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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
298/530

獣 その③

豆が潰れた左手で


掴む熱砂のザラつきは


血液より凝固して


茫漠の時間を眺めている

3


「さあ、こっちへおいで。僕は回復薬を沢山持っているんだ。君が市原架陰について知っていることを全て教えてくれたら、治してあげる・・・。悪くない話だと思うんだが? 君に失うものはないだろう?」


スフィンクス・グリドールは、口から血を吐き出す鉄平に向かってそう提案した。


「おいで・・・」


その証拠に、白衣の内ポケットから透明の液体が入った注射器を取り出す。


鉄平の口の端をどろりと血が伝った。


「くそ、コノヤロウ・・・」


「鉄平さん!! 喋らないで!!」


葉月が鉄平を宥めるが、頭に血が登っている鉄平には聞こえていなかった。


自分の腹を殴り、胃袋を破裂させた男を睨む。


「てめぇ、なんのつもりだよ・・・、架陰の事が知りたいなら・・・、直接あいつに、会いに行けばいいだろうが・・・」


「そういうわけにはいかないんだよね」


スフィンクス・グリドールは肩を竦めた。


「そうだよ。君の言う通りだ。僕は市原架陰くんについて知りたい。だけと、あの子に直接聞く訳にはいかないんだ。少し・・・、複雑な事情があってね・・・」


「ふ、複雑な・・・、事情だと?」


「ああ、君にはわからない。とっても複雑な話だ・・・」


スフィンクス・グリドールは、ニヤッと笑った。その、いかにも【悪意】を貼り付けたような顔に辟易とした。


「くそ・・・、誰が・・・、言うかよ・・・」


鉄平は地面に手を着いて立ち上がろうとした。


俯いた拍子に、喉の奥に血反吐が込み上げ、びちゃびちゃと地面に滴った。


「はあ・・・、はあ・・・、はあ・・・」


「君、もうすぐ死ぬよ? さっさと回復薬を受けた方がいいんじゃない?」


「誰がてめぇに・・・」


ほとんどやけだった。


自分でもわかっている。意識が薄まり、平衡感覚が狂っている。放っておいたら死んでしまう状況だ。


スフィンクス・グリドールは、「市原架陰の情報をくれたら、回復薬を与える」と言っているのだ。ならば、素直にしたがって、生きながらえればいい。


だが、粗暴な性格の鉄平にとって、このニコニコと作ったような笑いを浮かべるスフィンクス・グリドールは、嫌悪の対象だった。


「はあ、はあ、はあ・・・」


鉄平はムキになって、架陰のことを話そうとしなかった。


それを見て、スフィンクス・グリドールは深いため息をついた。


「すこし、手を誤ったようだね。君なら、命惜しさに話しているのかと思っていたよ・・・」


「そんな認識だったのかよ・・・、だったら、尚更言う訳にはいかねぇよな・・・」


「ああ、もういい」


スフィンクス・グリドールから笑顔が消えた。


目元に影が差す。


「とりあえず、回復薬打ち込んで、殺さない程度にいたぶっておこう・・・」


手刀を作り、鉄平へと切り込もうとした。










その瞬間、鉄平を支えていた葉月が、着物の袖から【煙玉】を取り出し、スフィンクス・グリドールに向かって投げた。


「っ!」


飛んできたそれを、手刀で払った。


その瞬間、割れた玉から白い煙が噴出して、スフィンクス・グリドールの視界を奪った。


「なに? 目くらましのつもり?」


煙の中、スフィンクス・グリドールは至って冷静。


手刀を作り直し、真っ白の視界に向かって一閃した。










ギンッ!!!!!










スフィンクス・グリドールが何か硬いものにぶつかって止まった。


「・・・!!」


手の腹に、鋭い痛み。次の瞬間には、じわりと血が流れ落ちていた。


煙が晴れる。


目の前に、葉月がいた。


葉月は、スフィンクス・グリドールが一閃しようとした手刀を、真剣で受け止めていたのだ。


スフィンクス・グリドールは、黒い刃に切り裂かれた手を引いた。


「おや、百合班の四席ちゃんじゃないか。どうしたんだい? 君も、市原架陰くんについて知っているのかい?」


「いえ、知りません・・・」


そこははっきりと首を横に振る。


「じゃあ、そこをどいてくれないか? 僕は、鉄平くんに用があるんだよ・・・」


「はい、ですが・・・、明らかに今のはやりすぎです・・・」


「へえ・・・」


スフィンクス・グリドールは、葉月の華奢な肩越しに、鉄平が倒れていた所を見た。


鉄平は、よろよろと立ち上がり、鉄棍を拾い上げている。


「・・・・・・っ!!」


「気が付きましたか?」


葉月は黒い刀の鋒をスフィンクス・グリドールの喉元に向けた。


「鉄平さんには、私の【回復薬】の、【百合(びゃくごう)】を飲ませました。そのうちに全快しますよ・・・?」


スフィンクス・グリドールは、してやられた。とでも言いたげに肩を竦めた。


「はは。まさか、君が鉄平くんに手を貸すとはね・・・」


手の腹の傷から流れ落ちる血液をべろりと舐めた。


「うん。鉄の味。最近動いていなかったから、血圧はそこそこ。酸素が少し足りていないな・・・」


「・・・・・・!?」


そして、葉月と鉄平を交互に見た。、











「じゃあ、嫌でも言わせてあげるよ。【市原架陰】についてね・・・」










第88話に続く

第88話 に続く

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