【第71話】お嬢様 Part2 その①
アフタヌーンティーはいかが?
薔薇の園に囲まれて
上流階級の香を謳歌しましょう
1
「はあ、はあ、はあ・・・」
架陰はガクッと膝をついた。
俯いて、肩で息をする。
頬から熱い汗が滴り落ちた。
全力を出した。
全力で、兵蔵を吹き飛ばすことに成功した。
だが、その反動で、魔影の効力が切れた。
「しばらくは、魔影を出せないぞ・・・」
魔影を発動できなくなった架陰の戦闘能力は、格段に落ちる。
「頼む、もう、襲って来ないでくれ・・・」
架陰は、兵蔵が起き上がり、襲って来ないことを祈った。
架陰の祈りは虚しくも裏切られる。
ドンッッ!!
と、なぎ倒された木々の奥から、地面を蹴る音がした。
ドンッッドンッッドンッッ!
と、何度も地面を蹴って加速してくる。
「くそ・・・」
架陰は歯ぎしりをした。
そして、小刻みに震える膝にムチを打って立ち上がる。
接近してくる兵蔵の姿が見えた。
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
兵蔵は更に三発地面を蹴って、時速80キロにまで加速した。
体重115キロにエネルギーを乗せて、架陰へと攻撃を放つ。
「終わりじゃあっ!!」
架陰は躱す気力が無くなっていた。
そのまま、兵蔵の拳が、架陰の腹にめり込む。
「がはっ!!!!!」
喉の奥に苦いものが込み上げ、黄色い胃酸を吐き出す。
そして、糸の切れた人形のように吹き飛ばされた。
(だ、ダメだ・・・)
架陰は白目を剥いた。
受け身をとることもできず、木々を蹴散らしながら飛んでいく。
兵蔵の手に抜かりはなく無く、確実に仕留めるため、更に加速して、吹き飛ぶ架陰に追いついた。
そして、もう一撃。
ドンッッ!!!
架陰は苔生した地面に叩きつけられる。
地面に亀裂が入り、架陰の身体は、巨大なクレーターにめり込んだ。
「・・・・・・、がはっ!!」
強い。
強すぎる。
魔影を使った、あれだけの超強力な攻撃を叩き込んだというのに・・・、兵蔵には全く効いていない。
「くそ・・・」
架陰は身体に残った、僅かな力を振り絞って立ち上がった。
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・」
目の前には、兵蔵が立っている。
「お主、桜班の市原架陰と言ったな。よくぞここまで耐え抜いた・・・、尊敬に値する・・・」
まだ架陰は倒れていないと言うのに、架陰の健闘を称える兵蔵。
架陰はぐっと、身体に力を込めた。
「まだ、終わっていない・・・」
「終わったさ。あと一撃。あと一撃、お主に叩き込めば、お主は二度と立ち上がれなくなる・・・」
事実だった。
兵蔵の、あと一撃を食らってしまえば、架陰はもう戦えない身体になる。
自分で、わかっているのだ。
「くそ・・・」
架陰は右の拳を握りしめた。
「まだまだ。まだだ・・・、まだ、僕は、本気を出していない・・・」
「出していたじゃないか。あの蹴りはとても良かった。お主の、【勝利】への信念が伺えた・・・」
「まだ、まだ、戦える・・・!!」
架陰は、既に時間切れとなった魔影を、再び発動させようとした。
「気合だ・・・、全部気合だ・・・。気合で、なんとかなるんだ・・・」
「気合いか・・・、なかなかいいことを言うでは無いか!!」
「僕は、負けていない。僕は、まだ戦える。身体なんて、全然痛くない・・・」
ほぼ負けていると言って差し支えない状況。
もう戦えない身体。
激痛が、全身を襲う。
それでも架陰は、「気合だ」と言って、兵蔵と交戦する意志を見せた。
それに応えるように、架陰の身体から、再び漆黒の魔影がしみ出した。
「【魔影】・・・、【参式】・・・」
「っ!!」
それを見た瞬間、兵蔵は地面を蹴って後退した。
逃げたわけじゃない。
一度下がり、助走を付けてから、架陰を倒しに掛かる。
森の中の木々を、ジグザグに飛び回り、加速していく。
一蹴り。
一蹴り。
一蹴り。
一蹴り。
一蹴り。
一蹴り。
一蹴り。
一蹴り。
一蹴り。
一蹴り。
計十回、加速した。
これで、兵蔵の移動速度は、時速90キロ。
「これで、終わりじゃ!!!」
超速まで加速した兵蔵は、杉の木の幹を蹴って、架陰へと接近する。腕をしならせ、エネルギーを伝達させた。
架陰は、すっと瞼を閉じて、魔影に指示を与える。
(この人を倒すには、生半可な力じゃダメだ)
反芻する。
(目には目を歯には歯を!!)
魔影が、架陰の右腕にまとわりつき、巨大な、漆黒の腕と化した。
「魔影、【魔影拳】!!」
全ての力を、右腕に集中。
「行くぞ!!」
兵蔵が、高速の拳を架陰目掛けて放った。
架陰も、魔影を纏わせた腕を、兵蔵に向かって放つ。
「【悪魔大爪】!!!!!」
その②に続く
その②に続く




