骸骨をください その③
鼻の穴から鉤爪を入れて
脳みそを引きずり出し
脇腹に斧を下ろし
はらわたを引きずり出し
噎せ返る臭気の中
転生を望む忌み子の
なんとも美しき様よ
3
響也の斬撃を、結界を使って防いだ時、西原「手を誤った」と悟った。
「行け!! 死神の使い!!!」
死角から、響也のDeath Scytheより分離された、三日月形の刃が飛んでくる。
これは、ただの飛び道具ではない。
Death Scytheを握る響也の意思のもと、その軌道を自由自在に変えることができるのだ。
「っ!!」
西原は顔を逸らした。
パンッ!!
三日月形の刃が、西原が、顔に装着していた仮面に直撃する。
木を彫って作られたそれは、鋭い刃に、一瞬で切断されてしまった。
(しまった!!)
西原への直接のダメージは無かったものの、お面が割れてしまったのだ。
パラッと、真っ二つになった仮面か地面に落ちる。
仮面の奥から、西原の年老いた顔が現れる。
それを見た瞬間、Death Scytheを構えて追撃の体勢に入っていた響也の顔が、明らかに困惑した。
眠たげな目を見開き、薄く上品な唇が震える。
開いた喉の奥から、驚嘆の声が洩れた。
「お前は!!!」
見慣れた顔だった。
いつも、響也の親友の傍にいる男だった。
響也が今まで対峙していた、薔薇班の男が、自分の親友である、城之内カレンの付き人である、【西原】だと、気づいてしまった。
「っ!!」
西原は咄嗟に顔を覆ったが、時すでに遅し。
響也は、西原の顔をしっかりと見てしまっていた。
西原はそれでも、地面を蹴って後退する。
「てめぇ!!」
響也はわけが分からぬまま怒鳴った。
「てめぇ!! カレンの!! 執事の!!!」
西原は観念して頷く。
「左様でございます。私は、カレン様の付き人である、【西原】でございます・・・」
二人は、一時休戦となった。
響也は、Death Scytheの刃を下げる。
そして、深呼吸をしてから落ち着くと、ゆっくりと西原に尋ねた。
「お前・・・、なんでここにいるんだ・・・!!」
「すみません・・・」
西原はただ謝った。
「この戦闘服を見ての通り、私は、薔薇班の人間でございます・・・」
「それは、もう理解した!」
響也が聞きたいのは、そこでは無い。
「なんでお前が、薔薇班にいるんだ!!」
「・・・・・・」
西原は皺が入った下唇を噛み締める。よっぽど力が強かったのか、血が滲んだ。
「申し訳ありません・・・」
「謝ることしかできないのか?」
響也は謝罪なんてものは求めていない。
ただ、困惑しているのだ。
どうして、桜班の城之内カレンに使えている執事であった男が、薔薇班に手を貸しているのか。
いや、まさか、もとより薔薇班の一員だった?
「お前・・・、まさか、桜班のスパイをしていたんじゃないだろうな?」
響也の勘ぐりを、西原ははっきりと否定した。
「違います」
そして、深深と頭を垂れた。
「申し訳ありません。響也様・・・、私は・・・、私の、カレン様に対する忠誠は揺るぎないものでございます。私は、これから先も、ずっとカレン様をお護りする所存でございます」
「だったら、なんで!!」
「こればかりは、言うことが出来ません・・・」
西原はふっと息を吐くと、再び、直刀を構え直した。
「失礼ですが、響也様・・・、あなたには、ハンターフェスが終わるまで眠っていただきます・・・」
「・・・っ!!」
響也は嫌々で、Death Scytheを構える。
脚の筋繊維に鉛でも注射されたかのように、身体が重くなった。
(三段論法なんだよ・・・、全部!!)
A=B
B=C
つまり、A=Cなのだ。
響也とカレンは仲がいい。
カレンと西原は、主従関係にある。
だから、響也は、西原のことが好きだった。
家族のように愛しているカレンと、同じくらいに、慕っていたのだ。
「お前・・・!! 一体、何があったんだよ・・・」
「申し訳ありません」
謝ることしかしない。
「事態は、複雑なのです。あなたが思っているよりも、ずっと・・・!!」
「分からない!!」
響也は感情的に叫んだ。
「私には分からない!! お前が、何をしようとしているのか!! どうして、薔薇班にいるのか!! どうしてUMAハンターであったことを、私とカレンに隠していたのか!! どうして、私を襲うのか!! 分からない!!」
「嘘はいつかはバレるものです・・・」
西原は静かに、ねっとりとした声で言った。
「そして、私が、十年間つき続けてきた嘘が・・・、このハンターフェスで、明かされてしまった・・・!!!」
「・・・嘘だと?」
響也は確認するように聞いた。
「それは、カレンと関係しているのか?」
「その通り・・・」
西原は、はっきりと答える。
「嘘が、化けの皮が、剥がれたのです。ですが、私は、それを認められない。認めてはならない。湖面のような、窓から覗く街並みのような、そんな平穏な日々を求めているのです・・・」
「・・・!!」
西原の目がぎらりと光った。
「終わりにしましょう・・・」
第79話に続く
第79話に続く




