愛が故の沈黙 その③
瀬戸内海を背に向かう
渦潮の木漏れ日を
往来する海賊たちの
勇猛なる石の文字よ
3
西原は、能力者である。
能力【結界】
西原が指を鳴らせば、空間の至る所に薄緑色の結界を張ることができる。
結界の耐久性能は、まだ破られたことがないので分からない。少なくとも、銃弾を防ぐことは容易い。
そして、響也の斬撃を受けることもできる。
「くっ!」
結界に跳ね返された響也は、額から血を流しながら怯む。
その隙をついて、西原が襲いかかった。
(すみません!! 響也様!!)
響也は、西原が使えている城之内カレンの恩人。
たとえ、城之内カレンの秘密を守るためとはいえ、その恩人に刃を振るうのは、西原には身を焼かれる程の罪悪感があった。
その心の痛みに耐えながら、西原は直刀を振り下ろした。
「ふっ!!」
「させるかよ!!」
直刀の刃を、Death Scytheで受け止める。
ギンッ!!
甲高い金属音が弾けた。
西原は歯軋りを一つ。さらに踏み込んで、響也を押していく。
刃と刃が擦れあい、ギャリギャリと不協和音を奏でる。
「・・・!!」
「てめぇ!!」
響也は目を閉じたまま、西原を睨んだ。
無計画に突っ込んだことが、響也の足をとった。
西原の結界によって、額が割れ、そこから流れ出した血液が、響也の眼球に流れ込んだのだ。
痛みに疎い響也とはいえ、粘膜に流れる生暖かい血液は、じくじくと眼球に痛みを走らせる。
瞼の隙間のヌルッとした感覚が、とにかく不快だった。
「はあっ!!」
響也は、右脚を軸として回転して、西原を吹き飛ばした。
「っ!!」
西原は、老体ながら見事な動きで体勢を整え、着地した。
「・・・、さすがですね・・・」
「うるさいな・・・」
響也は着物の袖で目を拭った。
充血して真っ赤になった目を、西原に向ける。
(くそ・・・、能力者か・・・)
だから嫌いなんだ。能力者ってのは。
そう、静かに悔しがる。
響也は能力者では無い。能力者としての素質はあったようだが、十年前に蔓延したDVLウイルスの影響で、その可能性さえも、潰されてしまった。
別に、能力が羨ましい訳ではない。
だが、「あって、便利なことに間違いはない」のだ。
能力があれば、体術が無くても、UMAと十分に渡り合える。実際、桜班の総司令官であるアクアが現役だった頃は、能力を中心とした戦法をとっていたらしい。
そして、能力に体術が付けば、怖いもの無しだ。
能力を使って攻撃することもできる、武器を使って攻撃もすることができる。
(私にだって、能力があれば・・・!!)
能力があれば、響也はさらに強くなることができる。
もっと、たくさんの人間を守ることができる。
(それなのに、なんで私には能力が無いんだよ・・・)
自分なら、能力を有効活用できる術を知っていた。
この、今自分の目の前に立ち塞がっている男のように、己の向上心だけのために人間を襲い、UMAハンターとしての教示を忘れるような、そんな姿にはならない。
(私は・・・、もっと、あいつらを・・・!!)
響也は、いつも気だるげな顔をする。
気だるげに、息をして、気だるげに、UMAと戦う。
自分の興味が無いものには反応せず、ここまで激情するのも滅多に無い。
(怒るだけじゃ、何の解決にもならない。暴れるだけじゃ、腹が減るだけだ。エナジードリンクの摂取量が増えるだけ・・・)
響也は、余計な心配をかけたくない。
面倒事には巻き込まれたくない。
(だけど・・・)
響也は額の血を拭うと、Death Scytheを構え直した。
(私が、「やりたい」と思った道を突き進むんだ。進んできたんだ・・・)
響也の雰囲気が変わったことに気がついた西原は、静かに彼女にお辞儀をした。
「感謝致します・・・」
(やっと、本気になられましたか・・・)
「行くぞ、能面野郎!!」
響也は、己を鼓舞するかのように叫んだ。
地面を蹴り、西原に接近する。
西原は指を鳴らした。
「結界!!」
西原の目の前を、長方形の緑色の壁が現れ、響也の攻撃を防がんと構える。
(一気に仕留めさせて貰います!!)
「二度は食らうかよ!!」
西原の発生させた結界に、響也のDeath Scytheの尖った部分が直撃する。
その瞬間、Death Scytheが、まるで液体のようにぐにゃりと変形した。
「Death Scythe!! 液体化!!!」
響也のDeath Scytheに使われている素材は、【機械生命体】のもの。
機械生命体は、その形を、自由自在に変えることができるのだ。
「回り込め!!」
水銀のような素材となったDeath Scytheは、ぐにゃりぐにゃりと蠢きながら、結界の裏に回り込んだ。
「さあ、仕返しだよ!!!」
第78話に続く
第78話に続く




