西原の暗躍 その③
太平洋には出ません
エベレストには登りません
湖面のような
窓から覗く街並みのような
そんな平穏な日々を
3
「・・・・・・・・・・・・」
森の中を駆け抜けながら、西原ふと思った。
自分は、何をしているのだろう。
と。
自分は、城之内家に仕える執事だ。
薔薇班の四席【西原】だ。
だが、今していることはなんだろう。
そうだ。周りに、【城之内カレン】の存在を知られないようにしている。
何とかして、城之内花蓮と、城之内カレンの遭遇を阻止しようとした。城之内花蓮と、桜班の者たちの遭遇を阻止しようとした。
何とかして、【城之内花蓮】を知っている者と、桜班との遭遇を阻止しようとした。
「っ!!」
奥歯を噛み締める。
そのほとんどが、失敗と言っても良かった。
城之内花蓮と、市原架陰は遭遇をしてしまった。共闘を開始してしまった。
雨宮クロナを始末に向かわせたはずの桐谷も、何故か雨宮クロナと行動を共にしている。
そして、先程脱落した【城之内カレン】と、薔薇班の【城之内花蓮】との関連性を、百合班の副班長が勘づきはじめている。
(一刻も早く、事態を収めなければ・・・!!)
西原は老体に鞭を打って駆け抜ける。
顔にはめた白いお面が、彼の視界を遮る。息を塞ぐ。
(これでは、身体能力が著しく低下してしまうな・・・)
だが、【城之内カレン】の存在を薔薇班のメンバーに知られたくないことと同様に、【城之内花蓮】の存在も、桜班の者には知られたくない。
そして、桜班の副班長である【城之内カレン】の付き人である、この【西原】の存在すらも、知られるわけにはいかなかった。
(全て、収めるんだ・・・!!)
まるで鏡のような湖面のように、穏やかに、何事もなく、水中で魚たちが藻を食って、静かに生きていけるような・・・、そのくらいでいい。
「カレン様を!! 穏やかに生きてもらうのだ!!」
西原はその一心で駆け抜けた。
彼の脳裏に浮かぶのは、十年前の、あの時の光景。
石の檻の中に閉じ込められ、一晩中壁を引っ掻いて、血まみれになった一人の少女の姿。
親に見捨てられた、双子の片割れの姿。
運命は、なんて残酷なのだろうか。
西原は、十年前のあの日から、城之内カレンを守り抜くと決めていた。どんなことがあろうと、彼女の幸せのためだけに、彼女が彼女でいるために。
城之内カレンが、城之内カレンでいるために。
必死に、暗躍してきたのだ。
だが、運命は二人を引き合せる。
城之内花蓮と、城之内カレンを引き合せる。
桜班と、薔薇班を引き合せる。
「カレン様!!」
とにかく、今は桜班の一味である響也を倒すしかない。響也は、孤高の夜にカレンを救ってくれた恩人。しかし、恩人が恩人であるためにも、彼女には、「何も知って欲しく」なかった。
西原は、走りながら、トランシーバーの液晶を眺めた。
本来なら、地図が表示されているはずだ。
しかし、液晶にノイズが走り、響也の発信機の場所を特定出来なくなっていた。
「・・・!!」
西原は一度立ち止まった。
「何故だ・・・!? さっきまでは、使えたのに!!」
よくよく考えてみれば、少しおかしな点があった。
それは、このトランシーバーについてだ。
トランシーバーは本来、班員とはぐれた時や、UMAの死体処理に扱われる。液晶がついているために、GPSの補足も可能。
だが、その【連絡手段】という機能が、このハンターフェスが始まってから上手く機能していないのだ。
(どういうことだ?)
全く使えない。というわけじゃない。
時々、使えなくなるのだ。
周りが使っているから、干渉されて使えない。ということもありえる。しかし、【○○脱落】や、【残り○○人】などの、本部からの連絡は受信するのだ。
つまり、電波干渉では無い。
「誰かが、操っているのか?」
その時、再び液晶にノイズが走った。
「っ!!」
地図が、鈴白響也の位置情報を補足。
西原の背後で、声がした。
「よお」
「っ!!」
振り返ると、そこに、死神の鎌を肩に掛けた響也がたっていた。
「鈴白響也様・・・!!」
「あ? お前、私の名前を知っているのか?」
「い、いえ・・・」
始末しようとした相手だが、職業柄敬語を使う西原。
(どうする?)
一度、地図情報が途切れてしまったおかげで、すぐそこまで鈴白響也が迫っていることに気が付かなかった。
鈴白響也は、興味無さそうに踵を返した。
「まあいいや。歩いてたら、人の気配がしたから来てみただけさ・・・。お前もどこぞの忍者みたいに襲ってくるなら、返り討ちにしようと思ったんだがな・・・」
鈴白響也は無駄な争いを好まない。いや、単にめんどくさいだけだろう。
目の前に【10】ポイントがあるというのに、欠伸をしながら、次のUMAを探して歩き始めた。
「・・・・・・」
西原は、その背中を呆然と眺めていた。
何度も連呼する。
(どうする!?)
第77話に続く
第77話に続く




