【第73話】名刀・絹道 その①
黄砂に目を閉じ
炎天に焦がれ
外道畜生の海図を手に
この地を踏みし者は
それ勇猛果敢な
絹道となる
1
突如、地面を押し上げて、鋭い木の枝が飛び出した。
「これは、吸血樹!!!」
架陰は、城之内花蓮を庇って跳ぶと、木の上という安全地帯に着地した。
「架陰様、あれは・・・?」
「吸血樹です!」
地面から、飛び出した枝は、獲物を探してうねうねと蠢いている。
「吸血樹って、桜班が初めて討伐に成功した・・・」
「あ、はい。そいつです!」
架陰は吸血樹の触手から目を離さない。
指先を震わせながら、腰の刀に手をかけた。
向かい側の木の枝の上から、齋藤の声が聞こえた。
「架陰様。これは、吸血樹なのですか?」
「はい」
「つまり、あなたなら攻略法を知っているということですね」
「はい、多分・・・」
「ならば、戦いましょう!」
言うが早いか、齋藤は木の枝から飛び降りて、地面に着地した。
「齋藤さん! ダメです!」
その瞬間、齋藤の足元から二本目の触手が飛び出した。
「っ!!」
齋藤はバックステップを踏んで後退する。
架陰は木の枝の上から叫んだ。
「吸血樹は、僕達の足音を感知して襲ってきます!! 迂闊に地面に降り立つのはやめた方がいいですよ!!」
「そのようですね・・・」
だが、地面に降りないことには、吸血樹は倒せない。
齋藤は瞬時に判断して、叫んだ。
「架陰様!! ここは私が囮になりましょう!」
「囮?」
「はい。私が、この触手の攻撃をひきつけますので、貴方様は本体を地上に引きずり出してください!!」
再び、地面から触手が飛び出す。
反応が早い齋藤は、後方に跳んで躱した。
「早く!!」
「はい!!」
架陰は木の上から飛び降りた。
城之内花蓮も飛び降りる。
「花蓮さんは下がっててください!」
「嫌です。私は架陰様のお力になります!!」
城之内花蓮は眉間にシワを寄せて、強情に突っ張った。
そして、腰に差した、刀を抜いた。
「それに、私の武器は、こういう【数】で攻撃してくる相手には有効ですので・・・」
「え?」
城之内花蓮の刀。それは、奇妙な形をしていた。
一見、流線の刃を持つ、【青龍刀】のような外見だった。
しかし、刃は絹のように白く、その柄には、金の刺繍が施されたリボンがふわりと揺れている。
その長さ、約二メートル。
(何だこの刀・・・?)
架陰がふとその刀に目を取られた瞬間、地面から枝が飛び出した。
「ちっ!!」
架陰は腰の刀を抜いて、枝を切り裂く。
断面から、吸血したであろう人間の血液が吹き出した。
(こいつ、血を取り込んで早くなってるな・・・)
地中に潜む吸血樹は、地面に降り立った三人のUMAハンターの生き血を吸おうと、何発もの触手を地面へと突き出して行く。
ドンッ!!
ドンッ!!
ドンッ!!
ドンッ!!
ドンッ!!
「くっ!!」
架陰は、あの時の戦いを思い出しながら、何とか躱していった。
ちらっと横を見れば、齋藤はもっと多くの触手から逃れている。
(齋藤さんに攻撃が集中している・・・)
やはり、叩くなら今だ。
「魔影、発動!!」
架陰は能力を発動させた。
架陰の身体から黒いオーラが染み出す。
架陰は、それを【名刀・赫夜】の刃に纏わせた。
「【魔影刀】!!!」
赫夜が漆黒の魔影に覆われ、黒き大剣と化した。
それを、思い切り地面へと叩き込む。
「はあっ!!」
ドンッ!!
地面を、魔影から放たれた衝撃波が伝う。
地割れが起き、砂煙が舞った。
飛び出してきた触手の動きが鈍る。
(来る!!)
架陰は身構えた。
半歩先の地面が、モコッと、盛り上がった。
本体が上昇してくることを悟った架陰は、身構えていた城之内花蓮を手で制して下がらせた。
「花蓮さん!! 来ますよ!!」
吸血樹本体が、姿を現す。
その姿を、どう表現すればいいのだろうか。動物図鑑、恐竜図鑑、ましてや昆虫図鑑にも、その姿の鱗片を垣間見ることは出来ない。
だがそれは、昆虫と言えば昆虫の姿だった。
体長約5メートル。
カマキリのような紡錘型の胴から、約六本の肢が生えている。
何故「約」と曖昧なのかと言えば、その他にも触手らしきものが生え、正確に「肢」と「触手」の判別が出来なかったのだ。
その胴体から、龍のような、獣のような頭が生えているが、昆虫のような複眼を見ることは出来ない。そもそも、目は存在しなかった。
まるで、腰をもたげた老人のように、ゆっくりと動き出す。体中からパキパキ、キリキリと軋む音が響いた。
齋藤が息を呑む。
「これが、吸血樹!?」
「はい!! 三人で一気に畳み掛けましょう!!」
架陰がそう指示を出した瞬間、横から、城之内花蓮が飛び出した。
「えっ!?」
「お嬢様!!」
城之内花蓮は、自信ありげにニカッと笑うと、青龍刀のような刀を中段に構えて、吸血樹本体へと切りかかる。
「さあ、私の本気を見せる時です!!」
その②に続く
その②に続く




