【第70話】目には目を歯には歯を その①
目には目を
歯には歯を
1
「このっ!!」
兵蔵に殴り飛ばされた架陰は、空中で体勢を整え、地面に足を押し付けた。
ザリザリと土を抉りながら、架陰の身体が滑る。
手も地面について、何とか勢いを弱めた。
「くっ、何とか!!」
止まることに成功した架陰は、仕切り直しと言わんばかりに顔をあげた。
目の前に、兵蔵がいた。
「っ!?」
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
兵蔵から放たれた拳を、何とかしゃがみこむことで回避。
下から刀を切り上げる。
しかし、兵蔵は一瞬で架陰の射程距離から逃れた。
「速いっ!!」
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! その程度の斬撃じゃ、ワシを捉えることは出来んぞ!!」
兵蔵は分厚い胸筋をバシンと叩くと、地面を蹴った。
一瞬だ。
一瞬で架陰との間を詰め、架陰の顔面をそのグローブのような手で掴む。
「このっ!!」
ドンッッ!!
架陰は魔影を炸裂させ、拘束から逃れた。
兵蔵がよろめいた瞬間、地面を転がる。
(なんだ、この人のスピードは・・・!?)
先程もそうだった。
一度殴り飛ばし、吹き飛んでいった架陰との間を一瞬で詰め、追撃を食らわせる。
人間業とは思えない、超高速移動。
(僕の目が、追いつけない!!)
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
兵蔵は図太い声で笑った。
再び、架陰との間を詰めるために地面を蹴った。
そのタイミングに合わせて、架陰は能力を発動させた。
「能力【魔影】発動!!!」
「能力【加速】発動!!!」
漆黒のオーラが、架陰の脚に纒わり付く。
足裏と地面の間に発生する衝撃波を利用して、架陰は超高威力の脚力を発生させた。
ドンッッ!!
と地面が粉砕して、架陰の身体が勢いよく打ち出される。
そのスピードに、兵蔵は着いてきていた。
「なるほど!! それがお主の能力か!!」
「やっぱり、この人・・・、【能力者】か!!」
「ご名答!!」
架陰は、障害物の多い森の中を、木から木へと、岩から岩へと、魔影を纏わせた脚で飛び移っていった。
しかし、魔影でスピードを上昇させても、速いのは兵蔵の方だった。
架陰の軌道を読み、先回りする。
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
そして、向かってきた架陰を、地面に叩きつけた。
「ぐっ!!」
地面にめり込んだ架陰に伸びている暇はなく、すぐ様、魔影を纏わせた腕の反動で、そこから離れる。
兵蔵は、軽快な足取りで加速して、架陰を追い回す。
「これが、ワシの能力【加速】じゃよ!」
「加速!?」
「そうじゃ!! ワシの身体は、質量や空気抵抗、表面積に邪魔されることなく、一蹴りで時速40キロまで加速する!!」
「っ!!」
架陰の間合いに入り込んだ兵蔵は、その毛むくじゃらの腕で、架陰の腹部を殴った。
「がはっ!!」
「そして、止まらず、地面を蹴り続ければ、一蹴り事に、時速5キロのスピードが付与される!!」
めりめりと、架陰の腹に兵蔵の拳がめり込んでいった。
胃が悲鳴を上げ、胃酸の混じった血を吐く。
架陰が失神寸前なのをお構いなしに、兵蔵は腕を振り切った。
架陰の身体は、力なく吹き飛ばされる。
「分かるか? 今、ワシはお主との追いかけっこの中で、【5回】加速した。つまり、ワシは今、時速65キロでお主に突っ込んで行ったんじゃ。そして、ワシの体重は、115キログラム。この一撃を食らったんだ。ひとたまりもないだろうよ」
「・・・!!!」
架陰は喉の奥に込み上げた血液と胃酸をぐっと飲み込むと、何とか数十メートル離れた場所に着地した。
「ごふっ!!」
我慢できず、たまらず吐血する。
「はあはあ・・・」
まだ不快な胃を押さえ、接近してくる兵蔵を見た。
気を落ち着け、向日葵班の班長である【兵蔵】を倒す算段を立てる。
二人の間には、圧倒的な体格差があった。
まともに打ち合えば、押し負けるのは架陰。
そして、あの厄介な【加速】の能力。
地面を蹴れば一瞬で時速40キロまで加速。止まることなく地面を蹴り続ければ、一蹴り事に5キロ加算。
(つまり、この人に、【地面を蹴る】ことをさせてはいけないってことか・・・)
架陰はふっと息を吐くと、魔影を発動させた。
(目には目を、歯には歯を・・・)
さらに集中して、体内から分泌される【魔影】の量を増加させる。
「魔影・・・【参式】!!」
弐式の、二倍の量の魔影が、架陰の周りを取り囲んだ。
「目には目を歯には歯を!!」
架陰は、浮遊する魔影に指示を送り、自分の両腕と両足に纒わりつかせた。
魔影は架陰の意識によってその形を変化させ、まるで悪魔の爪のような四肢となった。
「魔影・・・【参式】・・・、【魔影双拳】+【魔影脚】!!」
その②に続く
その②に続く




