い。繋がっているかどうかも怪しかった。


「誰でもいいから出てくださいよォ!!」


とにかく走る。走って作戦を練るのだ。


しかし、直線の路地を走っていると、前方10メートル先の地面に亀裂が入った。


(もう追いつかれて!?)


いや、追い越された。


ドンッ!! とコンクリートが粉砕し、触手が槍の如く飛び出す。狙うは、架陰。


「くっ!」


架陰は美桜を背後に回すと、刀の刃で受け止める。


ギイイインッ!と刀が鳴いた。


(まずい、刀は横の力に弱い!)


直ぐに身体を反転させ、触手の勢いを後ろに逃がす。そして、すかさず一撃を加える。


「よし!」


触手は両断され、パタリと地面の上に落ちた。ビチビチと跳ねた後、動かなくなる。


(血が抜けていく・・・)


血溜まりが広がっていくのを見ながら、架陰は次の襲撃に備えた。とりあえず、この血溜まりで足を取られないようにしなければならない。


「美桜さん・・・」


架陰はボソリと言った。


「絶対に、僕の傍から離れないでください・・・」


吸血樹を引き受けると言っていたが、状況が変わった。今、ここで美桜を逃がすと、今度は美桜が狙われる。


(けど、僕にできるのか?)


架陰の握る刀が重くなった気がした。


足元が揺らぐ。緊張と、吸血樹の襲撃。


「はっ!」


架陰は飛び退く。案の定、触手が飛び出した。


「っ! さっきよりも、太い!!」


先程架陰が両断した触手が直径10センチ程のものが、今度はその3倍。


30センチの太い触手が襲いかかる。


見た目から判断できる、この触手は・・・。


「!?」


ヒュンッ!! と空気が鳴いた。その瞬間、架陰の身体は5メートル上空に吹き飛ばされていた。


(強い!)


架陰は身を捩って着地する。


だが、護るべき美桜から距離を取ってしまった。直ぐに間合いを詰めようとしたが、それよりも先に触手が美桜を襲った。


「間に合え!!」


架陰はさらに強く踏み込んだ。


刀を振り上げていては時間のロスとなる。今は0.1秒が惜しい。


より速く。


その一点に力を集中させる。


「突く!!」


架陰はフェンシングのような体勢で刀を放った。鋒が、吸血樹の触手を貫く。


「からのぉ!!」


貫いた刃の部分を支点にして、架陰は上へ地面を蹴った。必然的に、架陰の身体が観覧車のゴンドラのように空間に円を描く。


「斬る!!」


架陰の重みに耐えかねた触手はスパンと切断された。


サッと地面に着地する。


架陰は再び美桜の手を取った。


「行こう!」


走る。


どろりとしたものが、架陰の首筋を伝った。


(どうして?)


確かに、架陰は美桜を護ると決意した。


だが、美桜にも美桜自身を護ってもらわないといけない。


もしあの時架陰の刀が届いていなければ、美桜は死んでいた。だが、美桜は悲鳴をあげることも、逃げようとすることもしなかった。


さらに言えば、今もこうやって架陰が美桜の手を取って走らないと、美桜は走ろうとしない。


(まさか・・・)


いや、そんなはずはない。


(美桜さん・・・、君は・・・)


架陰は走りながら、冷や汗を拭った。


(死ぬことを、望んでいるんじゃないか?)




その②に続く



その②に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ