表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UMAハンターKAIN  作者: バーニー
29/530

第13話 トラウマ その③

私は貴方になれないけれど


貴方の心の拠り所になりたい

4


「僕が吸血樹を倒す」


架陰ははっきりと宣言した。


居ても立ってもいられない。


架陰はコーヒーを一気に飲み干し、ソーサーに戻す。勢いよく置いたせいか、少し大きな音が立った。


「ありがとう、美桜さん。とても貴重な話だったよ」


足元からバットケースと巾着袋を拾い上げた。そして、直ぐに美桜に別れを告げて出ていこうとする。


「じゃあ、また!」


「えっ!? 待ってください!!」


弾丸のように動き出す架陰を、美桜が慌てて止めた。


「どこへ行くんですか!?」


「どこって・・・、吸血樹を倒しに行くんだ! もうこれ以上、奴をこの街にのさばらせてはいけないから・・・」


ぐっと拳を握りしめる架陰。そこには、何がなんでも吸血樹を仕留めるという気迫があった。


だが、空回りをしようとしているのは美桜の目から見ても分かった。


思わず、美桜は架陰の学ランの袖にしがみつく。


「わ、私も、行きます!」











5


吸血樹を倒すと言っても、吸血樹を見つけださなければ意味が無い。


だが、響也の話を初めとする様々な情報から、【出現条件】の目処はたっていた。


「吸血樹は地面の上に出現する!」


「そうですね・・・」


「吸血樹は枯れ木に扮して獲物を誘う!」


「そうですね・・・」


吸血樹についての推理を熱弁する架陰の半歩後ろで、美桜はこくこくと頷いた。


半歩後ろである。


路地を行く人が、架陰の格好を見て何か言いたげな顔をする。わかる。どうせ「コスプレイヤー?」の類だろう。


たとえこれが戦闘着だろうと、昼間から着物を身に纏う架陰は異色だった。


(恥ずかしい・・・)


勢いで架陰について行くと言ったものの、架陰がこんな侍のような格好をするとは思わなかった。


幸い架陰の羽織が大きいので、その後ろに隠れるようにして、道行く人の視線を躱した。


突然、目的地に辿り着いた架陰が立ち止まった。美桜は危うく架陰にぶつかりそうになる。


「ここだね。成美さんが襲われた場所は・・・」


「そ、そうですね」


美桜はズレた赤ふちメガネを直した。


警察による操作は終わっているものの、まだ公園の門には「keepout」の黄色テープが貼られている。吸血樹対策という意味も持っているのだろう。


それをくぐって、二人は公園の敷地内に足を踏み入れた。


「!」


その瞬間、架陰のおかげで和みかけていた美桜の感情が総毛立つ。


恐怖が地面から蔓を伸ばして美桜の足に絡み付く。悲しみが足裏から根を張る。


ここは、自分が友人を見殺しにした場所。


(ごめんなさい・・・)


美桜は目を閉じて、ここにはいない友人に謝った。


なかなか動けない美桜に気づかず、架陰は敷地の奥へと突き進む。


一度は来た場所だが、クロナがいるといないとでは、大きな違いだ。


空気が緊迫する。まるで、巨大な化け物の腹の中に飲み込まれたようだ。


(穴・・・)


吸血樹が出入りしたと思われる地面の穴がまだ残っている


架陰はしゃがみこむと、恐る恐る穴に手を入れた。さすがに、パクッといかれることはないだろうが、やはり怖かった。


穴は底に手が届かないくらい深い。


(んっ、なんだ、この感触・・・)


穴の側面を撫でていると、ざらついた感触の中に、別のザラつきがあることに気づいた。


思い切って爪で引っ掻いてみる。


手を取り出すと、指先に血が滲んでいた。


「うわ、やっちゃった・・・」


架陰は一瞬、「自分が手を切った」のだと思い込んだ。だが、痛みは無い。


「あれ?」


別の人の血? それとも・・・。


不思議に思った架陰は、ポケットから閃光玉を取り出して、穴めがけて投げ入れる。


穴の中が白い光で照らされた。


「どうだ?」


何かがパクッとしないと分かったら怖がるものは無い。架陰は、穴に顔を突っ込んで、その側面にあったものを確認した。


「あれ、穴の側面から、血が滲んでる?」


円柱状に掘られた穴の側面から、まるで擦りむいたあとのように血が滲んでいたのだ。


ざらついていると感じていたのは、一部が凝固しているからのようだ。だが、そのほとんどが、液体として穴の底にポタポタと落ちていた。


「掘ってみるか・・・」


架陰は手頃の石ころを拾い上げると、それで穴の側面を掘り始める。


血が滲んでいる部分に少し石の尖端を入れるだけで、「中に何が埋まっているのか」確認することが出来た。


「これは・・・」


架陰はさらに石ころで穴を掘った。埋まったものを、周りの壁を壊すという強引な手段で引っ張り出す。


「よし、行けた!」


架陰の手に握られて出てきたもの。それは、木の枝・・・、いや、吸血樹の触手だった。と言っても、既に自切されているので襲っては来ない。本当に、ただの木の枝に見える。


架陰は血が滲み出ている吸血樹の置き土産をまじまじと眺めた。


「どうして、こんなに時間が経っているのに、固まっていないんだ?」


架陰はそっと触手の切れ端を地面に置いた。いつまでも持っていると、手が真っ赤に染まってしまう。


架陰はみるみる血が流れ落ちてくる触手を見ながら考えた。


(おそらく、この触手によって吸血されるのだろうけど、何故、吸血した血液が固まっていないんだ?)


クロナや響也が言っていた【エネルギー説】を思い出す。


「だけど、エネルギーにするだけじゃ、血液は固めなくても済む話じゃないのか?」


架陰はそっと地面に広がっていく血溜まりに触れた。やはり、サラサラだ。今しがた人の体内から出てきたように・・・。


(ん、待てよ・・・)


架陰はあることに気がついた。


(もし、吸血樹が、『そういう』体質なら・・・)








その時だ。


熟考がまとまらぬうちに、架陰は地面からせり上がってくる『殺気』を感じ取った。


「!?」


来る。


奴が来る。


近づいてきている。


地面を掘り、突き進む。家やコンクリート塀の標的を乗り越えて、何かが、近づいてきている。


「美桜さん!?」


どれだけ恐怖を感じようとも、架陰は真っ先に美桜の方を振り向いた。


公園の入口近くで放心していた美桜の肩がビクリと跳ねる。


「え!?」


架陰の感じた気配は察知していないようだ。だが、この一言で彼女も異変に気づく。


どんな異変かと聞かれれば、答えに困るところだ。強いて言うなら、まるで、四方八方を目玉の形をした監視カメラに見られている。そんな感覚。つまり、「なんか嫌だ」。


(っ! いきなりか!?)


架陰は腰に差した刀の柄を握った。


架陰と吸血樹の長い長い悪夢の戦いが始まろうとしていた。










14話に続く



クロナ「アクアさん、架陰のやつ見てません?」


アクア「見たわよ。私に美桜って女の子の住所を聞いてきたわ」


クロナ「あの野郎・・・、また勝手な単独行動を・・・」


アクア「あら、ああいうものは単独行動じゃないの?」


クロナ「総司令官が何を言っているんですか? 危険が迫っているんですよ? 単独行動は命取りです。常に、団体で!」


アクア「あーら、クロナもそんなことを言う年になったのね」


クロナ「さっきから会話が噛み合っていない気がするんですけど?」


アクア「架陰が、美桜って女の子の家に夜這いをかけに行くんでしょ? だから、私も『気をつけてね』って・・・」


クロナ「・・・・・・・・・、あいつ、下衆ですね」


アクア「結局架陰が悪者ね」


クロナ「次回、第14話『架陰VS吸血樹』!」


アクア「ふふ・・・」


クロナ「気持ち悪い・・・」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ