表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UMAハンターKAIN  作者: バーニー
254/530

【第77話】愛が故の沈黙 その①

1


(どうする・・・!?)


西原は歯軋りをした。


迷っている間に、響也の背中がどんどんと遠ざかっていく。


今なら、隙をついて倒すことも可能。


しかし、西原の執事としての良心が邪魔をした。


(響也様は・・・、カレン様の心の支え・・・)


カレンにとって、響也が恩人ならば・・・、そのカレンに仕える西原にとっても、響也は恩人なのだ。


だが、その恩人の口を塞がなければ、【城之内花蓮】と【城之内カレン】の存在が明るみに出てしまう可能性がある。


「・・・っ!!」


震える手を、必死に抑えた。


(落ち着け・・・、少し後頭部を殴るだけでいいんだ・・・、それで、響也様は戦えなくなる。それでいい。それだけでいいんだ・・・)


西原は、持っていた杖を、フェンシングのように構えた。


殺気は消す。


気配すらも消す。


一瞬で仕留めるのだ。


(参る!!)


覚悟を決めろ。


覚悟は、十年前に決めたはずだった。


西原は地面を蹴って、響也へと接近した。


響也は気づいていない。


(とった!!)


西原がそう確信した瞬間、遠くで、火薬が破裂するような音が響いた。


西原の右肩に、強い衝撃が走った。


「っ!?」


ドブッ!!と、肩口から血が吹き出す。


西原のうめき声で、響也が振り返った。


そこには、肩を抑えてうずくまる、西原の姿があった。


「・・・、おい、どうした・・・!?」


「っ!!」


西原は杖を地面に落とすと、左手で右肩を押さえた。じわりと、赤黒い血液が流れ出し、指先を伝って地面に落ちた。


「響也・・・、様・・・!!」


「っ!?」


響也の顔が困惑の色に包まれた。「どうして、私の名前を知っているのか?」と言いたげな顔だった。


西原は、苦痛に顔を歪めながら、自分の右肩を貫いた弾丸が飛んできた方向へと目を向けた。


誰かが、歩いてくる。


「響也さん、大丈夫ですか?」


森の奥から姿を表した男・・・、それは、鮮血のような赤いスーツに身を包み、黒塗りのライフルを携えた、眠たげな顔の男だった。


(彼は・・・、椿班の!!)


椿班・三席・八坂銀二。


確か・・・、市原架陰奪還作戦の時に、桜班に協力した者の一人だった。


(最悪だ・・・!!)


八坂は、欠伸を噛み殺すと、ライフルの銃口を西原に向けた。


「響也さん、こいつ、響也さんを、背後から襲おうとしていましたよ?」


「え、そうなの?」


響也は興味が無いように言った。


「へえ・・・、お前・・・、人の不意をつくタイプか・・・、まあ、悪いとは言わないよ・・・。戦いは如何に人の隙をつくかが大事だからね・・・」


「響也さん、どうしますか?」


「どうするかって・・・、なんで八坂、お前が私に指図しているんだ?」


「いや、聞いているだけなんですけど・・・」


「知らんよ。お前が何とかしろ・・・」


響也はそう言って、くるりと踵を返した。


西原に背後を狙われたからと言って、報復をする訳では無いらしい。


そのまま歩き出す響也に、西原も、八坂も困惑した。


「ええ!? 響也さん!! これ、ボクに何とかしろって言うんですか!?」


「何とかしろ・・・、私は興味が無い・・・」


そのまま行ってしまう。


八坂が「どうするかな?」と、困った顔を西原に向けた。


「あんた、薔薇班だよな? この目で見るのは初めてだ。しばらくは、班長不在で活動を自粛してたもんな・・・」


「・・・・・・」


西原は仮面を着けたまま、コクリとうなづいた。


恐らく、この椿班のメンバーも、【城之内花蓮】のことは知らなくとも、【城之内カレン】の存在は知っているはずだ。


最悪じゃない。


むしろ、好機と捉えるのだ。


西原は静かに言った。


「失礼します・・・」


「・・・は?」


八坂の半開きの口から放たれた間抜けな声、それを合図に、西原が動いた。


ぬるりと、低い姿勢から八坂の懐に潜り込む。


八坂は慌てて引き金を引いたが、もはや銃の射程圏外。


骨の浮いた拳で、八坂の顎をかちあげた。


「ぐっ!!」


「私を舐めてはいけません」


西原は素早く八坂を地に伏した。


八坂からライフルを奪い去り、遠くに投げる。


「っ!! お前っ!!」


「申し訳ありません。私は、薔薇班の四席ですが、元【班長】の称号を得ています。つまり、強さは、【班長格】ということですね・・・」


肩を撃ち抜いたというのに、西原はそれをものともせずに、八坂の首筋に杖を押し当てた。


「すみません。何度でも言いましょう。あなたに、個人的な恨みは無い。しかし、お嬢様の秘密を守るためにも、あなたにはここで眠ってもらわなければなりません・・・」


「っ!!」


八坂はうつ伏せになったまま、横目で西原の冷たい眼差しを見上げた。


(この杖で、何をする気だ!?)


「さようなら・・・」


その瞬間、西原は杖を引いた。










その②に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ