Death Scythe参式 その③
草原を駆ける
焦燥の風
波打つ草木は
龍の鱗の如く
以て風魔の道標とならんことを
3
「この女・・・、本物の死神か・・・」
赤鬼の肩から流れ出た血液が、腕を伝い、だらんと垂れ下がった指先から滴り落ちた。
ポツポツと、一定のリズムを刻みながら、戦場である体育館の床に赤い斑点が広がっていく。
響也のDeathScytheから切り離された、【死神の使い】が突き刺さった傷口が、ずくんずくんと疼いた。
視界が歪むのに耐えながら、目の前に佇む本物の死神を見据える。
「・・・・・・」
響也は、Death Scytheを振り回しながら笑っていた。
「どうした? もうへばったのか?」
「たわけ・・・」
しかし、「へばっていない」と言えば嘘になる。
響也の戦闘能力の高さ。とくに、白兵戦となった時の彼女の強さは、藤班班長で長い間境地を脱してきた赤鬼の想像以上だった。
身体の柔軟さ。
強力な体幹に、女子特有の非力さを補う遠心力を利用した歩法。
そして、あの射程範囲の広い大鎌。
さらに、自動浮遊機能、かつ、自動追尾機能を持ち合わせる【子機】。
王手飛車取りと言っても過言ではなかった。
(だが、まだ、『詰み』と言われていないだけマシか・・・)
赤鬼は、深い息を吐くと、短刀を腰の鞘に収めた。
直ぐに響也が反応する。
「おいおい、武器をしまってどうする? 降参したのか?」
「まさか」
赤鬼は肩で息を吐きながら首を横に振った。
「オレはまだまだ戦えるぞ?」
「そうか。そうだとありがたい。女の私に、男のお前が負けたら、藤班の連中に顔が立たないもんな?」
「そういう事だ・・・」
赤鬼は素直に頷いた。
そして、懐から、一枚の手裏剣を取り出す。
「これは奥の手だったのだが、今使わなくていつ使う。という状況に追い込まれてしまったな・・・」
「手裏剣?」
響也の目が細くなる。
「たった一枚の手裏剣で、何をしようとしてるんだ?」
小さな手裏剣だ。
もし、赤鬼が神速の投擲で手裏剣を放ち、自分の心臓を穿つのなら見物だが、彼にそんな実力は無いと、今の戦いで判断していた。
一枚の手裏剣で、何ができるというのか。
「残念。これができるんだな・・・」
そう言って赤鬼は、手のひらの上に手裏剣を置くと、天井に向かって翳した。
ちょうど、気円斬のような体勢をとったのだ。
「・・・?」
響也はじりりと右足を下げた。
先程の陽動攻撃を経験して言えることだ。油断は出来ないのだと。
あの手裏剣を使って、どうやって一発逆転を狙ってくる?
(考えろ・・・)
響也は隈の浮いた目で、これから先の戦いの状況を予測した。
赤鬼は右手に手裏剣を持っている。「構えている」のではない。『持っている』のだ。
あの体勢からでは、速く強力な一撃は放てない。
では、あの手裏剣は陽動と見るべきか?
手裏剣に響也の注意を逸らせておいて、実は他に武器を隠し持っている。
それか、左手に煙玉を装備しており、響也の視界を奪った瞬間に手裏剣で決めようとしてくるか。
(どうだ?)
響也が身構えた瞬間、赤鬼が動いた。
左手の袖から、煙玉を取り出す。
(煙玉か!!)
それを、床へと叩きつけた。
たちまち、体育館の中は白い煙に覆われた。
「くっ!!」
赤鬼の姿が見えなくなる。
しかし、そんなことは予測済み。
響也は直ぐに、周りを飛んでいた子機に司令を出した。
「探せ!! あの男を!!」
子機が動き出す。
煙の中、音の反響を利用したロケーション技術で、正確に、煙の中に紛れていようが、暗闇の中に潜んでいようが、獲物の姿を洗い出す。
そして、煙の中で蠢く赤鬼を探知した。
響也は迷うことなく指示を出した。
「そこだ!!」
三日月型の子機が、回転しながら放たれた。
煙を裂き、その先の赤鬼へと迫る。
「喰らえよ。【風魔手裏剣】・・・」
ギンッ!!ギンッ!!!
「えっ!?」
突如、煙の奥で謎の金属音が響き渡った。
明らかに、赤鬼を仕留めようと飛び込んで行ったDeath Scytheの子機を弾いた音。
赤鬼が身を潜めている煙が、グルグルと旋回し始めた。
一瞬にして、煙が晴れ渡る。
「あれは!!」
そこに広がっていた光景を見た時、響也は目を見開いて、思わず後ずさりをしていた。
「これが、オレの最終手段・・・【風魔手裏剣】だ・・・」
そこには、超巨大な手裏剣があった。
それが自動浮遊をして、赤鬼の手の上で回転している。
ヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッと、まるでヘリコプターのローターが回る音が響き、辺りのホコリを巻上げていく。
「・・・!!」
「さあ、本番と行こうじゃないか・・・ 」
これが赤鬼の奥の手。【風魔手裏剣】。
あのDVD並の小さな手裏剣が、どうやって、直径一メートル程にまで巨大化したかは分からないが、これから赤鬼の反撃が始まるのは予測が出来た。
「なるほどね・・・」
響也は、Death Scytheを強く握りしめた。
「だったら、私の奥の手も解放させてもらうよ・・・。【DeathScythe参式】をね・・・」
第68話に続く
第68話に続く




