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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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西原外伝 その⑩

両手に薔薇


私の拳は血だらけで


「花蓮の方が優秀だからだよ」


御館様は、そう言った。


一番言われたくないことだった。


だって、そうだろう?


私が一番、花蓮様と紅愛様と年月を共にしてきたのだ。「城之内家のため」と言って、毎日毎日、色々な企業の社長と食事をしたり、海外に視察に行ったりと、ほとんどこの屋敷に居ない御館様より、私の方が、双子のことを見てきたのだ。


それなのに、なぜ、そんなことを言うんだ?


私はその時初めて、御館様のことが信用ならなくなった。


敬愛していた。


敬愛していたはずなのに、まるで、いらなくなった子を、巣から落とす、畜生の親鳥に見えた。


「お願いします。御館様・・・」


私は頭を下げた。


「どうか、お考え直しください・・・」


「分かる。お前の気持ちは分かる」


御館様はひたすらに、優しい口調だった。


「愛情が湧いたのだろう? まるで、自分の子のような、そんな、愛しく思える気持ちが、湧いたのだろう?」


「はい・・・、私は、あの子たちが、大好きです。これからも、あの子たちの成長を見守るつもりでいました・・・。ですが・・・、紅愛様だけ、見捨てられることなど・・・」


「西原・・・」


御館様は、ため息をついた。


そして、まるで泣きじゃくる子を宥めるように、ゆっくりと、ねっとりとした声で言った。


「これ以上・・・、反発しないでくれ。それ以上口答えされたら・・・、私は、お前をクビにする他無くなる・・・」


「っ!!」


私は目を見開いて、御館様を見た。


御館様は、指を二本立てる。


「二つ、選択肢がある」


一つ。


「紅愛を養子に出し、お前は花蓮だけを育てる・・・」


二つ。


「お前は私に反発を続け、城之内家を追い出される。もちろん、花蓮を育てることも、紅愛を育てることも叶わない・・・」


「・・・・・・」


なんだ。


なんだよ。


一つしかないじゃないか。


花蓮様を、選ぶことしか、できないじゃないか・・・。


私の苦渋の決断を感じ取った御館様は、「それでいい」と頷き、ソファの背もたれに体重をかけた。











「双子の内の一人は、ずっと『捨てたい』と思っていた。一族の汚点なんだ。畜生腹など、忌み子など、これから、もっと発展していく城之内家には、必要無いんだ・・・」











それから、御館様はこんなことを言った。


「紅愛は、これから城之内家を離れる準備をする。うちの地下には、仕置きをするための牢屋があってな・・・、そこに入れておけ・・・」


「え・・・、牢屋?」


「まあ、西原、お前には無理だろうから、私がやろう・・・」


御館様は、顎の髭を撫でると、ソファの背もたれから背中を剥がした。そして、部屋を出ていこうとする。


私の横を通り過ぎた時に、肩をぽんと叩いた。


「じゃあ、これからは花蓮だけの世話を頼む。花蓮だけでいい。紅愛は、もう、いい」


そして、出ていってしまった。










それから、まるで魔法にかけられたかのように、城之内家での日常が変わった。


御館様の子供は、一人だけ。


そう、花蓮様だけとなった。


紅愛様は、どこに行ってしまったかと言うと、私にも分からなかった。


屋敷の中から、忽然と姿を消したのだ。


私は御館様の言葉「地下牢」を頼りに、地下へと行けそうな場所を探したが、どこにも見つからなかった。


他の従者に聞いて回ったが、誰も「知らない」「紅愛様など、知らない」と言われた。


もちろん、御館様も、「うちの子供は、花蓮一人だけだ」の一点張りだった。











私は、御館様にバレないように、必死になって紅愛様の監禁された場所探した。










紅愛様を発見したのは、彼女が行方不明になってから、一ヶ月が経った時だった。
























































私は、やっとの思いで、庭の物置部屋の裏にあった、地下への階段を見つけた。


重い扉を開けて、石の階段を降りると、そこには、三畳程の地下牢があった。


その中に、紅愛様は蹲っていた。


風呂にろくに入らず、身体から異臭を放ち、美しかった髪の毛は白く変色していた。


何度も壁を叩いたのか、拳の皮がめくれ上がり、血が飛び散っている。


誰かが運んでくる食事には手をつけず、ゴキブリやネズミがたかる有様。


「紅愛様・・・」


私は、絶句した。


私に気づいた紅愛様は、ゆらりと顔を上げ、充血した目でこちらを見た。


そして、こんなことを言った。










「私は、城之内カレン・・・」










「え・・・」


私は、耳を疑った。


今、なんと言った?


紅愛様は、まるで自分に言い聞かせるように、何度も何度も呟いた。


「私は城之内カレン私は城之内カレン私は城之内カレン私は城之内カレン私は城之内カレン私は城之内カレン私は城之内カレン私は城之内カレン私は城之内カレン私は城之内カレン・・・」


ああ、そうか。


私は確信した。


このお嬢様は、気が狂ってしまった。


突然、親に捨てられた。


自分ではなく、花蓮様が選ばれてしまった。


この、陽の光を見ることができない、冷たい地下牢に、閉じ込められた。


受け入れられたくない現実は、私が紅愛様を見つけられないこの一ヶ月の間に、少しずつ改変されていき、ついには、精神が崩壊した。










自分が、「城之内カレン」だと思い込んでいる。









「ねえ、西原・・・、早くここから出してちょうだい。お腹が空いたわ・・・、それに、クレアにも会いたいわ・・・」










私は、その時に決意を固めた。


もう一度、蓮花様との約束を再確認する。










「私の子供を護ってね」









もちろんでございます。


私は、左手に握っていた杖の柄を引いた。


杖の中に仕込まれていた、白銀の直刀が姿を現し、薄暗い空間で鋭く光った。


お守りします。


この命に替えても、守り続けます。


貴方との約束だから。


貴方の子供だから。


私は、見かけによらず、強欲な性格でして、欲しいものは全て欲しい。守りたいものは全て守りたい。


たとえどれだけ腕を広げようが、届かないくらい広大なものでも、この手で、必ず、護って行きたいのです。


私は、城之内花蓮様も護る。


そして、城之内カレン様も護る。


「失礼します」


私は、牢屋の鉄格子に向かって剣を振り下ろした。


長年かけて磨き上げたこの抜刀術は、鉄をすんなりと切り裂いた。


そした、紅愛様・・・、いや、カレン様を救出する。










「カレン様、行きましょう。あなたは、城之内家の時期当主でございます」











護る。


護る。


貴方の命も、貴方の立場も。










私が私であるために。


貴方が、「城之内カレン」であるために。


それが、貴方の幸せなのだと願って、私は護り続ける。










これが、私の戦う理由でございます。

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