【第65話】 藤班の脅威 その①
桜の枝は
断面から腐ってゆく
1
「オレたちの班長は、【城之内華蓮】様だよ」
桐谷がそう言った瞬間、クロナの身体は金縛りにあったように動かなくなった。
じょうのうちかれん。
何度も何度も、聞き慣れた名前だった。
何度も何度も、呼び続けた名前だった。
(どういうこと? 城之内カレンさんが、薔薇班にいるって言うの!? )
クラっと視界が揺れる。
その時だった。
ガサガサと物音がしたと思えば、奥の茂みを突き破って、巨大な獣が飛び出してきた。
「っ!?」
「これはっ!!」
二人して、獣が出現した方を振り向く。
黄土色の体表。サーベルのような鋭い牙。そして、クロナたちの三倍はありそうな巨大な体躯。
「バンイップだ!!」
それは、いつの日か、桜班が椿班と共に協力をして仕留めた怪物であった。
ハンターフェスの裏ルールには、もう一つルールが存在する。
それは、【どれだけ、人間を相手にしてようと、UMAが出現した場合、それの討伐を優先しなければならない】と。
「ちっ!!」
桐谷とクロナ、意識をバンイップへと集中させた。
お互いのことは気にしていられない。
クロナはぬらりと踏み込むと、姿勢を低くして、涎を撒き散らしながら接近するバンイップに斬りこんだ。
居合。
「はあっ!!」
バンイップとのすれ違い様に一閃をする。
刃が、光を反射して黒い閃光を軋らせ、バンイップの前足の腱を切り裂いた。
「グオオオオオオオ!!」
バンイップは悲鳴をあげると、顔面から地面に突っ込んだ。
その隙に、桐谷が仕掛ける。
「【名刀・甲突剣】・・・、能力解放・・・!!」
桐谷のレイピアは、能力武器であった。
能力の名前は【穿】。
甲突剣の柄を握りしめ、エネルギーを蓄積させるのだ。
(あいつ、何を!?)
突如立ち止まり、レイピアを構えたまま動かなくなった桐谷を、クロナは不審な目で見つめた。
攻撃をしないのか?
「なら。私が!!」
前足を斬られて、身動きが取れなくなっているバンイップに向かって切り返し、刀を振る。
その時だ。
ドロン!!
突如、バンイップが液体化した。
柔らかくなったバンイップは、スライムのような形になり、クロナの刃をすり抜ける。
「しまった!!」
すっかり忘れていた。
バンイップの能力は、【水化】。
ピンチになれば、自らも攻撃出来なくなる代わりに、液体に変形して、逃亡を図るのだということに。
「くそ!!」
クロナはダメ押しとばかりに、地面に広がった水たまりに、刀を突き刺した。
だが、ダメージは無い。
「おい、離れろ!! 桜班!!!」
桐谷の声が響いた。
クロナは蹴り飛ばされたように、地面を蹴って後退する。
その瞬間、水たまりの中から、バンイップの顔が飛び出した。
「っ!!」
「タイミングぴったし!!」
見れば、桐谷のレイピアの刃が、淡い光に包まれていた。
「【甲突剣】・【壱式】・【貫】!!」
ドンッ!!!
桐谷が地面を踏み込み、光に包まれたレイピアを突く。
その瞬間、レイピアの切っ先から、白い衝撃波が放たれた。
「っ!!」
一瞬であった。
衝撃波は円錐形となり、バンイップの顔面に直撃する。
パンッ!!
と音がして、バンイップの巨大な頭部が、まるでスイカのように、赤い血肉となって飛び散った。
「あっ!!」
クロナは口をポカンと開けてそれを見た。
桐谷は横目に、得意げな顔をする。
「どうだァ!! これが、薔薇班・三席・・・。霧矢様の【名刀・甲突剣】の能力だあっ!!」
【名刀・甲突剣】
それは、桐谷の愛用する武器である。
一見はただのレイピアに見えるが、その能力は、【穿】。
一定時間、何もせずに、エネルギーを剣に蓄積することで、【槍】の形状をした衝撃波を放つことができる。
そのエネルギーの蓄積には三段階存在。
たった今放ったのが、【壱式】。つまり、一番威力の低い衝撃波であった。
「へへっ!! バンイップはBランク。【2】ポイントゲットだぜ!!」
「・・・・・・!」
クロナは全身に鳥肌が立つのを感じた。
(まさか、あんな力を隠し持っていたなんて・・・)
バンイップ程のUMAを一瞬で仕留める程の衝撃波だ。
素人が扱うことは出来ない。
薔薇班・三席・・・、桐谷啓太。
生半可な特訓ではない。血のにじむような努力を掻い潜ってきた、まさに【猛者】と呼ぶべき存在だった。
「さあ、邪魔者はいなくなった!!」
桐谷は再びレイピアの切っ先をクロナに向ける。
「早く、続きと行こうぜ!!」
その②に続く
その②に続く




