死神の宴 その③
生を望む者には絶望となり
死を望む者には希望となる
死神とは都合のいい女である
3
「藤班はもう後がない。先程、副班長と三席、四席の脱落の連絡を受けた・・・、これで、残るは班長であるオレだけだ・・・」
そう言って、藤班の班長である、【雀部俵太】は短刀の鋒を響也に向けた。
ホコリで曇った体育館の窓から鈍い光が差し込んで、その刃をギラッと輝かせる。
「・・・・・・」
刀を向けられた状況で、響也は至って冷静だった。
「UMAハンターを倒せばポイントになるということはよく分かった・・・」
右肩に掛けた【Death Scythe】をぐっと握りしめる。
そして、エナジードリンクを飲んで冴え渡り始めた目を雀部俵太に向けた。
「だがら、私を襲ってポイントを奪おうとしているのもよく分かる・・・」
「分かるのなら話は早い。さっさとオレのポイントになって貰うぞ・・・」
「まあ待て・・・、分かるだろう? 私は桜班の班長だぞ?」
響也はへらっと笑うと、冗談交じりに左手を上げて降参のポーズをとった。
「班長ってことは、つまり、【とっても強い】ということだぞ・・・?」
「そんなことはわかっている。オレも、藤班の班長だからな・・・」
「班長と言う割には、勝算が計算出来ないらしい。班長と班長ならば、そこまで強さに差がないはずだ。そして、差が無いもの同士が戦ったらどうなると思うんだ?」
「・・・」
雀部俵太は、黒装束の奥で唾を飲み込んだ。
響也はニヤリと笑って続ける。
「分かるだろ? きっと決着はつくのかもしれないが・・・、お互い、ダメージは相当なものだし、戦いは長引く。さっき言ってた、『藤班はあと一人』ということが本当なのなら、お前は、『負けるかもしれない』敵と戦うよりも、AのUMAをちまちま倒して、ポイントを稼ぐ方が効率的じゃないか?」
なるべく戦闘を避けたい、いや、めんどくさい響也は、もっともらしいことを並べ立てて、雀部俵太を言いくるめようとした。
雀部俵太は、鼻で笑った。
「まあ、そうだろうな・・・」
頷きながらも、握った刀を収めようとしない。
「こう見えて、オレは興奮しているんだよ・・・」
「興奮? 」
響也は左手で我が身を抱くようなポーズをとった。
「お前・・・、こんなエナドリ臭い女に発情して何がいいんだ?」
「違う」
雀部俵太の目元が歪む。
「桜班班長・・・、鈴白響也・・・。お前の噂はよく知っている・・・。独学で戦闘術を開発して、身の丈程の鎌を使ってUMAを狩る。その血みどろで戦場を駆け抜ける姿は、まるで【死神】・・・」
「へえ、世間じゃ私はそんなふうに言われているのか?」
「光栄だよ。まさか、そのような死神殿とこんなところで手合わせできるとはな・・・」
「私はお前のことは知らないがな・・・」
「それだけ。お前の名が通っているっとことさ・・・」
そこまで言うと、雀部俵太は、短刀を中段に構えて、すっと腰を下ろした。
殺気を身に纏う。
「ハンターフェスで『人間を攻撃しても良い』というルールには、わけがある。普段のUMAハントでは、『班員同士の戦闘行為』は禁止されているからな・・・、この場を使って、『腕試し』を意図的にさせられているんだよ・・・」
「・・・」
ドンッ!!
と床を蹴って、雀部俵太が響也に斬りこんだ。
響也は【Death Scythe】の三日月のような刃で、雀部の斬撃を受け止める。
ギンッ!!
響也と雀部の顔が近づく。
「証明してやるさ。藤班班長である、この【雀部俵太】が、桜班班長の死神に勝てるということをな・・・」
「ったく・・・、椿の鉄平といい、どうして私にばっかり構ってくるやつが多いんだ? 私のことが好きなのか?」
「好きさ!!」
雀部俵太はDeath Scytheの刃に刀を押し当てた体勢のまま、長い脚で蹴りを放ち、響也を吹き飛ばした。
「くっ!!」
「死神は、オレたち藤班の中では有名であり、憧れの対象だ・・・分かるだろう? お前のことを崇拝しているからこそ・・・、お前のことを倒したいと思ったんだよ・・・」
「へえ・・・」
響也は腹を大袈裟に擦りながら、体勢を整える。
「くそ、思い切り腹を蹴りやがって。女の腹は蹴るなって教わらなかったのか? 将来子供を産めなくなったらどうする・・・」
ブツブツと文句を言いながらも、右手のDeath Scytheの柄を握りしめ、くるくると回す。
「まあいい。さっさと終わらせてやる・・・」
「嬉しいよ・・・」
響也がようやく戦う姿勢を見せると、雀部俵太はニヤリと笑った。
「改めて自己紹介と行こう。オレは、藤班の班長・・・【雀部俵太】・・・。コードネームは、【赤鬼】だ・・・」
「じゃあ、私も自己紹介といこう。私は、桜班班長・・・【鈴白響也】・・・。周りからは【死神】と呼ばれているらしいな?」
第67話に続く
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