西原の暗躍 その②
老体に鞭を打って
籠に摘んだ薔薇を売り歩く
2
場面は移り変わる。
運命とは、必然なんだと、西原は思った。
別に、今まで【運命】を信じていなかったわけではない。
目に見えない、大昔の人間が「見えた」のだとのたまう神様という存在の書いた、【筋書き】というものが存在して、我々はそれに抗うことが出来ないのだと、漠然と理解していた。
しかし、それでも、「そうならない」筋書きを、西原は祈っていたのだ。
(まさか、本当に出会ってしまうとは・・・)
西原は、木陰からとある人物を見守っていた。
着物を身にまとった、桜班の市原架陰。
そして、我らが主、薔薇班・班長の城之内花蓮。
(あの二人が、まさか本当に出会ってしまうとはな・・・)
西原の、老体を冷や汗が伝った。
かなりまずい状況だった。
(前々から、この件については、手をうたないと。と考えていたが・・・、早すぎる・・・)
西原は神を憎んだ。
まさか、本当に、あの二人を巡り合わせてしまうとは・・・。
(どうする・・・)
西原は杖の柄を強く握りしめた。
こんなことにはなって欲しくなかった。だが、どうしても避けられぬ展開だった。
薔薇班の【城之内花蓮】
桜班の【城之内カレン】
髪型と格好は違えど、同じ顔の人間が存在するのだ。
そして、架陰は知ってしまった。
薔薇班にも、【城之内花蓮】が存在するということを。
(どうする!!)
西原はただひたすらに奥歯を噛み締めた。
絶対に知られてはならなかった。特に、桜班の人間には、「薔薇班に城之内花蓮が存在する」ということを。
市原架陰に、城之内花蓮の存在が知られてしまった以上、ハンターフェスが終われば、市原架陰は必ず、桜班の者たちに報告をする。
「そういえば、薔薇班に、カレンさんと同じ名前で、同じ顔の人がいたんですよ。双子ですか?」
といった具合に。
「・・・・・・」
西原は、唇を湿らせた。
杖を握る。
(始末するか?)
幸い、架陰と花蓮は油断している。その隙を付いて、架陰の意識を刈り取ることが出来れば。
いや、架陰は、カレンの後輩。そして、カレンのことを慕ってくれている存在。
乱暴な扱いは出来ない。
それに、薔薇班の城之内花蓮は、市原架陰に恋をしている。あわよくば、結婚と考えている。そして、それを齋藤も桐谷も推している。
(神よ、私はあなたを呪いますよ)
どうして、寄りによって桜班の人間なのか。
どうして、薔薇と桜は引かれ合うのか。
「これも、運命か・・・」
西原は腹を括った。
幸い、と言うべきか、齋藤は先程の百合班との戦いで脱落。桐谷とは連絡がついていないが、彼のことだから道草を食っているに違いない。
(行くしかないか・・・)
西原はキリッと目を見開いた。
(架陰様意外の人間が、【花蓮お嬢様】の存在に気がつく前に・・・、桜班の人間を始末する・・・)
そして、地面を蹴った。
トランシーバーの液晶に表示された地図を頼りに、桜班の者たちに取り付けた発信機を追う。
(まずは、三席のクロナ様からだ・・・)
西原はタキシードの内側から、白い仮面を取り出して顔に着けた。視野が狭くなるが、これで、自分が「城之内カレンの付き人である西原」とはバレないはずだ。
(申し訳ありません。クロナ様・・・!!)
そう心の中で謝罪して、クロナの元に向かおうとした時だ。
西原は、地図に表示され、点滅を続けるクロナの位置情報の隣に、もう一人誰かがいることに気がついた。
黒色の点滅。
これは、「桐谷」の発信機だった。
「はっ?」
西原は間抜けな声を発して、立ち止まった。
見間違いかと思い、液晶に穴が空かんばかりに見つめる。
やはり、クロナのそばに、桐谷の発振器が点滅をしていた。
しかも、二人は並行移動をしている。
つまり、戦っていない。
同行している。ということだった。
「何故だ!! 何故お前がクロナ様と一緒にいるんだ!!」
待てよ。と思い直す。
「そうだ。齋藤と桐谷は、市原架陰を入手するために、他の桜班の人間を始末する。という計画を立てていた・・・!!」
まさか、倒しに行った矢先に、二人が共闘する何かが起きた?
「っ!!!」
西原は苛立ちを隠せず、シワだらけの手で隣の木の幹を殴った。
「ならば、クロナ様は後回しだ」
直ぐに計画を変更する。
「響也様を、始末に向かう!!」
その③に続く
その③に続く




