西原外伝 その⑦
曇天に価値など無いのに
雨粒に美しさなど無いのに
私は雨粒に濡れながら
曇天を見上げている
7
携帯のワンセグテレビを見ていると、天気予報士が、「傘が欠かせない一日になるでしょう」と言っていた。
私は、城之内家の豪邸の庭に停めていたリムジンのトランクを開けて、傘を確認する。
無かった。
ちょうどその時、傍を齋藤が通りかかった。
私は好機。と思い、齋藤を呼び止めた。
「齋藤」
齋藤は、肩をビクつかせて振り向く。
「西原さん、どうしたんですか?」
「すまないが、屋敷から、傘を取ってきてくれないか?」
「ああ、分かりました。確か、昼頃から雨が降りますからね・・・」
齋藤は私に一礼すると、屋敷の門の方へと走り出した。
私は、「屋敷の中は走るな」という言葉を飲み込む。頼み事をしたのは私なのだ。それに、上司からの命令なら、急いでこなそうとするのも当然。
齋藤は、この家にやってきてから随分と経つのに、まだ、UMAハントに出撃することを許されていない。
まだ、御館様に「早い」と言われているのだ。
お嬢様達がUMAハントに駆り出し、功績を上げて帰っているのだから、齋藤にだってそのくらいの仕事は与えてもいいとは思う。
私は、お嬢様達に付きっきりなので、齋藤にも構ってやれない。齋藤も、多分お嬢様の顔を知らないのだろう。別に隠しているつもりは無い。だが、それだけ、お嬢様は私以外の誰かと触れ合う機会を与えられなかったのだ。
時間が来たので、私は屋敷の部屋に、お嬢様を呼びにいった。
「花蓮様、紅愛様、出かけますよ」
扉を開けると、既に着替えていた二人が、「やったあ!」と、歓喜の声を上げて飛び出してきた。
ネズミのようにチョロチョロと廊下を走り始めるので、私は素早く、二人の首根っこを掴んだ。
「お二人!! 廊下は走りません!!」
私が一括すると、双子は声を合わせた。
「「はーい!!」」
怒られて、謝る時まで、声が揃う。
本当に見ていて微笑ましい。
「花蓮様、紅愛様、わかっていますね? 今日のお出かけの意味を」
「「わかってるよー!! UMAを倒すんでしょ?」」
「倒しません。行きますよ」
私は花蓮様を右脇に、紅愛様を左脇に抱えた。
そして、車庫のリムジンへと歩き出す。
途中、床をはいていたメイドに挨拶をされた。
「いいですか? 今日は、UMAの捕獲です。新種のUMAは特に研究対象になりますからね。いかに傷をつけないように戦闘不能にする方法を教えますから、覚悟してください」
「「はーい!! 覚悟覚悟!!」」
双子は、声を揃えた。
本当に、やる気の欠片も見当たらない声だったが、これでも、結構、私の期待した通りのことをしてくれる。
天才形なのか、それとも、はしゃいでいる方が身体の力が抜けて、実力を発揮できるのか、まだ私には分からない。
二人を、リムジンの後部座席に座らせ、シートベルトを装着させると、私は運転席に乗り込んだ。
「じゃあ、行きますよ?」
「「はーい!! 出発進行!!」」
まるでピクニックだな。
私は「集中してください」と窘めたが、口は笑っていた。
リムジンのエンジンを掛けて、サイドブレーキを引く。そして、アクセルを踏んだ。
今日行く場所は、郊外の山。
あそこには、昔より多くのUMAが目撃されている。江戸時代から続く、城之内家の未確認生物討伐隊も、実践練習では、あの山を利用することが多かった。
それに、最近はあそこには踏み入れることはなかった。きっと、UMAも大量に湧いているはずだ。
もしも、未知のUMAに遭遇した時は、私が身を呈して護る。まあ、この二人は、私がいなくても十分強いのだが。
※
山での実践練習は、まずまずの結果に終わった。
昼頃から雨が降り始めたことで、UMAがあまり出現しなかったこともある。地面がぬかるみ、お嬢様たちの動きが鈍ったこともある。
だが、手こずりながらも、ローペンの捕獲には成功した。
思ったほどではなかったが、十分な収穫と言っても良かった。
私は、リムジンの傍に着替え用のテントを張り、中で、お嬢様の着替えを手伝った。戦闘服は雨でびしょ濡れだったし、風邪を引かれても困る。
代えの服に着替えた花蓮様と、紅愛様は、「シャワー浴びたーい!!」と言いながら、リムジンに戻った。
私も、サッとタキシードに着替え直し、リムジンの座席に座る。
「じゃあ、帰りますよ」
「「はーい!!」」
黒塗りのリムジンは、山を降りて、住宅街に出た。
窓の外は、ひっきりなしに雨が降っていて、ワイパーが絶えず右に左にと、水滴を拭う。
お嬢様達は、疲れてすやすやと眠っていた。
帰ったら、ココアでも入れてあげよう。
そう思いながら、前を向き直った。
その時、私は、路地を歩くとある人影を見ていた。
「あれは・・・」
見覚えがある後ろ姿。左手に握る、刀ケース。ずぶ濡れになった学ラン。
以前、「UMAハンター講習会」で、アクア様と一緒にいた人だ。
名前は確か・・・。
「雨宮黒真様・・・」
その⑧に続く
その⑧に続く




