名刀・葉桜 その③
バトラーは謙虚に
血に濡れた牙を
ナプキンで包む
3
迫り来る数多の植物の根。
それを操る三島梨花の手により、まるで槍のように鋭く変形して、架陰、花蓮、齋藤を串刺しにせんと猛威をふるう。
齋藤は冷静に言った。
「では、私の武器もお披露目するとしましょうか・・・」
「齋藤さんの、武器!?」
「はい、そうですとも・・・」
齋藤と架陰は根を躱しながら会話を続けた。
「齋藤さん、武器なんて持ってたんですか?」
「そりゃUMAハンターですからね。武器くらい持ってますけど・・・」
「だって、そんな様子無かったじゃないですか!」
齋藤は、何も持っていないように見えた。
普通、UMAハンター達は武器を携帯している。
架陰の日本刀は、腰の帯に。
城之内花蓮の絹道も、わざわざこしらえた腰紐に差している。
それだと言うのに、齋藤は、武器を持っている様子が無かったのだ。
「安心してください」
齋藤は、ポケットから取り出したリレーのバトン程の黒い筒を構えてそう言った。
(なんだ、あれは・・・!? 武器なのか!?)
「武器ですとも・・・」
齋藤は、その黒い筒をまるでフェンシングのように握る。
そして、その筒の先を三島梨花へと向けた。
「行きますよ・・・、【バトラーの警護棍】・・・」
その瞬間、黒い筒が伸びた。
カチカチカチカチ、と、筒の中にまるでマトリョシカのように折りたたまれていた筒が外へと飛び出て、蛇腹状に繋がりながら伸縮するのだ。
「っ!?」
三島梨花は反応に遅れる。
約15メートル程の間合いを詰めた筒の先端が、三島梨花の右肩を穿った。
「がっ!!」
三島梨花の呻き声。
肩から滲む血。
「こいつ!!」
「仕込み槍。と言った方がいいでしょうか?」
齋藤が手を引くと、伸びた筒は、ジャガガガガガガガガと、無機質な音を立てながら元の形に戻った。
「中に、何重にも筒が仕込まれています。それを、突きの威力で伸ばすんです。そして、最後の筒には、槍の刃が入ってましてね、こうやって距離を取って優越している敵には十分な効果を発揮しますよ・・・」
「馬鹿が・・・」
三島梨花は、脂汗を拭うと、名刀・葉桜を通して、地中の根に司令を与えた。
「行け!!」
再び地面から根が込み上げ、三人を襲う。
「初見殺しなのは十分!! だが、お前の攻撃はもう通用しないぜ!!」
「本当にそうでしょうか?」
齋藤はギラッと目を光らせた。
再び、フェンシングの突きのようにして、黒い筒を前方に放つ。
中から、神速のごとき槍が飛び出し、三島梨花の脇腹を抉る。
「くっ!!」
三島梨花は痛みに耐えながら、根を操った。
(こいつの仕込み槍・・・、速い!!)
ただのカラクリ武器と思ったのが間違いだった。
一度放たれてしまえば、命中するまで手元には戻らない。目で追い切れない程に速い突きのために、反応が出来ない。
「だったら・・・!!」
三島梨花は、名刀・葉桜を地面に刺したまま、後方に跳んだ。
「逃げた!!」
「逃がしません!!」
「逃げるわけがないだろ?」
齋藤が放った仕込み槍の攻撃が、三島梨花に直撃。
しかし、彼女は咄嗟に身を仰け反らせて、その威力を後方へと流してしまった。
「言っただろ? 『お前の攻撃はもうもう通用しない』ってな!!」
「そうですか・・・」
ジャガガガガガガガガガガガガと、筒を引っ込める齋藤。
「ならば、もう一つの武器もお見せしましょうか・・・」
「もう一つ!?」
三島梨花の顔が困惑に染まった。
「まさか、まだ手を隠しているのか?」
「せいぜい集中してなさい」
そう言って、黒い筒をタキシードの内ポケットにしまい込む。
「仕込み槍を引っ込めた?」
「さあ、お次はこれです・・・」
そういうと、齋藤は、スーツのボタンを器用に外し、白いシャツを着た胸を顕にした。
そのタキシードの上着の内側。
そこには、大量の銀色に光るナイフや、フォークが収納されていたのだ。
「投擲武器・・・、【バトラーのテーブルセット】・・・」
齋藤は素早く、上着の内側にあったそれを一本抜いた。
「ナイフ!!」
ステーキを切るのに使われるナイフを、三島梨花に向かって投げる。
ナイフは、空を切りながら劈くような回転音共に三島梨花に迫った。
「甘いわ!!」
梨花は、刀を拾うと、重い重い葉桜を振ってそれを弾く。
その動きを見た齋藤は確信した。
(やはりこの人・・・、機動力には欠けるようだな・・・)
ニヤッと笑った。
「架陰様!! お嬢様!! 一気に叩きますよ!!」
第75話に続く
第75話に続く




