【第80話】飛ぶ斬撃 その①
空に憧れた人間は
ダンボールの翼で崖を蹴る
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「なんですか・・・、その姿は・・・!?」
襲ってきた響也の姿を見た時、西原の全身に鳥肌が立った。
脳裏を「殺られる」という言葉が過ぎる。
切り刻んだはずの響也は、変貌を遂げて、再び西原の目の前に立ち塞がる。
黒い粒子が寄り集まり、響也の首から下を覆う黒布と化す。顔には、髑髏の面が装着されており、その奥の響也の目がぎらりと光った。
冷たい空気・・・、まるで地獄にいるかのような緊迫した空気が漂う。
響也は、左手で自身の顔に触れた。
硬い、骸骨の面の感触が残る。
「・・・、なんだこりゃ?」
響也すらも、この現象を理解していなかった。
(急に傷の痛みが消えて、動けるようになったと思えば、こんな姿になったな・・・)
バサバサと、見に纏った黒布が揺れる。骸骨の面で視界は狭まったが、まるでエナジードリンクを飲んだ後のように集中していた。
そして、右手にはDeath Scytheだ。
「まるで、【死神】だな・・・」
響也は、その姿のまま、Death Scytheを構えた。
どうしてこのような姿になってしまったのか。大雑把な響也にとってはどうでもいいこと。
一つ言うとすれば、「気分がいい」。
痛みも、身体に蓄積していた疲労も、綺麗さっぱりになくなっていた。
西原は、響也の動向を伺いながら、静かに直刀を構える。
(どういうことだ?)
今、ありえないことが起こった。
一つ、怪我をしている響也が動いた。
二つ、響也の姿が変貌した。
(響也様は、能力者だったのか?)
いや、それはありえない話だ。響也は、十年前に蔓延したDVLウイルスの影響を受けて、能力者としての才能を潰されている。
だからこそ、武器を使って戦っているのだ。
西原は、響也の姿を観察する。
響也の黒布を構成するあの、「黒い粒子」。
(あれは・・・、架陰様の?)
よく見れば、架陰の能力【魔影】に似ていないことは無い。
(能力者は、DVLウイルスの影響で生まれない・・・、しかし、今私の目の前に【能力者のようなもの】が現れている。ということは、やはり、【異例】の架陰様と何か関係があるのか?)
考えている暇は無かった。
その瞬間、響也が強い脚力で地面を蹴り、西原に迫った。
「っ!!」
西原は剣を合わせることを控え、後退する。
響也の振り下ろしたDeath Scytheの刃が地面につき立った。
ドンッ!!!
地面に亀裂が入り、粉塵が舞った。
(斬撃の威力が上がっている!?)
響也は、低い姿勢から地面を縫うようにして切り込むと、西原へと振った。
西原は、さらに地面を蹴って下がる。
(あの刃と触れ合うのはまずい!!)
今の一撃を見て確信した。
少しでも触れれば、西原の直刀は、切断される。
西原は、なるべく距離を取ろうと、とにかく後退した。
距離をとり、隙をついて再び切り刻めればいい。
(まあ、あの黒布がどれほどの耐久を持っているのかが味噌だが・・・)
一発、二発、三発。
三回地面を蹴り、西原は響也から距離をとる。その間、約二十メートル程。
(ここまで来れば大丈夫か?)
油断はできない。響也の脚力があれば、この差を一瞬で詰められる可能性だってあった。
響也は、西原を追うのを辞めていた。
地面に刺さったDeath Scytheの刃を抜く。
その三日月型の刃を、えぐれた地面と平行に構え、上半身を捩った。
その様子を見て、西原は首を傾げる。
(何をする気だ・・・!?)
あれは確か、響也の必殺技である、【死踏・一の技・命刈り】の構えだ。
しかし、響也と西原との距離は二十メートル空いている。
(この距離で、どうやって技を当ててくる!?)
西原の警戒をよそに、響也は、ボソリと言った。
「死踏・・・、一の技・・・」
その瞬間、Death Scytheの刃が白い光を発した。
「っ!?」
「命刈り・・・」
そのまま、空間に向かってDeath Scytheを切りつける響也。
白く光るDeath Scytheの刃は、空を切ったかのように思われた。
辺りに、金属と金属を擦り合わせるような音が響く。
ギャリンッッ!!!!
西原は、目を疑った。
光が、飛んでくる。
Death Scytheから放たれた光が、三日月の形となって、真っ直ぐに、こちらに飛んでくる。
「何っ!!」
響也の能力【死神】とは・・・。
【斬撃の実体化】であったのだ。
その②に続く
その②に続く




