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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
285/530

兄の力 その②

光る埃の中の


兄の残り香


手に触れる


仄かな熱

2


場面は移り変わる。


「く、そ・・・」


地面の上に仰向けに倒れ込んだ狂華は、頬に着いた泥を拭い、青い空を見上げた。


何とか受身は取れたものの、背中がズキズキと痛む。折れてはいないにせよ、いずれ青く腫れ上がるだろう。


「あのガキ・・・」


舌打ちとともに身体を起こす。


「油断した・・・」


狂華と手を合わせていた、あの薔薇班の「桐谷」という男。


彼の剣がただの武器だと油断していた。


まさか、能力武器だったとは。


(彼が溜め動作をしたのに気が付かなかったわ)


桐谷の【甲突剣】は、衝撃波を鋒に溜め込んで、高威力のエネルギーを放つことが出来る代物。


それに気が付かなかった狂華は、彼の一撃を受けて彼方へと吹き飛ばされたのだった。


見たところ、桐谷が追撃してくる様子はない。恐らく、副班長の狂華よりも、班長の香久山桜を倒すことを最優先にしたのだろう。


(なめやがって・・・)


狙われなかったことは、幸運であったが、やはり、侮辱的であった。


狂華は、直ぐに刃下駄を地面に突き立てて立つと、香久山たちが交戦している場所へと戻ろうとした。








その瞬間、狂華の背筋に冷たいものが走った。


「っ!?」


まるで、首筋を、冷たい舌で舐められたようなそんな不快な感じ。


身体を身構えて、振り返る。


しかし、何も無い。何もいない。


大体、この辺りは荒野であり、障害物も見当たらない。敵襲があったとしても身を隠すことが出来ないのだ。


(なによ、今の・・・?)


まだ背筋がゾクゾクとしていた。


よく良く考えれば、この感覚、初めてでは無い。香久山桜と行動を共にしていた時は、彼女の言動に取られて気が付かなかったが、この冷たい感覚は何度が感知している。


そして、覚えがあった。


(これは・・・、視線・・・?)


身体中をまさぐられるような、ザワザワとした感じ。視線に似ていなくもない。しかし、当然どこから誰かが見ている様子もない。


(・・・、気持ち悪いわね・・・)


狂華は、汗と共に体に張り付いた【恐怖】を払い除けると、そのまま走り出した。


走り出した途端、身体が再びビクッと硬直した。


「っ!?」


頬がひりつく。


痙攣する指先を見れば、爪が伸びて赤く染まっていた。


「これは・・・、私の能力・・・」


狂華は、UMAと人間の力を半分ずつ得ている【悪魔の堕慧児】の一人である。


彼女がUMA化した時の能力は、【妲己】。頭に狐の耳が生え、腰には狐の尻尾。そして、爪は獣のように鋭く伸びるのだ。


悪魔の堕慧児であることが、香久山達にバレないように、UMAハンターとして活動している時はこの能力をひたむきに隠している。


その能力が、狂華の意思に反して発動したのだ。


(・・・、どういうこと?)


とりあえず、狂華は自分の意思で、能力を解除した。


人間の姿に戻り、気を取り直して走り出す。


「早く桜さんの援護に回らないと・・・」


しかし、再び狂華の身体がビクンと脈を打った。


そして、狂華の爪が赤く染まり、頭から狐の耳が生える。


「っ!? また?」


ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。


緊張と無意識が混じり合い、狂華の心臓が激しく跳ねる。


抑えようにも、制御が効かない。


「くっ!!」


狂華は辺りを見渡した。


いま、この姿を誰かに見られるわけにはいかない。狂華が、UMAハンターに仇をなす【悪魔の堕慧児】とバレれば、居場所を追われかねなかった。


(いざとなったら、【妲己】の幻惑の能力で撹乱させるけど・・・)


身体中を毛虫が這うような感覚とともに、狂華の身体が【妲己】のものへと変化していった。


ついには、狐の耳。瞳は金色に染まり、爪は毒々しい赤色に変化した。


着物を突き破り、狐の尻尾が顔を出す。


「くっ・・・」


狂華は、完全に悪魔の堕慧児の姿に変わってしまった。


(何が起きてるの・・・!?)


その時、直感で気がついた。


脈を強く打つ。


つま先が、とある方向を向く。


そこに、無性に行きたくなってしまう。


(これは・・・、もしかして・・・、共鳴!?)


間違いない。


感覚が鋭利になっているのだ。


この近くに、【能力者】がいる。ただの能力者ではない。


DVLウイルスを媒体とした能力者だ。


(DVLウイルスを元にして能力者に覚醒した者は・・・、私たち【悪魔の堕慧児】と、そのDVLウイルスの元凶である【悪魔】を体内に封じている、【市原架陰】・・・。この二つに限られる)


しかし、市原架陰が能力を発動したから、その余波が狂華の能力にも干渉するなど聞いたことがないし、経験したことも無い。


では、狂華とは別の悪魔の堕慧児がいるということか?


(そんな・・・、馬鹿な・・・)


狂華は、浅い息を必死で飲み込んだ。


喉の奥が渇望するように開閉して、乾いた空気を吸い込む。










その時だった。


「やあ、こんにちは、お嬢さん」


狂華の背後に、誰かが立った。











その③に続く





その③に続く

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