【第74話】名刀・葉桜 その①
未完であることが美しい
まだ寒い春の日
風に揺れる葉桜
1
「これは、蔦?」
架陰の足首に、三センチほどの太さの、青々しい蔦が絡みついている。
「くっ!!」
架陰は反射的に刀を抜いて、足に絡まるそれを細切れに切り刻んだ。
そして、蔦が生えている場所から離れる。
花蓮も、齋藤も、異変を感じ取って下がった。
「架陰様、また吸血樹でしょうか?」
「わ、分からない!」
架陰は身体中に冷や汗をかきながら地面を見つめる。
(なんだ? 今のは・・・!?)
蔦。
植物の蔦。
吸血樹の触手とは少し違うような気がする。
架陰の足首に巻きついたということは、自ら動くことができるということ。
(吸血樹なのか? それとも・・・、他のUMA・・・!?)
その瞬間、森の奥の木陰から、「ヒャンッ!!」と、ムチのようなものが空を切る音がした。
目を向けた時、三人目掛けて、蔦が飛んでくる。
「っ!!」
架陰は生き物のように襲いかかってきた蔦を斬った。
切り落とされた蔦は地面に落ちて、コトリと動かなくなる。
女の声がした。
「へえ、なかなかやるね・・・」
「っ!!」
ざっと、木陰から女が出てきた。
花魁のような豪華絢爛な赤い着物を見にまとい、纏めた髪には、黄金の簪か刺している。
まるで猫のような鋭い瞳が、架陰達を見据えた。
「やあ、こんにちは・・・」
「誰だ!?」
架陰の疑問に、齋藤が代わりに答えた。
「あれは、【百合班】の人間ですね・・・」
「百合班?」
「はい。さっき説明していた【優勝候補】の班ですよ・・・」
それを聞いた百合班の女は、白い歯を見せてニヤリと笑った。
「へえ、アタイたちの情報って、そんなふうに伝わっているのかい?」
「そうです。つまり、尊敬しているということですよ」
「嬉しいねぇ・・・」
百合班の女の右手には、まるで出刃包丁のような、太い刃の刀が握られている。表面は鮮血のような赤色に塗装され、うっすらと、緑の葉の紋様が刻まれている。
その刀を、地面に突き立てた。
「さあ、さっきの種明かしだ・・・」
刃が、赤く光る。
架陰と花蓮、そして、齋藤は身構えた。
「何をするつもりだ?」
「見れば分かる・・・!!」
地面がボコボコと隆起する。
そして、三本の蔦が飛び出した。
「っ!!」
まるで生き物のようにうねり、三人に襲いかかる。
花蓮が半歩前に出た。
「下がって!!」
そして、腰の名刀・絹道を抜くと、神速の斬撃を放つ。
「第一航路・鴎!!!」
絹道の刃と、その柄に付けられた堅牢なリボンが、迫り来る三本の蔦をバラバラに切り刻んだ。
それを見た百合班の女は「へえ、なかなか・・・」と笑った。
「やっぱり、班長はすごいね・・・」
地面に突き立てていた刀を抜き、肩に掛けた。
「じゃ、挨拶はここまでだ。アタイの名前は、百合班・三席・【三島梨花】・・・。よろしくな・・・」
「三席?」
架陰は刀を握る力を強めた。
「百合班の三席が、何の用だ!?」
「わかってんだろ?」
三島梨花は高圧的に言った。
「人間は【10】ポイントだってことを・・・」
「っ!!」
奥歯を噛み締める。
やはり、この女も、人間を倒したことにより、加算されるポイントを目当てに襲いかかってきたようだ。
齋藤が冷たい口調で言った。
「ですが、三島様・・・、この状況をお分かりですか?」
「わかってるさ。私は、一人。そして、どういう訳か、薔薇班と桜班がつるんでいる。戦力は一対三・・・」
「ですよね。ここはお引きください。分かりますよね? あなたには勝ち目がありません・・・」
「はっ!」
三島梨花は鼻で笑った。
「勝ち目が無いなら、最初から襲いかかっていないよ。分かるだろ? 私は【勝算】があるから、奇襲したんだ・・・」
そういうと、三島梨花は、肩に掛けていた大剣を三人に向けた。
「さあ、アタイと戦いなよ。三人同時にね・・・、まとめて相手にしてやるから・・・」
「どうします?」
架陰は齋藤に聞いていた。
齋藤も、困ったように顎に手をやる。
「ここは戦いましょう。恐らく、この三人なら、百合班の三席ごとき、簡単に倒せるでしょうね。ポイントは取っておいた方がいいですから・・・」
「分かりました・・・」
架陰は頷くと、刀を構えた。
齋藤も、タキシードのポケットから黒い筒を取り出す。
城之内花蓮も、名刀・絹道を握った。
突如襲いかかってきた、百合班・三席【三島梨花】・・・。
対するは、薔薇班・班長【城之内花蓮】と、薔薇班・副班長【齋藤】。桜班下っ端【市原架陰】連合。
「さあ、アタイの血肉になりな!!」
戦いが始まった。
その②に続く
その②に続く




