【第67話】Death Scythe 参式
今日も死神の使いが天からやってきた
君の主に伝えておいてくれないか?
まだそこに行くのは早いって
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めんどくさい。
響也はそう思った。
目の前には、殺気を身にまとって、ギラギラとした視線を送ってくる忍者の格好をした男。藤班班長の【雀部俵太】という名前らしい。
コードネームは、【赤鬼】
この際、やつの名前も、コードネームもどうでもいい。
そもそも、UMAハンター同士で戦うのがどうでもいい。
ここは一度、原点回帰する必要があった。
我々UMAハンターの仕事はなんだ?
悩む必要も無い。紛うことなき『未確認生物の討伐』である。
そして、UMAハンターは未確認生物を倒すために鍛えられているのだ。
UMAを倒すために手に入れた力を、人間を倒すために使うだと?
笑える。
「私は、こんなことをするためにUMAハンターになったんじゃないんだけどな・・・」
ブツブツと呟きながら、赤鬼が放ってくる斬撃の一つ一つをいなしていく。
ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!
響也の武器【Death Scythe】は、その名の通り【死神の鎌】である。
機械生命体の素材を使って造られたそれの柄は、長さ約1,5メートル。正確に言えば、約148センチ。
そして、その端には、死神を思わせる三日月のような巨大な刃。
一見かなり重そうに見えるが、機械生命体の【自動浮遊機能】が力を貸して、響也が【DeathScythe】を振る時の動きは軽快だった。
ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!
赤鬼の斬撃を全て防ぐ。
金属と金属が触れ合った瞬間、火花が弾け、空中を浮遊する埃に引火。申し訳程度の炎を発した。
「どうした!! 死神!!」
反撃してこない響也に、赤鬼は苛立った声を上げながら踏み込んだ。
低い姿勢から刀を振り上げる。
響也は上体を仰け反らせて躱した。
余裕の笑みを浮かべながら、腹筋の力を使って体勢を整える。
「っ!!」
「どうした? 藤班?」
「くそ!!」
赤鬼は舌打ちをして、さらに響也に斬り込む。
響也はDeath Scytheの刃でそれを受け流した。
「くっ!!」
赤鬼は直ぐに切り返して、振り向きざまに刀を振った。
ギンッ!!
それすら、響也はDeathScytheの柄で受け止める。
「一応言っておこう・・・」
「っ!!」
「先程、『私は、独学で、戦闘法を身につけた』と言ったな?」
「言ったぞ・・・」
「あれは、あながち間違いではない」
「っ!!」
赤鬼が息を呑んだ瞬間に、響也は力を込めて、赤鬼をはじき飛ばした。
赤鬼は空中で身を捩りながら、音もなく床に降り立った。
「何が言いたい?」
「こう言いたい・・・」
響也は前髪の間から覗く、眠たげな目で赤鬼を見据えると、すうっと斬りこんだ。
初めて、鈴白響也が仕掛けてきた。
赤鬼は咄嗟に身構える。
二人は、刃を合わせた。
響也は着物の裾から伸びるすらっとした美脚を軸として回転して、まるでナイフを搭載した竜巻のように赤鬼に攻撃する。
「っ!!」
【死踏】
それは、響也が編み出した殺陣歩法である。
右か左か、どちらかの脚を軸として回転する。その遠心力を利用して、斬撃に威力を込めるのだ。
「それがどうした!!」
赤鬼はその場に踏みとどまると、響也が放ってくる変則的な斬撃を刀で弾いていった。
ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!
「くっ!!」
半歩下がる。
響也は絶えることなく回転して、流線状の斬撃を放つ。
そのうちの一撃が、防ごうとして構えた赤鬼の刀をすり抜けた。
「っ!!」
三日月の刃は、弧を描きながら、赤鬼の首に迫る。
咄嗟に上体を仰け反らせてそれを躱した。
心臓が一気に跳ね上がった。
床を蹴って後退する。
冷や汗をダラダラとかきながら響也を見ると、響也は汗ひとつかかず、余裕の表情でDeathScytheを振り回していた。
「こいつ・・・!!」
「もうわかっただろ?」
響也はニヤッと笑った。
赤鬼は少しずつ理解をし始めていた。
一度はまってしまうと、抜け出すことが出来ない、連続攻撃。
回転する度に威力が上がり、その斬撃も曲がるように死角から放たれるため、変則的。
それが、響也の編み出した殺陣歩法【死踏】。
その技の恐ろしさは噂に聞いていたが、想像以上だ。
これはまるで、【UMA】ではなく、【人】を殺すために作られたような戦術。
赤鬼の予想は正しかった。
「【死踏】は、私がUMAハンターになる前に編み出した戦術だ。つまり、その真価は、【UMA】ではなく、【人間】を相手にしている時に発揮する!!」
響也の瞳がぎらりと光った。
その②に続く
その②に続く




