【第83話】兄の力 その①
耳元で羽虫が鳴いた
私は死を確信した
1
クロナが、舞い散る桜の花びらに気を取られている隙に、香久山桜は弾幕から抜け出して、援護射撃をしていた真子へと斬りかかった。
「まずはあなたを仕留めさせて貰うわ!」
「くっ!!」
近接はまずい。
真子は矢を引き絞りながら下がる。
香久山桜は、引くことなく真子に近づく。
たまらず、真子は矢を放った。
「くらえっス!!!」
炎を纏った矢が、香久山に迫る。
香久山桜は、薙刀を一振して弾いた。
(一発一発の威力は大したことないようね・・・。やはり、援護型の武器か・・・)
あの一撃で、真子の力量を悟った香久山は、恐怖することなく真子に接近する。
(くっ!! ダメだ!!)
慌てたせいで、真子は次の矢を手に取ることが出来ない。それどころか、下がった拍子にかかとに小石が引っかかった。
「うっ!?」
グラッと、バランスを崩す。
香久山の目がぎらりと光った。
「もらった!!」
無防備な真子に、薙刀を振り下ろした。
どうすることも出来ない真子は、思わず目を閉じる。
次の瞬間、香久山の手の甲に強い衝撃が走った。
「っ!?」
見えない力に腕が吹き飛ばされ、刃の軌道が逸れた。
直ぐに立て直そうとしたが、指先が痺れ、肩の力が抜ける。
振り返ってみれば、狂華と戦っていたはずの桐谷が、甲突剣の鋒をこちらに向けて立っていた。
(あの子がやったの?)
それは、桐谷の甲突剣の能力だった。
切っ先にエネルギーを蓄積して、前方に突く。そうすれば、エネルギーが衝撃波の形となり、遠くの獲物を貫くのだ。
「へへっ!!」
してやったり顔の桐谷が、こちらに斬りこんでくる。
「どういうこと?」
香久山は、冷静さを保ちながら、桐谷の攻撃を受け流した。
「狂華はどうしたの?」
「あの女、【狂華】って言うのか」
二人が切り結ぶ。
桐谷は、香久山に顔を近づけるとニヤリと笑った。
「大丈夫だ。仕留めてはいない。だが、暗器を出してちょこまかと鬱陶しいから、こいつの能力で遠くに吹き飛ばしておいた!!」
薙刀と刃を合わせていた、桐谷の【甲突剣】の細い刃から、熱気が放たれた。
「っ!!」
まずい。
と思った瞬間、香久山は地面を蹴って桐谷から距離を取ろうとした。
「もう遅いんだよ!!」
桐谷は、エネルギーを蓄積させた甲突剣の鋭い鋒を、香久山に向けて突いた。
その瞬間、鋒から霧釘のような鋭い衝撃波が放たれる。
香久山桜は、思わず腕を胸の前に交差して防御姿勢を取っていた。
ドンッ!!!!
腕のガードを伝わり、香久山の肺の強い衝撃が走る。
パキパキと、関節が鳴る音がしたと思えば、その衝撃は香久山翼々風魔扇背中を突き抜けた。
「ふぐっ!!」
歯を食いしばり、苦痛に耐える。
そして、横目で桜花吹雪が発生している方を見た。
(もうすぐ、桜花吹雪の効力か消える)
香久山桜の、桜花吹雪は、現実の桜を発生させて敵を撹乱しているわけではない。
地面に特殊な信号を与え、空中を散るその微細な埃をピンク色に変色しているだけだ。
つまり、時間が経てば消える。
(約三秒後。三秒後に、桜花吹雪が解除されるから、この子達は、三人になってしまう・・・ )
百合班にとってはかなり不利な状態。
案の定、三秒後に、消え失せた桜花吹雪の中からクロナが飛び出した。
「真子ちゃん!! 桐谷!!!」
クロナは、一瞬の判断で、真子とクロナに指示を与えると、三人で香久山を取り囲んだ。
「おらっ!! もう一人の女が帰ってくるまでに叩くぞ!!」
「わかってる!!」
クロナと桐谷が同時に斬りこんだ。
「甘いわね」
香久山桜は、冷静に薙刀を地面と平行に一閃した。
刃の先から、薄紅の花びらが弧を描いて放たれる。
「っ!!」
思わず、桐谷が立ち止まる。
この桜が無害であるということを知っているクロナは、そのまま突っ込んで行った。
ギンッ!!!
香久山桜の薙刀と、クロナの日本刀が合わさる。
刃と刃が擦れ合い、ギャリギャリと不協和音を奏でた。
「確かに、私の【名刀・ソメイヨシノ】の能力【桜花吹雪】は、敵の目を撹乱させる。気にしなければなんてことは無いわ・・・」
そして、香久山桜は「だけど・・・」と言って、強く踏み込んだ。
クロナの足がズルッと、下がる。
「人間の目はね、視界に飛び込んでくるものには反応してしまうの。ほら、虫とかが飛んでると、大したこと無いのに、顔を背けちゃうでしょ? それと同じ。私の桜は、人の動きを鈍らせる!!!」
ギンッ!!!
振り切った香久山桜の薙刀が、クロナを吹き飛ばした。
「さあ、そろそろ決着と行きましょう」
その②に続く
その②に続く




