Death Scythe参式 その②
髑髏の盃に注ぐ
千年の怨念
熟し熟され千鳥足
死への舞踏を踏んでゆく
2
「【死踏】は、私がUMAハンターになる前に編み出した戦術だ。つまり、その真価は、【UMA】ではなく、【人間】を相手にしている時に発揮する!!」
そう宣言した瞬間、響也は床が割れんばかりの勢いで踏み込むと、赤鬼に向かって攻め込んできた。
赤鬼は短刀を握りしめ、姿勢を低くする。
身体がなるべく小さくなるような体勢を取ると、響也の【Death Scythe】による連続攻撃に備えた。
響也の編み出した殺陣歩法【死踏】。
脚を軸として回転し、構えた【Death Scythe】の遠心力を使って攻撃をする。
力も、背も、男子には負けてしまう女子にとって、うってつけの戦法。
そして響也は、この戦法を使って、言い寄ってくる数多の男どもをコンクリートの上に沈めて来たのだ。
「【死踏】!!」
長い黒髪を振り乱して回転する響也から放たれるのは、命を刈り取る斬撃。
その細くも引き締まった足が踏むのは、死へと誘う舞踏。
ギンッ!!
刀の刃とDeathScytheの刃がぶつかり合った瞬間、劈くような金属音が響き渡った。
密閉した体育館を反響して、ワンワンと揺れるような波紋を描く。
「ふっ!!」
赤鬼は得意の身体の柔らかさを利用して、二発目の斬撃を躱すと、捩った拍子に響也へと刀を一閃した。
だが、それを読んでいた響也は、紙一重でそれを躱す。
無駄の無い回避。
からの、切り上げ。
「っ!!」
Death Scytheの鋒が、赤鬼の右頬を掠めた。
口を覆っていた布が裂け、血が吹き出す。
赤鬼は動揺すること無く、次への動作へと移った。
「面白い!! さすがは死神様だ!!」
「舌噛むぞ?」
響也も追撃を忘れない。
赤鬼は一度床を蹴って後退すると、黒装束の懐から、小さな玉を取り出した。
「っ!!」
響也の表情が少し固まる。
(あれは、なんだ?)
煙玉か、臭い玉か、閃光玉か。
それとも、藤班にだけ支給された、特殊な玉か。
藤班班長雀部俵太は、ニヤリと笑うと、その玉を響也に向かって投げつける。
(触れないに越したことはない)
玉はDeathScytheで両断できるほどに遅かったが、警戒した響也は、あえて【回避】を選択した。
ギリギリの体勢から床を蹴って、低い姿勢のまま、玉を躱す。
その瞬間、響也の頬を、赤鬼が投げたクナイが掠めた。
「っ!!」
響也の頬に赤い線が走り、血が吹き出す。
(くそ、玉は陽動が!!)
あえて玉に警戒を向けさせておいて、回避場所を絞り込む作戦だったようだ。
狙いが外れてよかった。少し間が悪ければ、響也の脳天にクナイが刺さっていたことだろう。
「舐めるなよ・・・」
響也は【DeathScythe】の柄を強く握りしめた。
念を送る。
「・・・、【Death Scythe】・・・【弐式】・・・【死神の使い】・・・!!」
響也の武器【Death Scythe】は、能力を所持している。
響也の念を受け取ったDeath Scytheの金属の一部が、ぐにゃりとスライムのように蠢いた。
「っ!!」
響也が何かを仕掛けて来ることに勘づいた赤鬼は、本物の煙玉を携えながら、後退する。
Death Scytheから少量の金属が分離する。
ぐにゃりぐにゃりとゆがみながら変形して、二枚の【三日月型】の刃となった。
DeathScythe・弐式・死神の使い。
「さあ、行くぞ・・・」
DeathScythe本体から分離された、自動追尾効果を持った【子機】だ。
響也がDeath Scytheを振った瞬間、空中に浮遊する二枚の子機が動き始める。
ヒャンッ!! と空を割いて、手裏剣の如く、赤鬼に迫った。
「こいつは!!」
赤鬼は迫り来る三日月型の刃に向かって刀を振る。
しかし、三日月型の刃は突如軌道を逸らすと、素早く赤鬼の背後に回り込んだ。
「っ!!」
肩に突き刺さる。
「ぐっ!!」
メリメリと、肩甲骨を押しのけ、刃が肉に食い込む。血が吹き出し、右腕の力が抜けた。
(こいつ、動かせるのか!!)
赤鬼は左手を肩に回して、突き刺さった【子機】をぬこうとした。
だが、響也の司令を受け取った子機は、直ぐに背中から抜け出し、響也の元へと返っていく。
「すごいだろ?」
響也は二枚の子機を身体の周りに漂わせながら言った。
「こいつは、【機械生命体】の素材を使って作った武器だ。名刃【Death Scythe】。金属の一つ一つが意思を持っているからな。私の指示で自在に動くし、いざとなれば自分で考えて自動追尾だって行う・・・」
ヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッヒャンッと、DeathScytheから切り離された三日月型の子機が回転している。
赤鬼は肩から染み出す血液を抑えながら、響也を睨んだ。
(やはりこの女・・・、本物の死神か・・・!)
その③に続く
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