目には目を歯には歯を その③
苔生す岩場に立つ狼は
満月に憧れて慟哭
湖面の月を掬うサンショウオは
七日の灯火に首を擡げている
3
(まずいな・・・)
架陰は、魔影脚の衝撃波で加速しながら、森の中を駆けていた。
背後から、兵蔵が接近してくる気配がする。
「・・・・・・」
あと数十秒で追いつかれる。
(どうする?)
兵蔵の能力は、【加速】。
一蹴りで時速40キロまで加速して、もう一蹴りで時速5キロが付与される。
ゲームのコンボのように、地面を蹴る度に、加速を続けていく。
架陰の魔影脚で出せるスピードは、最高時速で約50キロ。
今まで、兵蔵は何度足場を蹴った?
もう既に、架陰の時速50キロの移動スピードを超えている。
みるみる、逃走する架陰に接近してくる。
「どうするっ!!」
思考がまとまらずに、歯ぎしりをした。
その瞬間、駆け抜けてきた兵蔵が、架陰に追いついた。
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
そして、架陰の頭を掴む。
そう来ることを予測していた架陰は、首の裏に仕込んでおいた魔影を炸裂させた。
バチッ!!!
兵蔵の手のひらに静電気のようなものが走り、思わず手を離す。
架陰は振り向きざまに、魔影を纏わせた脚を振り切った。
「はあっ!!」
「ふんっ!!!」
兵蔵は豪腕を胸の前で交差させて、それを防ぐ。
ドンッッ!!!!!!
兵蔵の胸から背中にかけて、魔影から放たれた衝撃波が突き抜けた。
兵蔵は「ぐふっ!!」と、喉の奥から呻き声を上げる。
しかし、踏みとどまった。
「なにっ!?」
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
架陰の足首を掴む兵蔵。
そして、まるで人形を振り回すが如く、架陰の身体を持ち上げた。
そのまま、地面に叩きつける。
ドンッッ!!!!
「がはっ!!」
「まだまだ!!」
右、左、右、左、右、左、右、左、右、左。
と、架陰の身体を地面に打ち付けていく。
右。
ドンッッ!!!
左。
ドンッッ!!
右。
ドンッッ!!!
左。
ドンッッ!!!
右。
ドンッッ!!!
左。
ドンッッ!!!
右。
ドンッッ!!!
ドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッ!!!
「ああああああああぁぁぁ!!!!!」
架陰は断末魔の叫びをあげた。
(どういうことだ!! 僕は、こいつの腕を粉砕したはずだぞ!!)
架陰は先程、確実に兵蔵の腕の骨を折ったはずだった。
それなのに、兵蔵はその豪腕で架陰の一撃を防ぎ、架陰の足を掴み、叩きつける。
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
と笑いながら。
「無駄じゃよ!! ワシの骨を折ろうが!! 周りの強靭な筋肉が支えておるからなぁ!!!」
「このっ!!」
架陰は地面に顔面をぶつけた拍子に、落ちていた小石を掴んだ。
(頼む!! 【魔影】!!!)
その小石に、能力の魔影を纏わせる。
そして、我武者羅に、魔影を纏って黒くなった小石を投げた。
魔影を纏った小石は、架陰の意思で浮遊して、兵蔵の背後に回り込んだ。
(いけ!!)
そのまま、兵蔵の首筋に小石が激突する。
「くっ!!」
兵蔵の唸り声と共に、彼の身体が仰け反った。
思わず架陰から手を離す。
兵蔵から逃れた架陰は、地面にダンッ!! と着地。
腕に魔影を纏わせ、低い姿勢から、兵蔵へと鋭いアッパーを食らわせる。
「【魔影双拳】!!!!」
ドンッッ!!!!
拳から放たれた衝撃波が、兵蔵の顎に炸裂する。
兵蔵の口から、三本の白い歯が飛び出した。
「吹き飛べぇ!!!」
更に、追撃の回し蹴り。
「どりゃあっ!!!!!!!」
架陰の魔影脚が、兵蔵の胸筋に激突。
全力を注ぎ込み、振り切る。
兵蔵の身体が、猛スピードで吹き飛んでいった。
木々をなぎ倒し、遥か彼方に見えなくなる。
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・」
架陰は、魔影を解除して、その場に膝をついた。
身体中から汗が吹き出し、激しい戦いでえぐれた地面に落ちる。
「くそ、全力を、出しすぎた・・・」
集中力が切れたおかげで、しばらくは魔影を出すことが出来ない。
そして、吹き飛んだ兵蔵を追撃する気力も無くなっていた。
「頼む・・・、もう、襲って、来ないでくれ・・・」
架陰の祈りは虚しくも裏切られる。
ドンッッ!!
という音がして、兵蔵が接近してくるのがわかった。
第71話に続く
第71話に続く




