お嬢様 Part2 その③
「愛してる」などの
単調な言葉では満足せず
私は貴方と血塗れであの世に行くような
そんな狂った愛が欲しい
3
どのくらい眠っただろうか。
架陰が目を開けると、身体に蓄積していた疲労はきれいさっぱり消え失せていた。
視界が明瞭。
弛緩した筋肉も程よく引き締まった。
喉の乾きも消え失せている。
「ぼくは、一体・・・」
架陰はゆっくりと、地面から背中を引き剥がした。
額に当てられていた、冷たいタオルがポロリと落ちて、架陰の腹に乗った。
「これは・・・?」
拾い上げる。
柔らかく、綺麗な薔薇の刺繍が入った、いかにも高級そうなタオルだ。
「誰のだ?」
首を傾げていると、隣で聞き覚えのある女の声がした。
「お目覚めになられましたか?」
「あ、はい・・・」
反射的に首をそちらに向ける。
そこにいたのは、艶のある茶髪を、ロールパンのように巻き、黒いゴスロリの服を身にまとった女だった。
そして、その顔は、色白で、目は大きくもとろんとして穏やか。唇には薄い紅がさされていた。
(あれ、この人・・・!?)
その顔を見た瞬間、架陰の中の何かがザワっとした。
「あ、あなたは・・・?」
「ああ、これは失礼しました・・・」
ゴスロリ服の女は、上品に頷くと、その場に膝まづいて、ぺこりと頭を下げた。
「私は、薔薇班の班長を務めております、【城之内花蓮】と申します・・・」
「じょ!! 城之内カレン!?」
架陰は、口から心臓が飛び出そうな勢いで驚くと、まるで幽霊でも見たかのように後ずさった。
「か、カレンさんっ!?」
「あら、私のことをご存知なのですか? 嬉しい限りでございます・・・」
城之内花蓮は、満面の笑みで、また頭を下げた。
(どういうことだ?)
架陰は、再び滲んだ冷や汗を拭い、城之内花蓮の姿を見た。
髪型、服装は違えど、あの顔は、架陰の上司であり、桜班の副班長である【城之内カレン】のものだ。
「・・・、どういうことだ?」
そう言うしかなかった。
城之内カレンにそっくりの顔をした、城之内花蓮。
「架陰様、どうされました?」
そして、自分のことを「架陰様」と呼ぶ。
架陰の知る、城之内カレンは、架陰のことを「架陰くん」と呼ぶ。
(まさか、別人?)
架陰の頭はかなり鈍かった。
(ほら、この世には、自分にそっくりの人間が三人いるって言うし・・・)
「か、花蓮さん?」
「はい、花蓮でございますよ!!」
自分の名を呼ばれた、自称【城之内花蓮】かつ、自称薔薇班班長のゴスロリ服の女は、満面の笑みだった。
「か、花蓮さんが、僕を助けてくれたんですか?」
「もちろんですよ!!」
城之内花蓮は、地面に上品に手をついて立ち上がると、架陰へと近づいた。
架陰よ身体がビクッと跳ねる。
「あ、どうされました?」
「い、いや、すみません・・・」
架陰は頭をかきながら謝った。
「さっきからUMAハンターの人間ばっかりに襲われているんで・・・、警戒しちゃって・・・」
架陰はこれまでに、二人のUMAハンターと交戦していた。
藤班・副班長の【東堂樹】
向日葵班・班長の【兵蔵】
どの二人も強敵であり、架陰は鎬を削る争いをしてきた。
「あら、これはごめんなさい・・・」
城之内花蓮は、ぺこりと頭を下げた。
そして、腰の帯にさしていた、青龍刀のような刀を抜くと、地面に突き立てた。
「ご安心ください。私は、架陰様に危害は加えませんわ。貴方様に協力をしたいと思っているのです・・・」
「僕に、協力?」
「はい。協力でございます!」
椿班・副班長の【山田豪鬼】の言葉が頭を過ぎる。
「きょ、協力って、どうしてですか? 僕と、あなたは・・・、初対面ですよ?」
いや、【初対面】と言ったら語弊がある。
架陰は、この【城之内花蓮】とは、別の【城之内カレン】と交流が深い。というか、このハンターフェスか始まるまでは普通に会話をしていた。
(この人、何者?)
すると、城之内花蓮は、ずいっと架陰との距離を詰めてきた。
そして、架陰の豆だらけの手を掴む。
ひんやりとした手だった。
「私は、あなたのことが好きなのです!!」
「は?」
斜め上。というか、異次元から、後頭部を殴打するような衝撃が架陰を襲った。
突然の告白に、架陰の思考が停止。
「すき?」
「好きです!」
「焼いたら美味しい??」
「それは、魚です!」
城之内花蓮は、白い頬を真っ赤にして、架陰に詰め寄る。
「お願いします!! 私の気持ち、受け止めてください!!」
「ま、待って!!」
架陰は城之内花蓮の肩を優しく掴み、やんわりと引き剥がした。
「急になんですか? さっきも言った通り、僕達は初対面で・・・」
「初対面です!」
城之内花蓮ははっきりといった。
この言葉が本当だとしたら、やはり、この女・・・、城之内カレンと城之内花蓮は別人ということになる。
「ですが、私は架陰様に恋をしてしまったのです!!【バンイップ】との戦いを覚えていますでしょうか?」
「バンイップ?」
架陰の記憶が蘇る。
城之内花蓮は、顔を真っ赤にしたまま、こう訴えた。
「私は、あの時の架陰様の戦いを見て! あなたに恋をしています!!」
第72話に続く
第72話に続く




