【第72話】結婚してください その①
結婚してください
愛し合うのはそれからです
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「私は、あなたのことが好きなのです!!」
薔薇班・班長の【城之内花蓮】の、渾身の告白が聞こえた。
木陰に潜んでいた、薔薇班・副班長の【齋藤】は、腕を組み、涙を流した。
(お嬢様・・・、よくぞ言ってくれました・・・)
薔薇班は、UMAハンターの中でも特殊な部類に入る。
それは、【班長】という存在を、【副班長】、【三席】、【四席】で護る。という点にある。
城之内家の時期当主である【城之内花蓮】を班長の座に務めさせ、あとの、副班長と三席、四席の座には、城之内家に仕える【執事】達があてがわれる。
副班長【齋藤】
三席【桐谷】
四席【西原】
と言った具合に。
(成長されましたね・・・、お嬢様・・・)
齋藤は、涙が滲んだ目頭を押さえた。
幼い時から、【城之内家時期当主】として抜擢された。それまで薔薇班の班長を務めていた【西原】は、四席に移り、その座を城之内花蓮に譲った。
それから、執事達三人で、あのお嬢様を、立派なUMAハンターへと育てあげてきたのだ。
(そして、殿方も・・・)
齋藤の口が、若干ニヤけた。
(お嬢様のあの美貌を持ってすれば、桜班の小童など、イチコロでございます・・・、さあ、お嬢様・・・、もっと詰め寄ってくださいませ・・・)
「お願いします! どうか、私の気持ちを受け止めてください!!」
「え、ええ!?」
花蓮はグイグイと架陰に詰め寄る。
架陰は、困惑。目をぐるぐると回して後ずさった。
「・・・、え、? あ? はい?」
「私ではダメですか?」
「いや、どういうこと?」
「好きだと言うことです!!」
「いや、それは、わかったんですけど・・・」
いつまでのまごつく架陰を見て、齋藤は舌打ちをした。
(架陰様・・・、一体何を迷っているのですか! 我々のお嬢様に恥をかかせてはいけませんよ!!)
城之内花蓮の顔がゆでダコのように真っ赤に染まった。
「もう、鈍いお方ですね!!」
そのまま、架陰の肩をむんずと掴む。
「っ!?」
架陰は、抵抗することが出来ず、そのまま地面に背中を押さえつけられた。
(この娘、強い!!)
架陰の上に馬乗りになった城之内花蓮は、ずいっと顔を近づけた。
「私と結婚してください。と言っているのですよ!!」
「はっ?」
それを木陰から見ていた齋藤は、恋愛系の話に弱い女子のように、顔を両手で覆い、しゃがみこんでしまった。
(よくぞ言ってくれました!!! お嬢様!! さあ、あのように大胆に迫られては、架陰様も断ることはできないはずです!! これで、城之内家は安泰だ!!)
つうっと、齋藤の鼻から血が落ちた。
「おっと、興奮しすぎましたね・・・」
齋藤はタキシードの胸ポケットからハンカチを取り出し、血を拭った。
そして、ニヤつきながら架陰と城之内花蓮の方を見る。
(ふふふ・・・、これを断ることはできない。架陰様が『YES』と言った暁には、すぐにでも【薔薇班】への編入手続きを済ませましょう・・・)
「ごめんなさい・・・」
「あ?」
架陰の返答を聞いた瞬間、齋藤は思わず間抜けな声を出していた。
そして、首がねじ切れそうな勢いで架陰の方を振り返る。
(あの餓鬼、今、なんて言った?)
架陰は、はっきりと「ごめんなさい」と言った。
「あなたの気持ちはよく分かりました。ですけど・・・、急に迫られても、僕の気持ちが追いつきません・・・。とうか、この話は、また今度に・・・」
「あ、あ・・・」
城之内花蓮の顔が、みるみる青くなっていく。
力が抜けて、がくりと肩を落とした。
「ご、ごめんなさい。私は、架陰様の気持ちを、考えずに・・・」
「い、いえ。こちらこそ・・・」
その瞬間、木陰から齋藤が飛び出した。
「架陰様!!!」
「えっ!?」
齋藤は素早い動きで、城之内花蓮を架陰の上から攫った。
そして、一度木陰に座らせてから、再び架陰に襲いかかる。
「お嬢様に、よくも恥をかかせてくれたな!!」
「ええっ!?」
齋藤は、タキシードの内ポケットから、黒い筒を取り出した。
「貴方様の愚行!! 万死に値する!!!」
「ちょっ、ちょっ!!」
架陰は後ずさった。
着物の腰帯に手を伸ばしたが、そこに差していたはずの刀が無い。
(赫夜が、無い!?)
「この、薔薇班、齋藤が粛清してくれる!!」
何も出来ない架陰に目かけて、齋藤が腕を振り上げた。
その時、城之内花蓮が叫んだ。
「待って!!! 齋藤!!!」
「っ!!」
ピタッ!!
と、齋藤の動きが止まる。
城之内花蓮は、座り込んだまま齋藤に呼びかけた。
「齋藤!! 架陰様に手を出したら、この私が許しませんよ!!」
「ですが・・・、お嬢様、この男は、貴方様の告白を・・・」
「私が悪いのよ!! 架陰様の気持ちを推し量らずに、気持ちに任せたまま愛を伝えたのですから!」
城之内花蓮は、班長らしい強い口調で言うと、手をついて立ち上がり、架陰の方へと歩み寄った。
「失礼しました。架陰様」
「あ、はい・・・」
「直ぐにあなたと婚姻を結ぼうとは思いません・・・」
「あ、はい・・・」
「ですが、一つお願いがあります・・・」
城之内花蓮は、縋るような目で、架陰の手をとった。
「このハンターフェスが終わるまで、この、薔薇班班長の【城之内花蓮】を、貴方様に同行させて貰えないでしょうか?」
その②に続く
その②に続く




