野性的 その②
「喉が渇いた」と
坊主は優しげな口調で言った
畳の上に置かれた茶を
美味そうに飲んだ
2
「やったか?」
「やりました!!」
花蓮は、名刀絹道の嶺の部分で、地面にうつ伏せに倒れた三島梨花の頬を突いた。
三島梨花の首がガクッと折れて、白目を向いた顔が花蓮を見た。
「完全に気絶させました!」
「凄いな・・・」
架陰も、確認のために赫夜の鞘で梨花をつつく。
もちろん、梨花は動かなかった。
「よし、何とか撃破ですね・・・」
架陰はため息をついて、刀を鞘に収めた。
チキッッ!!と、心地よい金属音がして、名刀・赫夜はその役目を一旦終える。
花蓮も、腰紐に【名刀・絹道】を差す。
花蓮は申し訳なさそうに架陰に頭を下げた。
「そうだ、すみません・・・」
「え、何がです?」
「架陰様にトドメを刺してもらおうと思ったのですが、つい、私がトドメを・・・。これじゃ、桜班にポイントが入りませんよね?」
「いや、別に気にしないでくださいよ」
架陰は首をブンブンと横に振った。
「結果的に、勝ったんです。敵は減りました」
「本当にすみません・・・」
花蓮は俯く。
「とりあえず、次に行きましょう。ここにいたら、他のUMAハンターに狙われるかもしれないですし・・・」
架陰は花蓮の肩を抱くと、三島梨花の倒れている場所から引き離した。
(少し、離れないと・・・)
そう思った矢先。
二人の背後で、三島梨花の指先がピクッと動いた。
それに真っ先に気がついたのは、齋藤だった。
「架陰様!! お嬢様!!」
身体が先に反応する。
タキシードの内ポケットから黒い筒を取り出し、フェンシングの突きの要領で前方に突く。
「【バトラーの警護棍】!!」
筒の中に折りたたまれていた、【筒】が、蛇腹状に伸縮して、三島梨花へと発射された。
最後に仕込まれていた槍の刃が顔を出す。
そして、起き上がった三島梨花の右肩に突き刺さった。
「くっ!!」
三島梨花は奥歯が砕けんばかりに踏ん張ると、右手の大剣を地面に突き刺す。
「怯むかよ・・・、アタイは獣だぜ!!」
「っ!!」
架陰と花蓮が振り返った。
そして、自分たちが仕留め損なったことに気がつくと、腰の刀に手をかけ、一斉に攻撃を仕掛けようとする。
それよりも先に、三島梨花の能力が発動した。
「【樹木操作】!!!」
ドンッ!!!
地面から木の根が飛び出す。
鋭いそれは、数十メートル離れていた齋藤を上空にかちあげていたのだ。
「齋藤さん!!」
「齋藤!!」
顎を穿たれた齋藤は、口から血を吐き、無力のまま宙を漂った。
トドメと言わんばかりに、うねった木の枝が齋藤を地面に叩きつける。
砂埃が巻き起こり、齋藤が地面にめり込んだ。
「齋藤!!!」
花蓮の劈くような悲鳴。
意識が、齋藤に持っていかれた。
その隙を三島梨花は容赦なく突く。
「終わりだよ!! 名刀・葉桜!!!」
「花蓮さん!!」
架陰は花蓮を抱きかかえると、その場から跳躍した。
何とか、足元から飛び出した木の根は躱す。
「齋藤!! 齋藤!!」
「花蓮さん!! 落ち着いて!!」
自分の部下が、木の根にやられた様を見て、花蓮は取り乱していた。
架陰の腕からすり抜けると、大の字で倒れている齋藤に駆け寄る。
「齋藤!! 齋藤!!」
必死に彼の肩を揺さぶるが、齋藤は白目を剥いたまま微動だにしない。
薔薇班・副班長・齋藤・・・戦闘不能。
「くそ!!」
架陰は背中に負い目を感じながら駆けた。
(僕のせいだ!! 僕が、三島梨花の襲撃に気づいていれば!!)
だが、後悔しても遅い。
後悔は人の足を鈍らせる。
(今は!!この人を倒すことを考えろ!!)
三島梨花は、肩から齋藤の仕込み槍を抜いた。
出血で顔色を悪くしながら、ニヤリと笑う。
「アタイは、誰よりもタフだよ!!」
そう叫び、地中の根を操り、架陰と花蓮に攻撃を仕掛ける。
花蓮は齋藤の肩を揺さぶり、戦闘をしている場合ではなかった。
そこを、三島梨花が仕掛ける。
「おらっ!! 死にな!! 薔薇班のお嬢様!!」
「させるか!!」
架陰が斬撃を放つ。
「っ!!」
三島梨花は直ぐにその場から離れた。
「アンタのその【能力】、なかなか厄介だね!!」
「それはよかった!!」
三島梨花が刀から手を離した今なら、畳み掛けれる。
架陰は姿勢を低くしながら、三島梨花へと切り込む。
「甘いんだよ!!」
三島梨花は、着物の裾からクナイを取り出した。
「っ!!」
「暗器!!」
クナイが飛んでくる。
「くっ!!」
架陰は赫夜を振って弾いた。
その間隙を縫って三島梨花が接近。
突き立った葉桜を抜くと、流れるように架陰に向けて振った。
ギンッッ!!!!
刀と刀の衝突。
しかし、体重差には勝てなかった。
その重量に押し負け、架陰は吹き飛ばされる。
(くそ!! どうする!?)
その③に続く
その③に続く




