表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UMAハンターKAIN  作者: バーニー
28/530

第13話 トラウマ その②

悲しみは僕のもの

3


「成美・・・、について・・・!?」


美桜の黒い目が見開かれた。


架陰は頷いた。


「ああ、僕は、未確認生物研究機関、SANAより派遣された、UMAハンターなんだ。だから、君の友達を襲った犯人・・・、UMAを探している」


自己紹介の前半部分は、初めてクロナに出会った時の言葉をそのまま引用した。


改めて使ってみると、これでよく信じれたな・・・、と、クロナの言葉を信じた自分を感心に思う。


美桜は半開きの扉を閉めようとする。


「帰ってください」


「ああ、待って!!」


架陰は何とか足を挟み込み、それを阻止した。


「ごめん、ごめん、本当に怪しい者じゃないんだ!」


いや、十分怪しい者だな。


「本当に、君の友達を襲ったUMAを探したいんだ!」


隈のせいもあるが、美桜は架陰を怪訝な顔つきで見た。真一文字に結んだ口が、いかにも「この人と話したくない」と言っているようだ。


だが、この【不信感】に何かあると踏んだ。


「お願いだ。怪しいと思うならここで話そう。端から家に入れてもらう気は無い」


架陰はじっと美桜の疲弊しきった瞳を見つめた。


美桜も架陰を睨む。


数十秒の沈黙が舞い降りた。


「・・・・・・」


遠くで、カラスが鳴く。


「・・・・・・・・・」


踏切の降りる音がする。


「・・・・・・・・・・・・」


乾いた風が通り抜けた。


「・・・・・・・・・・・・・・・、わかりました」


頑なに閉めようとしていた扉の力が緩まる。


架陰は安堵の息を吐くとともにお礼を言った。


「ありがとう」


早速、当時の状況を聞こうとする。


だが、架陰が口を開くよりも先に、美桜は扉を勢いよく閉めた。


「はっ?」


漏れたのは間抜けな声。


「えっ!? ちょっと!? 美桜さん!?」


架陰はどんどんと鉄扉を叩いた。わかりましたと言っておいて、この仕打ちは無いだろう。


扉越しに、美桜の声がした。


「すみません・・・、先に、着替えさせてください・・・」


「あっ、そうか・・・」


そう言えば、美桜はパジャマを着ていた気がする。これから話をすると言うのに、あの姿は確かに恥ずかしい。


そして、10分後・・・。


「お待たせしました」


扉が開いて、身なりを整えた美桜が顔を出す。目の隈は消えていないが、顔を洗い、髪を整え、制服に着替え、清潔感のある格好になっていた。


「どうぞ・・・、親は仕事に行っているので」


「お邪魔します」


架陰は肩を縮ませながら美桜の部屋に入った。今改めて考えると、これは女子高生の部屋だ。美桜が疑っていたのは、こういう部分もあるのかもしれない。


架陰はリビングのダイニングテーブルに腰を下ろした。足元に刀と着物を置く。


向かいに、美桜が座った。用意周到にも、湯気が立つコーヒーを差し出す。


「ありがとう・・・」


おそらく、着替えている途中にいれたのだろう。架陰は素直にコーヒーを受け取り、砂糖とミルクを入れて一口飲んだ。


いい豆を使っている。響也も、カフェインが取りたいならコーヒーを飲めばいいのに。と、ふと思う。


「よし、本題に移ろう・・・」


架陰は、花柄のデザインのコーヒーカップをソーサーに戻した。


「改めて聞くけど、君が、成美さんが、死の直前に電話をかけた相手だよね?」


美桜はコーヒーを一口啜り、頷いた。


「はい。『直前』と言ってしまえば、語弊があるのですが・・・」


「語弊?」


直前ではないと言うのか?


美桜は少し考える素振りを見せた。どう、言葉にして表現すべしか悩んでいるのだろう。


「成美から電話があったんです・・・、『変な木を見つけた』って・・・」


「木?」


吸血樹の事か。


「成美は結構、都市伝説とかオカルト好きだったので、すごく興奮した様子で、携帯に電話をしてきて・・・」


「どういう内容だったの?」


「成美が殺されていた場所・・・、あの公園は、成美の通学路の途中にあるんです。成美は、その公園に、『普段は見慣れない枯れ木が生えている』と言いました」


「それで、君はなんて言ったの?」


「『得体の知れないものには近づかない方がいい』って言ったんですけど、『ちょっと見てくる!』って、興奮した口調で言われ・・・、電話を切られました」


「そして、翌日、成美さんは・・・」


架陰は、クロナと見たあの無惨な成美の姿を思い出し、静かに声を震わせた。


すると、美桜は首を横に振った。


「いえ、その、違うんです・・・」


「違う?」


架陰は意味深な言葉に、思わず身を乗り出す。


美桜は何かを言おうと息を吸い込んだが、喉の奥から音が出てこない。肩を震わせる。そして、目が涙で潤み始めた。


「?」


架陰は、このような、何かに怯えた姿を最近見たことがあった。


(まるで、翔太くんと同じ・・・)


UMAを前にして、無力な自分と、死者を嘆く心。


美桜は、ようやく振り絞った。


「わたし、心配になって・・・、あの公園まで駆けて行ったんです・・・」


「あの、公園に、行った・・・?」


「は、はい・・・」


つまり、見たということか。自分の目で、自分の足で。


「見たんです。血を抜かれ、干からびて死んでいるところを・・・」


「っ・・・!」


架陰は目を伏せた。黒いコーヒーの水面に、自分の顔が映り込む。


友達の死体を、目の当たりにした・・・。


美桜が「ふふ」と笑った。自嘲に近い笑いだった。


「わたし、その後、どうしたと思います? 怖くて、逃げたんですよ・・・」


そして、長い黒髪をばさりと広げて、テーブルの上に突っ伏す。


涙でくぐもった声で、語る。


「友達が、苦しい思いをしたのに・・・、警察も、救急車も呼ばないで・・・、わたし、逃げたんだ・・・。ただ、成美を襲った化け物から、我が身可愛さに、逃げたんだ・・・」


「・・・・・・」


そうか、だから、ずっと部屋に閉じこもっていたのか。ずっと、自分に罪悪感を抱いていたのか・・・。


架陰は歯ぎしりをした。


UMAが我々に与えるもの。【命の消失】だけではない。まるで、地面に根を張ることで構成していた世界を、丸ごと、根こそぎ持っていかれるのだ。


【心の喪失】


彼女が悪いのではない。未知の恐怖を前にしては、逃げることも必須だろう。だが、その後に生じるのは、UMAによる虚構だ。


翔太もそうだ。そして、今架陰の目の前で泣いている少女もそうだ。


UMAの欺きの下に立っている。


「・・・・・」


架陰はそっと立ち上がった。


「やめてくれ。泣くのは」


静かに言った。


美桜はハッとして顔を上げる。目が、真っ赤だ。




「僕が、【吸血樹】を必ず、倒すから・・・、もう、自分を責めないでくれ」







その③に続く



その③に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ