【第64話】クロナVS桐谷 その①
星砕く流星
赤い月
乱気流交差する真空にて
笛を吹く
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なんだ。こいつは・・・。
クロナが、薔薇班三席の桐谷啓太に対して、最初に抱いた感想だった。
大人っぽいタキシードを身にまとっているもののの、その背の低さを誤魔化すことは出来ず、顔だって14歳くらいの童顔。
急に襲いかかってきて、「架陰を夫として頂く」などと意味不明なことをのたまう。
(これは、もしや、ちまたで噂の・・・、ボーイズラブというやつじゃないかしら・・・)
架陰が彼のことをどう思うかは別として、彼は架陰に相当に熱をあげていると見た。
もちろん、架陰は渡さない。「買う」と言われても渡さない。
だが、架陰が男と結ばれている姿を想像すると、自然と笑みが零れた。
「おい、何笑ってやがる!!」
「いや、あんたと架陰がイチャイチャしてる所を想像したら・・・」
「ああ?」
桐谷は眉間にシワを寄せて首を傾げた。
「おまえ、イカれてるのか?」
「それは、こっちのセリフよ」
「男と男がくっつくなんて、きもちわりぃ想像してんしゃねぇよ!」
そう叫んだ瞬間、桐谷が地面を強く踏み込んだ。
一瞬でクロナとの間合いを詰め、白銀のレイピアの刃を打ち込む。
ギンッ!!!
クロナは黒鴉の刃の側面で受け止めた。
「市原架陰を欲しがっているのは、うちの班のお嬢様だ。勘違いすんなよ・・・」
「お嬢様? 説明ご苦労!!」
クロナは身をよじって、突きの威力を後方に流した。
「女だったら、尚更架陰を渡す訳にはいかないわ!!」
身をよじった反動を利用して、桐谷に刀を振る。
桐谷は上体を仰け反らせてそれを躱した。
「・・・、あれ? お嬢様のことを言っても良かったんだっけか?」
そういえば、齋藤に、「我々が市原架陰を奪おうとすれば、確実に桜班の他のメンバーは阻止に入る・・・。不安要素は摘むべきだ・・・」ということを言われていた気がする。
つまり、自ら「市原架陰を頂く」と言えば、確実に桜班のメンバーは止めに入るということだ。
「あれ、このこと、言わない方が良かったんじゃないか?」
桜班に「市原架陰を頂く」と言わなければ、こういった無駄な争いは無いはず。
「あ、しくじった」
「何ボソボソ話してんの!!」
クロナが刀を一閃したので、桐谷は地面を蹴ってそれを躱した。
「まあ、いいや」
桐谷は首をコキコキと鳴らして、レイピアを構える。
姿勢を低くして、鋒を揺らす。
「どちらにせよ、勝てばいい話だ」
「あんたが、私に、勝てるわけないでしょ!!」
クロナが斬りこんでくる。
桐谷は内心ほくそ笑んだ。
桐谷が齋藤と西原に叩き込まれているのは、王宮剣術だ。
敵に攻撃を先に打たせ、その威力を受け流しつつ、自分の力に変換して相手を撃つ。
力ではない。
力の動きを見定める眼力。
と言っても、桐谷にとって、カウンターを狙って勝つよりも、自分自身の筋肉から放たれる力で相手を打つ方が楽しいと感じるのだった。
「まあ、いいや」
どうでもいい。
結果良ければ全てよし。
「あらよっと!!」
桐谷は身を半歩引いて、レイピアの鍔を利用しながらクロナの斬撃を受け流した。
「っ!!」
「さっさとあんたを倒して、いや、桜班を壊滅させて、市原架陰を頂くぜ!」
勢い余って、クロナは前方によろけた。
背中の防御ががら空きになる。
「もらった!」
桐谷は直ぐにレイピアを構え直し、神速の突きを放った。
「甘いのよ!!」
それを予見していたクロナは、さらに体重を前に掛け、地面に向かって倒れ込んだ。
レイピアの切っ先が、空を切る。
地面に手を付き、腕を支えにしたクロナは、着物の裾から伸びる細く引き締まった美脚で、桐谷の腕を挟み込んだ。
「おらあっ!!」
脚を絡めて、関節とは逆方向に力を込める。
ミシッと、桐谷の骨が鳴った。
「ちっ!!」
桐谷は苦痛に顔を歪める。
直ぐに、留守になっている左手で、クロナの脚を掴んだ。
「おい、離せよ!!」
だが、クロナは強い力で関節を固めており、微動だにしない。
ミキミキと、桐谷の骨が軋んでいく。
「にゃろぉ!!」
桐谷は顔を真っ赤にして、痛みに耐える。
そして、クロナを腕を巻き付けたまま、地面を踏み込んだ。
「オレの踏み込みを舐めるなよ!!」
ドンッ!!!
桐谷の身体が、まるでロケットのように加速する。
そして、腕にしがみついたクロナの身体を、加速した先にあった木の幹に叩きつけた。
ドンッ!!!
「がはっ!!」
クロナの身体が悲鳴をあげると同時に、衝突した木の幹が粉砕して、破片が飛び散った。
「へっ、女にしがみつかれるのは悪くないけどな」
「舐めるな!!」
お互いに、無理のある体勢から刀と剣を放つ。
ギンッ!!!
金属と金属がぶつかり合い、眩い火花を散らせた。
同士に放たれた斬撃は、お互いの威力を相殺する。
二人は、反発し合う磁石のように弾き飛ばされ、枯れ葉が散乱した地面を転がった。
「ぐっ!」
「ちっ!!」
二人同時に、手をついて立ち上がる。
桐谷は頬に付いた泥を拭い、【甲突剣】を構えた。
「さあ、もっと楽しもうぜ!」
その②に続く
その②に続く




