野性的 その③
筋書きの無い日記
3
「樹木操作!!」
三島梨花のその声で、地面から飛び出した木の根が激しく動く。
土を巻き上げ、木々をなぎ倒し、架陰に迫った。
「っ!!」
架陰は魔影を脚に纏わせて、衝撃波を利用した加速で立ち回る。
(どうする・・・!! この人を、どうやって攻略する!?)
「架陰様!!」
城之内花蓮が駆けてきた。
「絹道!! 第一航路!! 鴎!!」
高速で刀を振って、辺りの根を切り刻む。
道は開けた。
架陰は、バラバラになって宙を舞う根の間を縫って、三島梨花に接近した。
「あの女の刀、邪魔だね!!」
三島梨花は煩わしさを隠さず、架陰と刃を合わせる。
ギンッッ!!!!
「っ!!」
架陰は奥歯を噛み締めて踏みとどまった。
三島梨花の、名刀・葉桜の所有する能力は、【樹木操作】。そして、大剣とも呼ぶべきその巨大な刀身は、一撃でかなりのダメージを与えられる。
「おらあっ!!」
三島梨花は、雄叫びと共に力を加える。
その斬撃の重さに、架陰の関節が軋む。
「っ!! ううう!!!!」
歯を食いしばり、顔を真っ赤にして耐える。
「てめぇの!! 貧弱な身体で止められると思ってんのかあっ!!」
三島はふわりと体を浮かせると、架陰のがら空きの腹に蹴りを入れた。
「かはっ!!」
「吹き飛びな!」
三島梨花の脚力は山羊の蹴りを思わせた。
架陰は唾を吐き、吹き飛ばされる。
「架陰様!!」
花蓮が走り込んできて、架陰の身体を受け止めた。
二人揃って、地面の上に転がる。
それを好機とみなし、三島梨花は葉桜を地面に突き立てた。
「樹木操作!!」
地中で、根が動く振動が、架陰の背中を伝った。
「花蓮さん!!」
架陰は花蓮を抱きしめると、体重をかけて横に転がった。
ドンッ!!!
二人が倒れていた場所から、木の杭が飛び出す。
「ちっ!! すばしっこいね!!」
三島梨花は苛立ったまま、樹木を操作する。
(ダメだ!! 地上にいたら狙われる!!)
架陰は左手に魔影を纏わせた。
「【魔影拳】!!」
黒い拳を、地面に叩き込む。
衝撃波が発生し、その反動で二人の体は上空に打ち上げられた。
(空中なら!! あの根の攻撃は当たらない!!)
「空中なら!! 身動きは取れないよ!!」
三島梨花は、地面から五本の木の根を生やすと、それを操り、架陰と花蓮目掛けて放った。
「トドメだよ!!」
「いや!! これでいい!!」
架陰は右手で【名刀・赫夜】を握りしめた。その左手は、花蓮の右手を強く握っていた。
「いきますよ!! 花蓮さん!!」
「はい!! 架陰様!!」
逃げ場の無い空中。
そこで架陰は、能力を発動させた。
「【魔影】!!! 【参式】!!!」
架陰の身体から、漆黒の影が染み出した。
それは、架陰の意志のもと、生き物のように動き、架陰と花蓮の刃にまとわりついた。
二人の刀が、黒き大剣と化す。
「【魔影刀】!! 【赫夜】!!!」
「【魔影刀】!!【絹道】!!!」
まるで翼のような刃が、空中に出現した。
ザワりと、三島梨花の背筋を冷や汗が伝った。
(こいつ・・・!! あの能力で、アタイの根を切り刻むつもりか!!)
だか、今更上空に放った根を引く訳にはいかない。
(切り刻んで、無防備になったアタイに切り込んで来ようものなら、この重い重い【葉桜】の餌食にしてやるさ!!)
そう腹を括った三島梨花。
空中の二人に、五本の木の根が迫る。
その瞬間、架陰と花蓮は、同時に魔影刀を一閃した。
放たれた斬撃が、根を吹き飛ばす。
(来た!!)
三島梨花は刀を地面から抜いて、二人の襲撃に備えた。
「さあ、来い!! 返り討ちにしてやるよ!!」
その時だった。
ヒュンッ!!と、空を切る音がしたと思えば、三島梨花の右肩に鋭い痛みが走っていた。
「っ!?」
何かが、刺さっている。
ギラッと、光る、鋭い刃。
「ナイフ・・・!?」
ナイフだった。
「この形状!! 副班長の!!」
先程の、三島梨花が倒した【薔薇班・副班長・齋藤】の使っていたナイフだった。
齋藤が投げたわけではない。
「あのお嬢様か!!」
先程、迫り来る根を吹き飛ばした瞬間、その隙をついて、あのお嬢様が、投げてきたのだ。
鋭い投擲。
「っ!!」
ナイフの刃が、右肩の関節に食い込む。
ガクッと力がぬけて、三島梨花の腕が垂れた。
(しまった!!)
顔を上げると、直ぐ目の前に、架陰と花蓮が迫っている。
(まずい!!)
そう思った時にはもう遅かった。
二人の刃の嶺が、三島梨花を襲った。
第76話に続く
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