八咫烏 その③
喉を焼く寒冷の
茨刺す花道
鉄を飲み込み進むは
三叉路の果て
3
能力は、【イメージ】が全てだ。
頭の中に、自分がその能力を使いこなして、縦横無尽に駆け回っている姿を映し出す。
「今なら・・・、行ける!!」
イメージは固まった。
翼はできるだけ動かさない。ほんの一扇ぎでいい。
それだけで、クロナの身体はどこまでも飛翔する。
(力を貸して!! お兄ちゃん!!!)
そう心の中で叫ぶと同時に、クロナは背中の翼を羽ばたかせた。
ぶわっと、巻き起こった突風がクロナを押し上げる。
スピードは抑える。機動力を重視する。
地面をスレスレに滑空して、香久山桜へと切り込んだ。
ギンッ!!!!
クロナの振り下ろした刀は、香久山桜の薙刀によって受け止められた。
「まだまだ!!」
クロナはさらに翼を羽ばたかせた。今度は、機動力を捨て、スピードに注ぐ。
ずんっ!!と、クロナの刀に重みが加わった。
香久山桜は歯を食いしばって耐えるが、翼で動力を得るクロナの力を殺しきることが出来ない。
少しずつ、足が下がっていった。
「くっ!!」
ダメだ。
単純な力較べでは、黒翼でブーストがかかっているクロナの方が有利。このまま押しあっていても、力尽きるのは香久山の方だった。
「はあっ!!」
香久山桜は、身を捩り、勢いを後方に流した。
クロナの背後に回り込むと、薙刀を振る。
ギンッ!!!!
クロナも瞬時に反応して、黒鴉の黒い刃で弾いた。
(・・・、私の斬撃に反応してくる・・・!!)
もはや悠長に戦うことは出来なかった。
香久山桜は、電流に触れたかのように後ずさると、地面に薙刀の刃を突き立てた。
「一気に勝負をつけさせて貰うわよ!!」
能力を発動させた。
「名刀・ソメイヨシノ!! 【桜花吹雪】!!」
まるで、絵の具の溶かした水をぶちまけるかのように、地面が薄紅に染まった。
その染まった地面から、桜の花びらが湧き出し、辺り一面を薄紅の世界に染め上げた。
クロナは身構えた。
(また煙幕!!)
厄介な能力だ。
地面から、桜の花びらを舞わせて敵の視覚を封じる。しかも、能力の発動者は花吹雪の影響を受けないと見た。
「だけど、全部ふきとばす!!」
クロナは、目の前で絢爛と舞う花びらに向かって翼を仰いだ。
突風が発生して、花弁を消し飛ばす。
開けた視界から香久山桜が飛び出して、クロナに向かって薙刀を振り下ろした。
ギンッ!!!!
二人の刃が触れ合った瞬間、眩い火花が散った。
「っ!!」
「くっそ!!」
「もう一発!!!」
香久山は空中で身を捩り、もう一撃をクロナに浴びせた。
ギンッ!!!!
二撃目には耐えられず、クロナは吹き飛んだ。
しかし、背中に生えた翼を利用して踏みとどまる。
(なかなか便利ね・・・、この能力・・・)
響也の【死神】の能力が、超攻撃特化ならば、クロナの【黒翼】の能力は、超機動力特化。
この世界全てがクロナの戦場。
二次元ではなく、三次元的に世界を捉えることができる。
香久山は焦れったい気持ちを抑えながら、冷静に追撃をした。
「もう終わりよ!!」
「まだまだ!!」
クロナに振り下ろされた刃。
クロナは背中に生えた翼の片側に意識を集中させて、自分を包み込んだ。
ギンッ!!!!
クロナを覆った翼が、彼女を斬撃から護る。
「っ!!」
香久山の顔がサッと青ざめた。
「いけえっ!!」
渾身の力で、翼を広げる。
香久山の身体は、翼が戻る時の反動で吹き飛んだ。
空中に放り出された、香久山の身体。
「しまった!!」
空中では、身体が極端に無防備になる。
(防げない!!)
「行くわよ!!」
クロナは、名刀・黒鴉の柄を握りしめた。
黒い刃が、ドグンッ!!と脈を打ち、まるで、寒冷な場所に放り出されたかのように震えた。
ザワザワとした感触と共に、刃から黒い羽が生える。
一瞬にして、黒鴉の刃は、大翼の形に変化した。
「これで決める!!!」
そして、香久山桜に狙いを定めると、刀を一閃した。
「【明鳥黒破斬】!!!」
振り切った時の勢いで、刃表面から生えた、硬質な黒羽が射出される。
無数の黒羽が空気を裂きながら、空中の香久山桜に迫った。
「くっ!!」
香久山は空中で最後の力を振り絞り、薙刀を高速で振って、黒羽を叩き落とそうと試みた。
しかし、直撃。
第85話に続く
第85話に続く




