【第82話】黒羽 その①
背中に翼が生えた友人は
太陽を目指して飛んで行った
黒焦げた友人を見た私は
月を目指して飛んで行った
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(さて、どうする・・・)
立ち塞がる百合班の二人を前にして、クロナは冷静になって考えた。
倒すべき、または撒くべき相手は、百合班班長【香久山桜】。同じく百合班副班長【狂華】。
その格上相手に、三席二人。四席一人が立ち向かわなければならないのだ。
(素性が分からないわね・・・)
先程、逃走した三人を阻んだ桜花吹雪。
恐らく、あの二人のうちの一人の武器の能力と見るべきだろう。
能力は、「桜花吹雪を舞わせて、敵の視界を奪う」。といったところ。しかし、他にも、あの能力を応用させて攻撃してくる可能性もある。
(とりあえず、様子見ね・・・)
クロナは、懐からプラスチックの玉を取り出した。
「煙玉!!」
それを、香久山達に向かって投げつける。
「二度は喰らわないわ!!」
香久山は、薙刀を一閃して、刃の嶺の部分でそれを弾いた。
カツンッ!!と、乾いた音を立てて、煙玉が明後日の方向へと飛んでいく。
その隙に、クロナが切り込んだ。
(あれは陽動よ!!)
「なるほど、陽動だったか・・・」
香久山桜は、瞬時に切り替えると、クロナの振り下ろした刀を受け止める。
ギンッ!!!
ぶつかり合う薙刀と、日本刀の刃。
「さて、どちらが強いか、力比べと行きましょうか!」
香久山桜は、嬉しそうな表情を浮かべると、薄紅の薙刀を指先で回転させた。
「名刀!!【ソメイヨシノ】!!」
歴代の合戦の戦場にて、一番活躍した武器は、日本刀でもなく、火縄銃でもない。
日本刀は、美術品として重宝された。火縄銃は、生産技術が追いつかず、多用することが不可能だった。
ならば、一番戦場で戦果を上げた武器はなんなのか?
それは、【槍】であった。
槍は、リーチが長いために、安全に敵と切り結ぶことが出来る。さらに、長い柄のしなりを利用すれば、強力な破壊力を発揮する。
その槍の威力の系統を、薙刀は引き継いでいる。
ギンッ!!!
「くっ!!」
一度触れただけで、クロナの身体が吹き飛ばされていた。
(この人・・・、強い!!)
筋力だけでは無い。あの薙刀の力を余すことなく発揮している。
わざと、柄を長く持って振ることで、柄のしなりを利用して一撃の重さを底上げしている。
リーチの短い日本刀では、受けるのに一苦労だった。
「ふっ!!」
クロナは、手を着いて着地。
桐谷がクロナの横にたった。
「おい、無理すんなよ!!」
「ダメよ!! 無闇に切り込んじゃダメ!!」
今にも飛び出して行きそうな桐谷を何とか宥める。
相性が悪い。
特に、桐谷の【甲突剣】はそうだった。
無闇に踏み込めば、あの広い射程距離を持つ薙刀の刃の餌食だ。
それに、まだ香久山桜の隣には狂華が控えている。
彼女も、何を仕掛けて来るか分からない。
真子がもどかしそうな声を上げた。
「だったら!! これっス!!!」
十本の矢を弦に掛けると、天に向かって放った。
「【名弓・天照】!! 【日輪煌々】!!!」
炎を纏った矢の雨が、香久山桜達目掛けて降り注ぐ。
「っ!!」
香久山は、薙刀を天に向けると、高速で回転させて矢を弾いた。
その隙を突いて、桐谷が斬りこんだ。
「スキありいっ!!」
矢を防ぐためにがら空きになった香久山の腹目掛けて、【甲突剣】の鋭利な鋒を放つ。
その瞬間、狂華が着物の袖から暗器を放った。
「っ!!」
ギンギンギンッ!!!
何とか、三本のナイフを弾く。
「くっそ!!」
「お前に桜さんは触れさせない!!」
狂華は、刃が付いた下駄で踏み込むと、桐谷に向かって高速の蹴りを放った。
身軽な桐谷は、バックステップを踏んでそれを躱す。
「くっそ!! パンツ見えてんぞ!! このびっち!!」
「あんたら薔薇班は、そういう乱暴な言葉遣いを教えて貰っているのか!!」
ひとまず、狂華の相手は桐谷。ということでいいだろう。
クロナは、桐谷が狂華を引き付けている隙に、大将の首を取りに向かった。
香久山は、桐谷の相手を狂華に任せて、自分は向かってくるクロナを処理しにかかる。
「あの子は任せたわよ。狂華・・・」
薙刀を長く握り、大振りで一閃した。
クロナは、攻撃のタイミングを計らい、上へと跳んで躱した。
(リーチが長い分、動きは遅い!!)
上空で体勢を整え、振り切ったことにより隙が生じている香久山へと、刀を振り下ろした。
しかし、香久山は冷静に上体を仰け反らせてそれを躱した。
「薙刀の弱点くらいわかっているわ。それを補ってこそ、一流のUMAハンターってものよ」
その②に続く
その②に続く




