向日葵班 その②
空が蒼いと誰が言った?
山が翠だと誰が言った?
2
架陰と山田の前に現れたのは、向日葵班の戦闘服を身に纏う大男だった。
班長なのか、副班長なのか、それとも三席か、はたまた四席か。
どちらにせよ、ただならぬ気配を纏うその大男は、何も言わず、神速とも取れるスピードで架陰との間を詰めると、スイカも簡単に握りつぶせそうな豪腕で架陰の頭を掴んだ。
ミシッと痛々しい音が響き、架陰の身体が後方の杉の木の幹に叩きつけられる。
「ぐっ!!」
ここに来て初めて、向日葵班の男が口を開いた。
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! どうした!! 動きが鈍いぞ!! 少年!!!」
寡黙な様子とはうって変わり、張りのある、よく響く声だった。
「このっ!!」
架陰は男の腕を支えにして足をあげると、男の胸筋部に蹴りを入れた。
だが、ビクともしない。
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! そんな弱い蹴りでワシが動くと思ったか!!」
「このっ!!」
架陰は何度も蹴りつけたが、向日葵班の男は全く動かない。
男の背後に、山田が回り込んだ。
「架陰殿!!」
山田は手刀を作り、男の首筋に目掛けて一閃した。
ドンッッと、鈍い音が響いた。
山田の手刀は、確実に向日葵班の大男に命中した。
しかし、全く動かない。
「これは!?」
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! ワシの身体は岩の身体!! 誰にも動かすことはできん!!」
「だったら!!」
架陰は、メキメキと頭を潰されながら、能力である【魔影】を発動させた。
架陰の体表から、漆黒のオーラがしみ出す。
【魔影】。それは、架陰の能力だ。物質と触れ合った時、強力な衝撃波を発生させ、敵を吹き飛ばす。
架陰はその魔影を、足に纏わせた。
「喰らえ!!」
魔影を纏い、黒くなった足を向日葵班の胸元に押し付ける。
そして、一気に解放した。
「【魔影・弐式】!!【魔影脚】!!!」
ドンッッ!!!!!
架陰の蹴りから放たれた衝撃波は、一瞬にして向日葵班の男を遥か彼方へと吹き飛ばした。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおお
おおおおおお
!!!」
木々をなぎ倒し、地面をえぐり、男の巨体が小さくなっていく。
握りつぶしから開放された架陰は、「ぷはっ!!」と息を吐いて、地面にむきだした木の根の上に尻もちをついた。
「大丈夫ですか? 架陰殿?」
山田がすかさず力を貸して起こしてくれた。
「ありがとうございます・・・」
立ち上がった架陰は、腰の泥を払う。
そして、男が吹き飛ばされた方向を見た。
木々はなぎ倒され、パラパラと砂埃が舞っていた。
山田は素直に感心して「凄いですね・・・」と言った。
「これが、【魔影】の力ですか・・・」
「あ、はい」
架陰は足に纏わせた魔影を解除した。
ふと、懐に入れたトランシーバーを取り出して液晶を確認したが、特に通知は来ていなかった。
「倒しきれなかったみたいですね・・・」
もしも、あの向日葵班の男が戦闘不能になっていたならば、直ぐに本部の方から【10】ポイント加算の連絡が入ったのだが。
だが、これでいい。
あのまま向日葵班の拘束に囚われ続けたら、架陰の方が戦闘不能になっていた可能性があった。
「どうしますか?あの向日葵班を倒しに行きますか?」
山田の提案を、架陰は首を振って棄却した。
「いえ、少しあの方は厄介なので、ここは別のUMAを狙いましょう・・・」
「そうですね。私の手刀で意識を狩り取れなかったのはかなり驚愕でしたから・・・」
二人は、向日葵班の吹き飛んで行った方へと背を向けた。
そのまま歩きだそうとした瞬間、小刻みな振動が二人の足を伝った。
ドンッッと、なにかが力強く地面を蹴った時の音。
「っ!?」
「何っ!?」
ザワッ!!とした殺気を感じ取った架陰は、すぐ様振り返り、腕を胸の前で交差させて、防御姿勢をとった。
そこに、一瞬で戻ってきた向日葵班の男の拳が直撃する。
ドンッッ!!!
「さあて、お返しじゃよ!!」
「うぐっ!!」
「架陰殿!!」
踏ん張りが効かない。
そのまま、架陰は吹き飛ばされていた。
その③に続く
その③に続く




