目には目を歯には歯を その②
「真の不幸とは自らの幸福に気づいていないこと」
そう言っている人がいた
だから私は
「真の幸福とは自らの不幸に気づいていないこと」
そう返してやった
2
魔影には、自転車のギアチェンジのように、【段階】というものが存在する。
【壱式】は、眼球に魔影を集中させ、反射能力を格段に上げる。これを発動している時、周りの動きはスローに見え、読んだ動きから勝ち筋を見つけるという戦法が取れる。どちらかと言えば、対人向きの型である。
【弐式】は、魔影が具現化する。架陰の血液を触媒として、体表から、黒い煙、またはオーラのようなものがしみ出す。それを架陰は、イメージだけで動かすことができる。その黒い煙に触れると、衝撃波が発生するのだ。
架陰は、この魔影を、足に纏わせて、発生する衝撃波を利用して加速したり、腕に纏わせて腕力を上げたり、刀に纏わせて切れ味を上げる。という戦法を取っている。
そして、【参式】である。
参式は、弐式より、二倍の量の魔影を発生させることが可能になった。
弐式の時のデメリットであった、【一部を強化すれば、一部の能力値が劣る】という弱点を克服した型なのだ。
魔影を足に纏わせれば、腕や刀が留守になる。
逆に、刀に纏わせれば、足や腕が留守になる。
その弱点を克服した形態こそが、【参式】なのだ。
「魔影・・・【参式】・・・【魔影脚】+【魔影双拳】!!」
架陰の両腕、両足に漆黒の魔影が纒わり付き、陽炎のように揺らめきながらも、悪魔の鉤爪のような形に変形した。
弐式の時には、一種類しか使用できなかった、【魔影脚】と【魔影双拳】の同時発動。
それなりに集中力はいるが、これで架陰の能力は、格段に上昇した。
「さあ、行きましょう!!」
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 面白い!!」
兵蔵が、地面を蹴った。
この一瞬で、兵蔵の体は、時速40キロにまで加速する。
更に、続けて二発地面を蹴る。
これで、兵蔵の移動スピードは、時速50キロ。
「喰らえよ!!」
そのスピードに、兵蔵の体重115キロが加わる。
体重、スピード、そして、筋肉を収縮させて発生させた強大なエネルギーを、この拳に纏わせて、架陰へと放った。
架陰も、【魔影】を纏わせた拳を、兵蔵の拳に叩き込んだ。
ドンッッ!!!!!!
エネルギーとエネルギーの衝突。
たった一発の接触で、辺りに衝撃波が飛び散り、木々を揺らし、小鳥たちを一斉に羽ばたかせた。
まるで爆弾が炸裂した時のような轟音が、二人の耳を穿った。
「くっ!!」
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!まだまだ!!」
兵蔵は、架陰との押し合いの最中、地面を三発蹴った。
これで、兵蔵の時速は65キロ。
「くそ、魔影脚!!」
架陰も、両足に纏わせた魔影から衝撃波を放ち、兵蔵を押し返す。
バチバチと、具現化したエネルギーが辺りに走った。
「おおおおおおおおおおおお!!!!」
架陰は顔を真っ赤にしながら、兵蔵の攻撃に耐える。
そして、魔影の出力を全開にした。
「吹き飛べ!!!!」
拳と拳。
エネルギーとエネルギーのぶつかり合い。
それを制したのは、架陰だった。
「はあっ!!!」
先程のお返しと言わんばかりに、振り切った架陰の拳が、兵蔵の巨体を吹き飛ばす。
「まだまだだ!!」
架陰は足の魔影を炸裂させて、一気に空中へと打ち上がった。
空気を反発させ、空中で軌道を変える。
そして、未だ木々を蹴散らしながら吹き飛ぶ兵蔵に追いついた。
空中で、兵蔵の胸筋に拳を押し当てる。
「お主!!」
「さあ、お返しだ!!」
魔影双拳の衝撃波を放った。
ドンッッ!!!!
兵蔵は真っ直ぐ撃ち落とされる。
兵蔵の巨体が地面に激突した瞬間、天変地異と言わんばかりの振動が辺りに響き、岩盤がめくれ上がった。
地面が緩み、辺りに生えていた木々が次々と倒れていく。
「面白いわ!!」
兵蔵は直ぐに、反動で起き上がる。
追撃をしようと距離を詰めてきた架陰の腕を掴んだ。
「はあっ!!」
柔道の背負投を応用して、架陰の体を地面に叩きつけた。
「がはっ!!」
「さあて、コンボの始まりじゃよ!!」
地面を一蹴り。
一瞬で時速40キロにまで加速して、架陰の腹に拳を叩き込む。
「ぐあっ!!」
「更にぃ!!!!」
架陰の着物の襟を掴むと、そのままの状態で地面を蹴った。
これで、時速45キロ。
「がはっ!!」
更に蹴る。
これで、時速50キロ。
「うわあ!!」
更に蹴る。
これで、時速55キロ。
「ぐあっ!!」
更に更に更に蹴る。
これで、時速70キロ。
「ああああああああぁぁぁ!!!」
飛ばした乗用車並みのスピードを発揮した兵蔵は架陰を掴んだまま、次々と木々の幹にぶつけていった。
「まだ気絶するなよ!!」
「するもんかあっ!!」
木々に叩きつけられながら、架陰は両足を兵蔵の太い右腕に絡めた。
そして、脚に纏わせた魔影を爆裂させる。
ポキッ!!
と、衝撃波が、兵蔵の右腕の骨を粉砕した。
「ぐぬっ!」
兵蔵の締め付けが緩む。
その隙に、架陰は兵蔵に蹴りを入れて、拘束から逃れた。
魔影脚で地面を蹴り、兵蔵から距離をとる。
「あの人に捕まったら、確実に仕留められる・・・!!」
その③に続く
その③に続く




