名刀・絹道 その②
鴎の導くままに
嵐の中へ
蜥蜴の尾を追いて
断崖の向こうへ
2
地上に姿を現した吸血樹に向かって、城之内花蓮は一人で切り込んでいった。
架陰は肝を冷やして叫ぶ。
「ダメです!! 花蓮さん!!!」
架陰は知っていた。吸血樹の恐ろしさを。
吸血樹が【A】ランクとして恐れられるのには、わけがある。
まず、圧倒的手数。
吸血樹は身体の至る所から、木の枝の形をした鋭い触手を生やすことができる。いくら切っても、簡単に再生する。
その再生スピードは、あの響也でさえも反応に遅れたのだ。
「花蓮さん!!」
「大丈夫です!!」
花蓮が、刀を中段に構えて、上半身を捻った。
その瞬間、吸血樹が放った触手が、四方八方から城之内花蓮を襲った。
齋藤の絶望する声が響いた。
「お嬢様!!」
だが、今に命を奪われんとするお嬢様は、余裕の笑みを浮かべていた。
握った刀が、白銀に輝く。
「名刀・・・【絹道】」
城之内花蓮は、迫ってくる全ての触手の動きをその目で予測すると、ぬるりぬるりと動いて、躱していった。
その動き、まるでバレリーナ。
常人では関節が外れてしまうくらいに身体を仰け反らせ、曲げ、ぐにゃりぐにゃりと、まるで、針の穴に糸を通すが如く、触手を躱す。
「なんだ、あの動き・・・」
架陰は、花蓮の華麗な動きに目を奪われていた。
寸分の無駄がない、繊細な動き。
まるで、そこに【何も】無かったかのように、触手が空を切っていった。
「名刀・絹道・第一航路・・・」
吸血樹の腹の下に潜り込んだ瞬間、目にも止まらぬ速さで刀を振った。
「【鴎】!!!!」
花蓮の白い刃が、吸血樹本体から生えた触手全てを、バラバラに切り刻んだ。
血を噴出させながら、ボトボトと、切り刻まれた触手の破片が落ちる。
「・・・!!!」
「素晴らしい!! お嬢様!!!」
齋藤が感動の涙を禁じ得ず手を叩いた。
架陰はハッとして、触手を失った吸血樹に切り込んだ。
「【魔影刀】!!!」
魔影を纏わせた刀を一閃して、吸血樹本体を一刀両断にする。
吸血樹「カチチチチチチ!!」と、硬化した顎を噛み鳴らしてから息絶えた。
架陰と、花蓮、齋藤の連携による勝利であった。
「架陰様!!」
城之内花蓮が架陰に抱きつく。
「素晴らしいです!! 私が、絹道で吸血樹の攻撃手段を封じた瞬間、直ぐに私の意図を察してトドメを刺してくれるなんて・・・!!!」
架陰はやんわりと、花蓮を引き剥がす。
「花蓮さんこそ、なんですか、あの動き・・・!!」
「花蓮様は天才なので・・・」
花蓮のあの異常な動きについては、齋藤が説明をした。
「女子特有の関節の柔らかさを活かし、柔軟な戦い方を覚えたのです。そして、私と西原さんによって教えこんだ剣術。恐らく、今のお嬢様は、班長の名に恥じぬほどの実力をお持ちです・・・」
「関節の、柔らかさ?」
確かに、あの動きは凄いを通り越して異常だった。
股関節が、180度を超えて広がり、ゴスロリスカートの中は丸見えだったわけだが。
「にしても、あの動きの後の、高速の斬撃ですよ。どうやってあれだけの触手を切り刻んだんですか?」
吸血樹の触手をバラバラに切り刻んだ時の手の動き。
早くて、架陰の目には捉えきれなかった。
「それはですね」
花蓮が説明をする。
「この、【名刀・絹道】です」
「ああ、これ・・・」
架陰は、花蓮が差し出してきた刀をしげしげと眺めた。
白銀の刃。包帯が巻かれたような模様の柄。そこから、白いリボンが垂れている。
「この布・・・」
架陰は恐る恐るリボンの布に触れた。
ツルツルとしている。
一見はただの布に見えるが、触り心地は、初めてで、例えるものが見つからなかった。
「この布は、SANA特性の【特殊繊維】で織られています。とにかく強靭に編まれているので、鉄と変わらない切れ味を発揮するんです・・・」
「これが、鉄?」
とてもそうは思えなかった。
だが、花蓮は当たり前のように頷いた。
「はい。先程あの触手を切り刻んだだのは、この刃とリボンを使いました」
すると、花蓮は架陰から少し離れて、刀を振り回した。
すると、その柄のリボンが、まるで生き物のようにヌルヌルと動き始め、空中に白い弧を描いた。
「変幻自在に蠢くリボンで敵を狩る。これが、【名刀・絹道・第一航路・鴎】です!!」
その証拠。
とでも言いたげに、花蓮は傍にあった手頃な木の幹にリボンを巻き付けた。
ぐっと引いた瞬間、リボンが締まり、木の幹をまるで豆腐のように切り落としてしまった。
「凄い・・・」
架陰は単に、そう言うことしか出来なかった。
(近接だけじゃなくて、中距離の相手にも対応できるのか・・・)
「これで分かって頂けましたか? 私の実力が!! 班長である強さが!」
「はい、花蓮さん凄いです!!」
架陰に尊敬の眼差しを向けられた花蓮は、真っ赤になった。
「ととと、とにかく! これで、私と結婚してくれますよね!!」
「まあ、それはまたの話で・・・」
「え?」
その③に続く
その③に続く




